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[BCG06-01] 地球史を通じた堆積岩の独立成分分析:海洋栄養塩濃度と生命の共進化
キーワード:独立成分分析、縞状鉄鉱層、海洋栄養塩、生命進化
地球表層環境と生命の進化の関連性を明らかにすることは,地球史解読において最も重要な課題の一つである.特に,生命活動は海洋環境の変化と関連していると考えられるため,古海洋組成の推定は生物史や地球環境の進化を理解する上で必要不可欠である.一般に原核生物は真核生物に比べて,CuやZnを含む酵素より,NiやCoを含む酵素を用いる割合が高い.このような生物進化が生物の内在的要因によるのか,それとも外因的要因に惹起されたのかについては多くの議論があり,それを明らかにすることが生命進化を解読することにつながると考えられる.そこで,本研究では外的要因の一つとされる海洋栄養塩濃度の経年変化に着目する.
海洋栄養塩濃度を推定する方法としてモデル計算と岩石試料の化学分析が挙げられる.Anbar et al. (2008)は水溶液中の微量元素の溶解度モデルに基づき,海洋中の微量元素濃度の経年変化を示した.しかし,そのモデル計算で用いられた海洋の酸化還元状態,硫化物イオン濃度および大気酸素濃度については議論があるため,それに立脚した計算の妥当性は大いに問題がある.そこで,地質記録に基づく実証的な研究が必要である.
地質試料を用いた研究では,化学沈殿岩が海洋中の微量元素濃度推定に用いられ,特に海洋組成を反映していると考えられている鉄酸化物を主体とする縞状鉄鉱層(BIF)がしばしば使われる.Konhauser et al.(2009)は38から27 億年前のBIFが高いNi/Fe比を持つことから,当時の海洋が現在に比べてNiに富んでいたと推定した.そして,新太古代の海洋Ni濃度の低下がNiを含むメタン生成補酵素 F430 を必須とするメタン生成菌の衰退と酸素発生型光合成生物の相対的な繁栄を引き起こし,大気酸素濃度の増加をもたらしたとした.この仮説は酸素発生型光合成生物が大酸化イベント前に出現したにもかかわらず,大気酸素の増加に至らなかったことを説明できるが,その根拠となったデータに関しては多くの問題がある.一般に,BIFは鉄酸化物だけでなくNiに富む陸源や火砕性の砕屑物を多く含む.また,鉄堆積物を形成した主要鉱物は鉄水酸化物であり,BIF中の主要鉱物である鉄酸化物は続成由来鉱物であるため,続成作用時の元素移動についても考慮する必要がある.しかし,先行研究では,それらの影響が十分に考慮されていない.Aoki et al.(2018)はZr濃度を砕屑物量の指標として,鉄酸化物端成分のNi/Fe比を推定する手法を提案した.しかし,混入成分が陸源や火山性砕屑物など複数であった場合,鉄酸化物端成分と混入成分の混合線が一意にならないため,この方法では鉄酸化物端成分の組成を定量的に決めることはできない.
本研究では太古代から新原生代までの8つの時代のBIFを対象に独立成分分析(ICA)を適用し,それぞれのBIF中の各混合物質の起源と化学組成の推定,および鉄水酸化物端成分の化学組成の推定を試みた.ICAは非正規分布を前提とし,試料間の独立成分を抽出する統計解析手法であり,鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物の各組成の推定に適す.また本研究では,SiO2量100%かつ他の元素を含まない仮想成分を追加することでベクトルの始点を補正した.その結果,各試料のデータセットからFeO,MgO+CaOおよびTiO2+Al2O3に富む成分を抽出し,それぞれが鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物に対応すると解釈した.さらに砕屑物成分はFe+Mg,P, Ba量および希土類元素などの化学的特徴によって5~7種の起源に分けられた.鉄水酸化物成分のNi, CoおよびCr量は,39~30億年前に高く,25億年前に一時的な増加が見られるが,30から22億年前の間徐々に減少し,スターチアン全球凍結後に再び急増加した.一般に,これらの元素は鉄水酸化物に吸着した成分であると考えられているので,地球史を通じてそれらの吸着率が大きく変化しなかったと仮定すると,鉄水酸化物成分のこれらの元素濃度の変動は海洋のこれらの元素濃度の経年変化であると解釈しうる.そのため,海水のNi, CoおよびCr量は39~30億年前に高く,25億年前に一時的に増加したが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結時に再上昇したと考えられる.このような変化は,海洋の酸化還元度と熱水活動の変化によると考えられ,39~30億年前の高いNi, CoおよびCr量は,還元的海洋,活発な海洋底熱水活動および高いCO2量による強い珪化作用が原因であったと考えられる.30億年前以降の減少は珪化作用の低減によると考えられる.そして,25億年前の一時的増加は,この時代に縞状鉄鉱層が広く分布することから,熱水活動が活発になったことによると考えられる.大酸化イベント後の22億年前の低い元素量は海洋の酸化によると考えられる.また,スターチアン全球凍結後の高い元素濃度は、全球凍結時の海洋貧酸素化とその後の急激な浅海の酸化によるマンガンシャトルによって,新原生代の深海がこれらの元素に非常に富んでいたためであると考えられる.
