日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS21] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2025年5月26日(月) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:永井 平(水産研究教育機構)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、日髙 弥子(鹿児島大学)、牛島 悠介(愛媛大学)、座長:中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、日髙 弥子(鹿児島大学)

16:30 〜 16:45

[AOS21-11] 有明海における貧酸素水塊の発生予測シミュレーション

*山口 創一1、葉山 修平1 (1.九州大学総合理工学研究院)

キーワード:貧酸素水塊、集中豪雨、有明海、数値生態系モデル

有明海は九州の北西部に位置する九州最大の半閉鎖性内湾である.有明海において発生する環境問題の一つが夏季の貧酸素水塊(本研究では溶存酸素(DO)濃度<3.0 mg/L)の発生であり,アサリや赤貝をはじめ,海洋生物の生存を脅かし,養殖業にも深刻な被害をもたらしている.経年的にその深刻化も報告されている(Hayami and Fujii, 2017).有明海奥部の貧酸素水塊は1週間以内という短い時間スケールで急速に発達するため(徳永ら, 2011),現地では対策が遅れがちとなり,被害が拡大する.そのため持続可能な漁業生産の実現に向けて,1週間スケール程度の近未来における貧酸素水塊発生予測が求められている.発生予測については,夏季に定常的に貧酸素化するような他の沿岸域で、現況推定や長期的な発生予測が行われてきた(例えば, Andrew et al., 2019 ; Miki et al., 2025).しかしながら,有明海奥部に見られるような短期間に急速に発達する貧酸素水塊の発生予測を試みた研究はほとんど存在しない.そこで本研究では,高解像度に近未来の沿岸海洋環境を予測する海陸結合モデルUCHI(Unstructured Coastal model with High-resolution Information)に数値生態系モデルを結合し,近未来のDO濃度の変動予測,とりわけ貧酸素水塊の発生予測の実現可能性について検証した.
 数値モデルには海洋モデルFVCOM(Finite Volume Community Ocean Model, Chen et al., 2006)を採用し,外海条件にDreams_Ep(Hirose et al., 2005),淡水流入量評価に降雨流出氾濫モデルRRI(Rainfall Runoff Inundation model,佐山・岩見, 2014), 気象条件に解析雨量,降水短時間予報,メソ数値予報モデル(MSM)および全球数値予報モデル(GSM(日本域))を用いた.DO濃度を計算するため,低次生態系モデル(Yamaguchi and Hayami, 2018)をUCHIに実装した.2024年7月29日に沿岸4県の関係諸機関(調査概要は徳永ら(2024)を参照)と共同で貧酸素水塊の発生状況を調査し,大規模な貧酸素水塊の発生を確認した.本研究ではこの貧酸素化をターゲットとして,ハインドキャスト計算(HC)を実施すると共に,HCによる結果を初期値として,各種境界条件を予報値に切り替えたフォアキャスト計算(FC)を6日前から1日前までの6ケース実施した.
 HCでは、干潟域で観測値に比べてDO濃度が低く計算されたものの,2024年7月29日に観測された有明海奥部から諫早湾にかけた深刻な貧酸素水塊の発生(最低DO濃度は1.0mg/l以下)の再現に成功した.HCの結果によると,この貧酸素化は1週間以内という短時間で形成されていた.河川水量増加に伴って形成された強い塩分躍層下で貧酸素化が再現されており,現地観測と同様の様相を示した.HCを初期値としたFCの適用の結果,1日前から5日前での発生予測が可能であることが示された.一方で6日先予測では,GSMによる風予報が過大評価していた影響で,密度成層が浅海域を中心に崩壊し,貧酸素水塊の発生予測精度が低下した.今後,より長期の発生予測を行うには,FCに与える気象予報値について,再考することが必要であることが示唆された.