日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 海洋微生物生態系

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:星野 辰彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、吉澤 晋(東京大学)、Yamada Yosuke(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、座長:星野 辰彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、吉澤 晋(東京大学)、Yosuke Yamada(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

15:45 〜 16:00

[AOS17-08] 西部北太平洋における水銀の形態変化に関わる微生物の動態

*多田 雄哉1、丸本 幸治1中嶋 亮太2喜多村 稔2武内 章記3小畑 元4 (1.国立水俣病総合研究センター、2.海洋研究開発機構、3.国立環境研究所、4.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:西部北太平洋、海洋微生物、水銀、メチル水銀

水銀は毒性が強い重金属の一つであり、環境中において様々な化学形態で普遍的に存在し地球規模で循環しているため、これらの動態を正確に把握することは環境リスクを評価する上で重要である。海水中で水銀は主に金属水銀、二価水銀、メチル水銀の形態で存在している。特に、メチル水銀は生物濃縮性を有するため、食物網を介して海洋生物に蓄積される。このため、海洋におけるメチル水銀の動態 (生成・分解過程) を明らかにすることは重要な研究課題である。海洋環境中で水銀は海洋微生物の作用によっても化学形態変化を起こすことが知られており、水銀のメチル化、メチル水銀の脱メチル化とそれによる生成する二価水銀の金属水銀への還元過程に深く関与していると考えられている。しかしながら、どのような海域・深度で、どのような微生物がメチル水銀の生成・分解過程に関与しているのかといった情報は未だ稀少である。本研究では、様々な海域における海水中メチル水銀濃度を分析すると同時に、メタゲノム解析並びに定量PCR解析により水銀メチル化、脱メチル化、還元に関与する微生物遺伝子 (それぞれhgcABmerBmerA)の分布を明らかにすることを目的とした。
海水試料は西部北太平洋を対象としたみらいMR21-06 Leg1航海 (東経160-170度、北緯25-36度のエリア) 並びに白鳳丸KH-22-7次航海 (東経155度、北緯0-44度) において採取し、総水銀・メチル水銀分析及びメタゲノム解析を行った。MR21-06 航海で取得した試料の水銀分析の結果、海水中メチル水銀濃度は1000 m~1500 mの深層で増加する傾向(0.27~0.66 pM)が見られた。また、総水銀並びにメチル水銀濃度と見かけの酸素消費量 (Apparent oxygen utilization [AOU]: 微生物の呼吸による酸素消費量の指標) を比較した結果、メチル水銀濃度とAOUとの間には有意な正の相関が見られたことから、これらのメチル水銀は微生物活動に伴って生成されている可能性が示唆された。同様の試料を用いてメタゲノム解析を実施した結果、hgcABmerAmerB遺伝子のrpoB遺伝子(シングルコピー遺伝子の一つ)に対する相対量はメチル水銀濃度が高くなる中深層で上昇する傾向が見られた。また、得られたhgcA及びmerB遺伝子の系統解析を行なった結果、hgcA遺伝子についてはNitrospinaが優占し(全体の67%)、merB遺伝子については、Alphaproteobacteriaが優占(全体の57%)していた。さらに、メタゲノム配列から構築したMetagenome Assembled Genome (MAG)の代謝機能解析を実施した結果、hgcAを有するMAGは亜硝酸還元機能を有し、merB並びにmerAを有するMAGの一部はメタン生成機能を有することが明らかとなり、海洋中における水銀の形態変化は窒素代謝やメタン生成とも関連が深いことが明らかとなった。
得られたNitrospinaに近縁なhgcA配列からプライマーを作成し、KH-22-7次航海で取得した水深5,000 mまでの試料について、定量PCR解析を用いてNitrospina-hgcA遺伝子のコピー数を定量した。その結果、水深500 m~1500 mでNitrospina-hgcAのコピー数が増加する傾向が見られた。加えて、海水中メチル水銀濃度と有意な正の相関が見られたことから、Nitrospina系統群は西部北太平洋における大洋スケールのメチル水銀の濃度分布に強い影響を及ぼしていることが示唆された。