日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋物理学一般

2025年5月26日(月) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、座長:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

10:45 〜 11:00

[AOS18-01] 沖合域及び沿岸域におけるKelvin-Helmholtz不安定のウォーターカラム観測例と三次元数値シミュレーションとの比較

*堀之内 龍一1,2、沖野 真也3、Clarke John2長澤 亮佑1 (1.海上保安庁、2.ニューハンプシャー大学、3.京都大学)

キーワード:Kelvin-Helmholtz不安定、マルチビーム音響測深機、ウォーターカラムデータ、三次元数値計算

流体中のシアー及び密度差に起因する不安定性として、流体の界面に渦列が見られるKelvin-Helmholtz不安定(KH不安定)が存在する。水中におけるKH不安定は、測深データのレイトレーシングを通して有意な測深誤差をもたらし得るだけでなく、鉛直混合に大きく寄与する可能性があるため、水中のKH不安定の振る舞いを詳細に調べることは水路測量、海洋学等の広範な分野において大変有益である。先行研究について、水深100 m以浅の浅海の沿岸域においては河川起源淡水とのシアー及び密度差に起因したKH不安定は度々観測されている一方(Tu et al.、2020等)、水深数百 m程度の中浅海の沖合域においては観測手段が限定的で、シングルビーム音響測深機を用いた先行研究が数例知られているのみである(Chang et al.、2016等)。本発表では浅海の沿岸域及び中浅海の沖合域において、マルチビーム音響測深機(MBES: Multibeam echo sounder)のウォーターカラムデータ(WCD: Water column data)内にKH不安定様の音響異常が捉えられたため、その両観測例を紹介する。特に日本周辺沖合域の例にあっては、理論的予察結果及び三次元数値計算との比較結果を報告する。米国沿岸域の観測例については直近のデータとして速報的に示す予定である。
日本周辺の沖合域における観測データは、2017年に福島県沖東に約30 km の海域において、海上保安庁海洋情報部の測量船「拓洋」により、MBES(EM710S)を用いて取得されたWCDである。また、投下式水温計(T-6)を用いて水温プロファイルを、多層音波流速計(Ocean Surveyor 150 kHz)を用いて流速プロファイルを取得している。理論的予察として、流速シアーを有する密度成層系であるRayleigh-Taylor-Kelvin-Helmholtz不安定系における線形安定論と、現場海域において取得した水温プロファイル及び流速プロファイルを用いて、臨界波長及び位相速度を算出し、その値とMBESのWCDに観測された音響異常のパターンを比較した。さらにSmyth(1999)を参考に、三次元密度成層系におけるシアー不安定の簡易的な数値計算を行った。観測の結果は、測線と測線直行方向のパイチャート、測線方向の鉛直断面、測線方向の等水深面の三次元的音響画像として可視化された(長澤・堀之内、2023)。本データ中には海底上20 m付近に二重の波が互いに絡みつくようなパターンが見られ、KH不安定の波面が測線直交方向とほぼ平行であることが容易に見てとれた。これらのパターンは船体動揺等に連動したノイズではなく、海水密度構造に起因している可能性があることがわかる。理論的予察として、KH 不安定の臨界波長と位相速度を、線形安定論とWCDからの推算という2種類の方法で算出して比較したところ、音響画像内に観測された音響異常はKH不安定の線形安定論とコンシステントであると示唆された。また、観測された水温及び流速の値を参考にした三次元数値計算結果ではKH不安定が再現された。観測により可視化された測線と測線直交方向のパイチャート、測線方向の鉛直断面、測線方向の等水深面それぞれと比較しても、両者の形状は類似していることから、MBESのWCDを用いた音響観測は海中の海洋物理学現象の三次元的な特徴を捉えることに有用であることがわかる。発表では、海洋物理学的現象の可視化を目的とした、MBESを用いたWCD音響観測の際の適切な観測諸元や観測上の制限についても議論する予定である。さらに、発表ではKH不安定様音響異常のWCDを用いた直近の観測例として、米国ニューハンプシャー州及びメーン州境界付近浅海の沿岸域におけるデータも紹介する。