日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG02] 岩石生命相互作用とその応用

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、西原 亜理沙(国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター )

17:15 〜 19:15

[BBG02-P05] 日本海東縁の表層型メタンハイドレート存在下堆積物中における微生物メタン生成活性

*鈴木 庸平1吉岡 秀佳2戸丸 仁3、松本 良4 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 、3.千葉大学理学部地球科学科 、4.明治大学 ガスハイドレート研究所)

海底下におけるメタンハイドレート形成には, 微生物起源または有機物の熱分解起源のメタンの供給が寄与する. メタンの起源についてはメタンの炭素と水素の安定同位体比,エタン(C2)+プロパン(C3)に対するメタン(C1)の比を指標に分類するのが一般的である. その分類に基づくと, 世界中の海底下に存在する多くのメタンハイドレートは, サイトにより起源の差が見られ,メタンハイドレートの形成過程の理解のためには, 胚胎域における堆積物中の微生物活動の理解が重要である.

海底下の浅部で塊状に形成する表層型メタンハイドレートは, 深部の砂層で形成する孔隙充填型と異なり, 厚いハイドレート層や炭酸塩クラストの存在により, 微生物汚染の少ないピストンコアによる堆積物採取が困難である. 表層型メタンハイドレートの形成に関わる微生物を調べるには, ロータリーコアバレルを用い, 掘削流体からの汚染を評価する必要がある. 汚染評価は掘削泥水にトレーサー物質を添加し, 採取した試料のトレーサー濃度を測定することにより行われる. 従来は汚染評価を行うのが操作の複雑さや濃度測定の精度により正確な汚染評価が困難であったが, 2014年に最上トラフで行われた掘削航海では易溶性な蛍光物質であるアミノG酸を代替のトレーサー物質として添加し掘削を行い, 掘削流体中の濃度を一定に保ち, 汚染の度合いを微生物10細胞レベルで汚染評価することを可能にした.

本研究では微生物による表層型メタンハイドレート形成の実態を解明するために, 2015年に掘削航海を実施して試料を採取した. この航海は, 日本海東縁の上越海盆と隠岐トラフのメタンハイドレート胚胎域で行われ,ピストン式とロータリー式のコアリングツールを組み合わせて掘削が行われた. その際, 先述した手法を用い試料への汚染度合いを見積もった. また得られた堆積物試料について, 放射性同位元素を用いた炭酸還元, 酢酸分解メタン生成活性の測定や, メタン生成活動に影響を与える環境因子の測定を行った. 微生物分析には、隠岐トラフで5地点(K01R~K04R, K06R)と上越海盆は海鷹北部のJ05R, J07RB, J08R, J10R, J11R, J13Rおよび海鷹中部の26Rから採取された試料(深度は海底から4.0から84.7 m)用いた。

放射性同位炭素を用いたメタン生成活性の測定の結果, 炭酸還元経路(3×10-1~6 pmol/cm3/day)は酢酸分解経路(6×10-6~3×10-2 pmol/cm3/day)に比べ1000倍程度高い値が得られた. 隠岐では30 mbsf(meters below sea floor)より浅部で2 pmol/cm3/day以上の比較的高い活性が得られ, 上越では逆に50 mbsfより深部で高い活性が出る傾向が見られた. 酢酸分解メタン生成は, メタン生成に必要な基質である酢酸濃度との相関が見られ, 上越の深部で高い値であった. 上越海盆では深部からの物質のフラックスが示唆されており, 酢酸等の基質や熱分解性メタンの深部からの供給によって, 表層の塊状ハイドレートの形成や深部の高い活性が説明されると考えられる. 隠岐の高い活性が得られた浅部ではC/N比が小さく, 炭素同位体比が軽い傾向が見られたため, 供給される有機物の質の差がメタン生成に影響を与えていると考えられる.

メタン生成活動は通常, 硫酸-メタン境界(sulfate-methane interface: SMI)より下部で行われ, 境界の深度は下部からのメタンのフラックスで決まる. 隠岐トラフの海底面付近でハイドレートが形成しないサイトではSMIは深く, ハイドレートが海底面付近で形成するサイトでは5 mbsfより浅かった. また, 今回得られた隠岐の浅部でのメタン生成速度では, 仮に海底面付近で形成したとすると, 隠岐で得られたコア中に存在するメタンハイドレートの量を説明することはできず, 隠岐においても深部からの物質供給の存在を示唆した. いずれの海域でも表層型ハイドレートの形成には深部からのメタンの供給が必要であり, その供給に微生物のメタン生成活動も影響を受けると考えられる.

本研究で使用した試料は,経済産業省メタンハイトドレート開発促進事業の一環として,産業技術総合研究所から明治大学への再委託(2015年度)により実施された調査で採取したものです.関係者に御礼申し上げます.