日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS21] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2025年5月26日(月) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:永井 平(水産研究教育機構)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、日髙 弥子(鹿児島大学)、牛島 悠介(愛媛大学)、座長:中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、日髙 弥子(鹿児島大学)

15:45 〜 16:00

[AOS21-08] 房総沖陸棚域において河川水と陸棚下層水がクロロフィルa分布に与える影響

*伊藤 幸彦1堤 英輔2増永 英治3高橋 杏1中島 壽視1柳本 大吾1村上 喬史1、田中 雄大4、増田 貴子5長谷川 大介5 (1.東京大学大気海洋研究所、2.鹿児島大学水産学部、3.茨城大学地球・地域環境共創機構、4.長崎大学総合生産科学研究科、5.水産研究・教育機構水産資源研究所)

キーワード:陸棚、栄養塩輸送、湧昇、鉛直混合、利根川、黒潮

日本列島の陸棚域は、西岸境界流や沿岸流の影響を強く受け、河口・内湾域と外洋が活発に相互作用している。陸棚域の生物生産は外洋域より高いと考えられているが、それを支える栄養塩がどのようにもたらされているかは明らかではない。本研究グループでは、学術変革領域「マクロ沿岸海洋学」のもと、沿岸域の生産に関わる物質の循環・混合過程解明に取り組んでいる。本研究では、陸棚上の水温・塩分およびクロロフィルa分布に河川水と陸棚下層の水塊がおよぼす影響を明らかにすることを目的とし、房総沖で実施された学術研究船新青丸航海により得られた観測データの解析を行った。
用いたデータは、2019年から2024年までの12回の航海で得られた表層環境モニタリング装置による航走中の連続観測データと、2021年から2024年までの5回の航海において銚子沖で実施されたunderway CTD (UCTD) 断面観測データである。表層環境モニタリング装置のデータは季節ごとに分け、塩分とクロロフィルa蛍光データを解析した。UCTD観測は、銚子沖の水深約50 mから南東もしくは東向き約35 kmのトランセクトで実施され、海面から海底直上までの水温、塩分、溶存酸素、クロロフィルa蛍光、濁度プロファイルを水平解像度約は0.5–1.5 kmで取得した。本研究ではこのうち水温、塩分およびクロロフィルa蛍光の解析を行った。
表層環境モニタリング装置で計測された塩分は、水深50–200 mの陸棚域において33.7–34.6を中心に32.0–34.7の範囲に分布していた。低塩分水が出現したのは主に夏〜秋季であり、一部はクロロフィルaの高まりを伴っていた。しかし、季節ごとにデータをまとめると、塩分とクロロフィルaの間に明確な関係性は見られなかった。UCTD観測線はいずれの観測も黒潮前線を捉えていた。UCTDのクロロフィルaは陸棚上で高い傾向があったが、沖合でより高くなっているケースもあった。衛星クロロフィル画像から、沖合側で高濃度になるのは、房総沿岸から高クロロフィル濃度の水塊が引き込まれたことによると考えられた。UCTD観測において高クロロフィルaが観測された水塊は必ずしも低塩分ではなく、黒潮系の水塊性質に近いケースもあった。一方、陸棚域において、黒潮〜黒潮続流域で亜表層に位置する25.0–25.5 σθの密度面の深さは航海ごとに大きく異なっており、浅い時にクロロフィルaが大きく高まる傾向があった。
表層環境モニタリング装置およびUCTDの観測結果から、陸棚域において河川水に含まれる栄養塩が直接海域の生産を高めているわけではないことが示唆される。UCTD観測で捉えられた25.0–25.5 σθの密度面の浅化は湧昇が起きたことを示唆しており、この湧昇が陸棚底層の栄養塩を有光層にもたらすことにより低次生物生産を励起していると考えられる。房総沖は恒常的な湧昇域ではないため、陸棚域で平均的に高い生産をもたらすためには陸棚底層への栄養塩の蓄積や、鉛直混合等による底層から中層、中層から表層への段階的な栄養塩輸送が役割を果たしている可能性がある。本JpGU2025大会では、本研究のほかに内部潮汐 (増永ほか)や大振幅の内部孤立波 (高橋ほか)、陸棚上の間隙水からの物質溶出 (中島ほか)、利根川プリュームの構造と混合(村上ほか; 山家ほか)についても発表を予定している。