日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS13] Exploring Variability and Changes in Ocean Biogeochemical Cycles

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:高野 陽平(British Antarctic Survey)、Tjiputra Jerry(Norwegian Research Centre, Bjerknes Centre for Climate Research)、小林 英貴(富山大学理学部)、山口 凌平(海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[AOS13-P07] 北太平洋亜熱帯域における栄養塩収支と地球温暖化への応答の数値解析

*内藤 翼1小林 英貴2天谷 友亮1張 勁2 (1.富山大学、2.富山大学 学術研究部理学系)


キーワード:北太平洋亜熱帯域、地球温暖化、栄養塩収支、海洋大循環モデル

[はじめに]
海洋のリンや窒素などの栄養塩は、一次生産を制約し、生態系を支えるとともに、海洋の炭素循環を通じて気候システムの変化にも関与する。しかし、海洋モデルによる将来予測では、温暖化の進行に伴い、海洋表層の栄養塩濃度が低下することが示唆されている。この栄養塩の減少は、主に成層の強化に伴う鉛直的な栄養塩供給の減少で説明される。しかし、そのメカニズムは海域ごとに異なることが指摘されている。北太平洋亜熱帯域は、世界の漁業生産の約2割を占め、人為起源 CO2 の吸収源であることから、海洋資源の維持や気候変動の緩和において不可欠な海域である。本研究の目的は、北太平洋亜熱帯域を対象に、温暖化に対する海洋物質循環の応答を定量的に評価することである。
[手法]
海洋–海氷結合モデル COCO ver4.0 と海洋物質循環モデルを用いて数値実験を実施した。はじめに、産業革命前の気候条件下でコントロール実験を行った。水温や栄養塩の分布は、観測に基づく海盆スケールの分布の特徴を適切に再現していることを確認した。次に、全球の海上気温を一律に +1~+4℃ 上昇させた温暖化実験を行った(1~4℃実験)。最後に、対象海域を西部、中央部、東部の 3 領域に分割し、温暖化による栄養塩分布の変化とその要因を解析した。
[結果と考察]
コントロール実験の収支解析の結果、北太平洋亜熱帯域の表層では、南北からの水平移流の収束によって栄養塩が供給される一方、鉛直移流によって一部が除去されており、この不均衡が生物生産を支えていることが示された。温暖化実験では、一般に温暖化により表層の栄養塩濃度が低下する傾向にあった。特に、1℃実験と2℃実験の間で大きな変化が見られた。これらの実験の比較において、深層水の形成域である南極周辺海域では、成層の強化により混合層深度が浅くなり、南極底層水を起源とする太平洋の深層循環が弱まっていた。2℃実験では、深層循環の弱化により南極海底層から北太平洋への栄養塩輸送が減少し、それが最終的に表層の栄養塩濃度の低下を引き起こしたと考えられた。こうした栄養塩輸送の減少により、北太平洋亜熱帯域では生物生産が減少することが明らかになった。この生物生産の減少割合は、全球平均と比較して大きく、温暖化の影響をより敏感に受けることが示された。そのため、温暖化が進行すると、対象海域の生態系は、他海域よりも高いストレスを受ける可能性がある。本研究の結果は、局所的な成層の変化による栄養塩輸送の変化にとどまらず、大循環の変化を介した遠隔的な栄養塩輸送の重要性を示している。