日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS14] 陸域海洋相互作用ー惑星スケールの物質輸送

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:山敷 庸亮(京都大学大学院総合生存学館)、升本 順夫(東京大学大学院理学系研究科)、Behera Swadhin(Climate Variation Predictability and Applicability Research Group, Application Laboratory, JAMSTEC, 3173-25 Showa-machi, Yokohama 236-0001)、佐々木 貴教(京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室)

17:15 〜 19:15

[AOS14-P03] バイオーム別自然環境がもたらす心理的影響の比較検証 : Biosphere2実験計画

*森下 至子1山敷 庸亮1、Adams John (1.京都大学大学院総合生存学館)

キーワード:自然環境、能力回復、Biosphere2

現代において、自然環境は単なる資源の供給源にとどまらず、人間の心身の健康と社会的幸福を支える不可欠な基盤として認識されている。世界保健機関(WHO)も「人間の健康と幸福は自然環境に依存しており、それは生物多様性、清潔な空気と水、健全な土壌や食料の供給源である」と述べている。さらに、国際的な公衆衛生上の重要な課題として精神的健康の低下が挙げられており、現行のWHO推計によれば、2030年までにうつ病が世界的な疾病負担の主原因となることが予測されている。このような状況下において、自然環境へのアクセスがもたらす心理的恩恵は、精神的健康の問題に対する有効な対策の一つとして期待されている。こうした動向を受け、近年では各種自然環境が人間の認知機能、情動およびストレス関連生体指標に及ぼす影響について検討する研究が増加している。
特に、自然環境は能力回復と呼ばれる効果を有するとされ、これは注意回復理論(ART: Attention Restoration Theory)およびストレス回復理論(SRT: Stress Recovery Theory)の二つの理論的枠組みに基づいて検証されてきた。注意回復理論は、植物等の自然要素に内在する魅力的な環境要素が、無意識的注意を引きつけることで、意識的注意を要する神経認知システムの休息を促進し、その結果として認知機能が向上すると主張している。この効果は、認知課題の成績向上などを通じて実証されている。一方、ストレス回復理論は、自然環境が迅速なストレス軽減とポジティブな気分変化を引き起こす、リラクゼーション反応を誘発することを示唆している。これらの効果は自己報告式の質問紙調査や、心血管系および唾液によるバイオマーカーの変化を通じて検証されている。
しかしながら、先行研究の多くは、検証対象の自然環境として「グリーンスペース」(森林や公園)および「ブルースペース」(海や湖などの水辺)に焦点を当てており、地球上の主要なバイオーム全体を網羅的に検討した研究は限られている。また、旅費や実験環境の統制といったロジスティックな制約により、多くの研究が実際の環境における没入型体験ではなく、写真やVRを用いた実験室内シミュレーションに依拠している。
そこで本研究では、Biosphere 2 内に存在する「海洋」「砂漠」「サバンナ」「熱帯雨林」の各バイオームにおける実際の滞在を通じて認知機能、気分およびストレス関連生体指標の変動を測定し、これらの異なる環境が人間の心身に与える影響を、主に能力回復の視点から比較検証する。本比較を通じて、各バイオーム固有の特性が人間の健康や幸福に及ぼす影響を明確にし、将来的な都市設計や健康政策の策定に資する知見を提供することを目指す。さらに、本研究の成果は、地球外環境における人類の長期居住に必要な環境要件を検討する際に、単なる生命維持の必要最小条件にとどまらず、心理的幸福および生理的安定の維持に必要な地上環境、すなわち「コアバイオーム」の概念を提案するための基礎的知見となることが期待される。