日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 海洋微生物生態系

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:星野 辰彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、吉澤 晋(東京大学)、Yamada Yosuke(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、座長:星野 辰彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、吉澤 晋(東京大学)、Yosuke Yamada(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

15:30 〜 15:45

[AOS17-07] 高密度サンプリングで解明する黒潮続流域における海洋原核生物の日周期性

★招待講演

*森 香穂1,2、中島 悠3,4長谷川 万純4、富永 賢人1、西野 聡1,2、蒋 春啓2、横川 太一4、鋤柄 千穂5川口 慎介6吉澤 晋1,2 (1.東京大学大学院 新領域創成科学研究科、2.東京大学大気海洋研究所 海洋生態系科学部門、3.海洋研究開発機構 海洋機能利用部門、4.海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門、5.海洋研究開発機構 地球環境部門、6.海洋研究開発機構 SIP海洋統括プロジェクトチーム)


キーワード:日周期変動、海洋原核生物、高密度サンプリング、黒潮続流域観測点、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析

はじめに
海洋生態系を駆動するエネルギーは主に表層から有機物の形で供給される。これらの有機物は有光層に生息する光合成生物によって合成され、その後、従属栄養生物に利用される。海洋では光合成を担うのは植物プランクトンなどの光合成独立栄養微生物であり、彼らは昼夜のリズムに適応しながら生態系へ有機物を供給している。先行研究から、光合成独立栄養微生物の多くが光合成や細胞分裂など様々な代謝に関与する遺伝子の転写量を日周期に応じて変化させることが報告されている。さらに近年では、直接的に光を利用しない従属栄養性の原核生物についても遺伝子発現の日周変動が確認され、海洋表層の微生物群集は環境変化や周囲の微生物の物質生産の変動に応じて同期的に遺伝子発現を調節している可能性が示唆されている。このような海洋における微生物の遺伝子転写の日周性に関する研究は、自動現場採水器を用いて高頻度に海水中のDNA/RNAを採集可能になったことで進展してきた。しかし、先行研究の調査水深の多くは表層に限定されており、海洋における微生物群集の日周変動が、より深層にどの程度波及しているか、といった鉛直的な分布の詳細は不明である。本研究では、特に海洋の有光層において、微生物の活動の日周変動が、どの深度まで存在し、さらにどのような代謝過程が関与するのかを、時空間的高密度サンプリングで得られた試料をもとに解明する。

材料と方法
海水試料は、海洋地球研究船「みらい」MR24-01C航海において、黒潮続流域観測点KEOで2024年2月21日18:00から2月24日18:00までの72時間にわたり、3時間ごとに全12深度(10、30、50、70、90、110、130、150、170、200、250、300 m)で採集した。海水試料は船上で孔径3.0 µmと0.2 µmのポリカーボネートフィルターで連続的に濾過し、それぞれを真核生物、原核生物区分としてDNA/RNA抽出に用いた。また、栄養塩測定および微生物計数用の試料採取、CTDセンサによる環境パラメータの計測、気象データの記録を行った。4深度(10、70、130、200 m)の孔径0.2 µmのフィルター、全100サンプルについて16S rRNAアンプリコンシーケンスを実施し、期間を通した群集構造の時空間構造を解析した。また、2つの時間帯(昼:9時、夜:21時)の12深度、孔径0.2 µmのフィルター、全24サンプルについてメタゲノムシーケンスを実施し、ゲノム配列の特徴と遺伝子組成を調べた。

結果と考察、今後の展望
調査期間中、2日目の夜に低気圧の通過と降雨が発生し、その後、混合層深度の深まりがCTDデータおよび環境パラメータから確認された。この環境変化により、微生物群集構造に軽微な変動が観察されたものの、4つ全水深において明確な日周変動は認められなかった。一方、群集のα多様性は水深とともに上昇し、200 mの群集構造は、表層(10〜130 m)の構造とは大きく異なっていた。特に、昼夜のメタゲノムデータを用いた解析から、酸素濃度や塩濃度の変化が顕著な水深150~170 m付近で、原核生物のゲノム配列の特徴が大きく変化することが明らかになった。今後、メタゲノムデータからの原核生物ゲノムの再構築を行うことで遺伝子領域とその機能を推定し、各水深における原核生物の代謝機能のより詳細な解明を目指す。また、メタトランスクリプトームデータを各遺伝子配列にマッピングすることで遺伝子発現の時間的変動を解析し、原核生物のどのような代謝活動の日周変動が、どの深度まで存在するのかを明らかにする。