日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] 温暖化時の海面上昇と沿岸地域への影響

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鈴木 立郎(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、中野 英之(気象研究所)、森 信人(京都大学防災研究所)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[AOS19-P04] 日本沿岸の高潮統計ダウンスケーリングの性能評価

*尾形 太一1佐々木 克徳1 (1.北海道大学)


キーワード:統計的ダウンスケーリング、沿岸水位、CMIP5

地球温暖化による沿岸水位の将来変化の理解は、沿岸水位の上昇が沿岸域の環境や社会に大きな影響を与えるため重要である。地球温暖化の引き起こす沿岸水位の将来変化は長期的な上昇のみならず、高潮などの数日以下の時間スケールの変動についても予想される。沿岸水位の短期変動の将来変化を把握する有効な方法の一つに統計ダウンスケーリングがある。本研究では観測データで沿岸の日最大水位を推定するよう訓練された統計モデルが、気候モデルが計算した日最大水位偏差をどの程度正しく推定できるかを調査した。まず、日本沿岸の9検潮所について、検潮所ごとに、2つの統計モデル(線形重回帰とランダムフォレスト)を日最大水位偏差、月平均水位偏差の観測値と大気再解析データで学習した。次に、超高解像度海洋モデル (FORP; Nishikawa et al., 2021) で計算された日最大水位偏差と、この海洋モデルと同じ大気データ、月平均水位偏差を与えた上述の統計モデルの推定した日最大水位偏差を比較し、統計モデルの性能を評価した。
 統計モデルの学習は、再解析データJRA-55 の日々の大気値(海面気圧、総降水量、および10mの東西および南北風速)から季節成分を除去したものに対して、経験的直交関数(EOF)解析を適用した。期間は1958年から2020年、領域は学習する検潮所を中心とした8°×8°の領域である。また、検潮所で観測された毎時潮位は潮汐とトレンドを差し引いたうえで、1991年から2015年の平均からの偏差として、月平均水位偏差と日最大水位偏差を計算した。次に、EOF時系列および観測の月平均水位偏差を予測変数、日最大水位偏差を被予測変数として、統計モデルの学習を行った。統計モデルの性能は、4つのCMIP5モデルから作成された大気データを外力として計算されたFORPのRCP8.5実験(2086年から2100年)およびHistorical実験(1991年から2005年)のデータを用いて検証した。各潮位計の観測地点について、JRA-55から計算したEOF 空間構造にFORPの各大気変数を投影することで、大気のEOF時系列を計算した。次に、大気の時系列と月平均水位偏差を統計モデルに与え、日最大水位偏差を推定した。これらの推定された日最大水位偏差を FORP から得られた日最大水位偏差(日平均海面水位偏差を補正)と比較し、統計モデルの推定性能を評価した。
 統計モデルとFORPの日最大水位偏差の比較の結果、両者の相関係数は検潮所、FORPの外力を計算した気候モデル、期間および手法のすべての組み合わせにおいて0.7を超えていた(図1a)。また、両者の間の根平均自乗誤差(RMSE)は1.93~5.17cmだった(図1b)。そして、このRMSEをFORPの日最大水位偏差の標準偏差で割る(RMSE/SD)と1未満であり(図1c)、誤差はFORPの日最大水位偏差の振幅を下回った。したがって、両統計モデルとも日最大水位偏差をよく再現していた。次に、日最大水位の極大イベントについて統計モデルの推定精度を調べるために、極値として日最大水位の90パーセンタイル以上の値に着目し比較した。FORPと統計モデルが推定した日最大水位の極値の間のRMSEは0.30cm~4.61cmであり、輪島検潮所での線形重回帰の結果を除き過小評価していた。このRMSEをFORPの日最大水位の標準偏差で割ると、線形重回帰およびランダムフォレスト双方においてすべての検潮所で1を下回り、誤差はFORPの日最大水位偏差の振幅を下回った。したがって、統計モデルは極値の振幅をよく再現した。また、気候モデルおよびHistorical実験、RCP8.5実験にわたって平均したRMSE/SDは、柏崎を除くすべての検潮所で線形重回帰の方がランダムフォレストより小さい。したがって、極値の振幅を評価する上では、線形回帰モデルの方がランダムフォレストよりも精度が高い。このように本研究は日本沿岸において、観測データで学習した統計モデルが気候モデルにおける日最大水位を高い精度で推定できることを明らかにした。将来的にはこの統計モデルをCMIP6データに適用することで、多くのシナリオや気候モデル出力において日本沿岸の日最大水位を推定することが可能になる。この推定を用いて、高潮の将来変化および不確実性とそれのシナリオごとの違いを明らかにすることが可能になる。