本研究で得られた海洋組成の進化は,生物の微量元素の利用と調和的であることから,生物進化は外的要因によって促進されたことが示唆される.
海洋栄養塩濃度を推定する方法としてモデル計算と岩石試料の化学分析が挙げられる.Anbar et al. (2008)は水溶液中の微量元素の溶解度モデルに基づき,海洋中の微量元素濃度の経年変化を示した.しかし,そのモデル計算で用いられた海洋の酸化還元状態,硫化物イオン濃度および大気酸素濃度については議論があるため,それに立脚した計算の妥当性は大いに問題がある.そこで,地質記録に基づく実証的な研究が必要である.
地質試料を用いた研究では,化学沈殿岩が海洋中の微量元素濃度推定に用いられ,特に海洋組成を反映していると考えられている鉄酸化物を主体とする縞状鉄鉱層(BIF)がしばしば使われる.Konhauser et al.(2009)は38から27 億年前のBIFが高いNi/Fe比を持つことから,当時の海洋が現在に比べてNiに富んでいたと推定した.そして,新太古代の海洋Ni濃度の低下がNiを含むメタン生成補酵素 F430 を必須とするメタン生成菌の衰退と酸素発生型光合成生物の相対的な繁栄を引き起こし,大気酸素濃度の増加をもたらしたとした.この仮説は酸素発生型光合成生物が大酸化イベント前に出現したにもかかわらず,大気酸素の増加に至らなかったことを説明できるが,その根拠となったデータに関しては多くの問題がある.一般に,BIFは鉄酸化物だけでなくNiに富む陸源や火砕性の砕屑物を多く含む.また,鉄堆積物を形成した主要鉱物は鉄水酸化物であり,BIF中の主要鉱物である鉄酸化物は続成由来鉱物であるため,続成作用時の元素移動についても考慮する必要がある.しかし,先行研究では,それらの影響が十分に考慮されていない.Aoki et al.(2018)はZr濃度を砕屑物量の指標として,鉄酸化物端成分のNi/Fe比を推定する手法を提案した.しかし,混入成分が陸源や火山性砕屑物など複数であった場合,鉄酸化物端成分と混入成分の混合線が一意にならないため,この方法では鉄酸化物端成分の組成を定量的に決めることはできない.
本研究では太古代から新原生代までの8つの時代のBIFを対象に独立成分分析(ICA)を適用し,それぞれのBIF中の各混合物質の起源と化学組成の推定,および鉄水酸化物端成分の化学組成の推定を試みた.ICAは非正規分布を前提とし,試料間の独立成分を抽出する統計解析手法であり,鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物の各組成の推定に適す.また本研究では,SiO2量100%かつ他の元素を含まない仮想成分を追加することでベクトルの始点を補正した.その結果,各試料のデータセットからFeO,MgO+CaOおよびTiO2+Al2O3に富む成分を抽出し,それぞれが鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物に対応すると解釈した.さらに砕屑物成分はFe+Mg,P, Ba量および希土類元素などの化学的特徴によって5~7種の起源に分けられた.鉄水酸化物成分のNi, CoおよびCr量は,39~30億年前に高く,25億年前に一時的な増加が見られるが,30から22億年前の間徐々に減少し,スターチアン全球凍結後に再び急増加した.一般に,これらの元素は鉄水酸化物に吸着した成分であると考えられているので,地球史を通じてそれらの吸着率が大きく変化しなかったと仮定すると,鉄水酸化物成分のこれらの元素濃度の変動は海洋のこれらの元素濃度の経年変化であると解釈しうる.そのため,海水のNi, CoおよびCr量は39~30億年前に高く,25億年前に一時的に増加したが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結時に再上昇したと考えられる.このような変化は,海洋の酸化還元度と熱水活動の変化によると考えられ,39~30億年前の高いNi, CoおよびCr量は,還元的海洋,活発な海洋底熱水活動および高いCO2量による強い珪化作用が原因であったと考えられる.30億年前以降の減少は珪化作用の低減によると考えられる.そして,25億年前の一時的増加は,この時代に縞状鉄鉱層が広く分布することから,熱水活動が活発になったことによると考えられる.大酸化イベント後の22億年前の低い元素量は海洋の酸化によると考えられる.また,スターチアン全球凍結後の高い元素濃度は、全球凍結時の海洋貧酸素化とその後の急激な浅海の酸化によるマンガンシャトルによって,新原生代の深海がこれらの元素に非常に富んでいたためであると考えられる.
本研究で得られた海洋組成の進化は,生物の微量元素の利用と調和的であることから,生物進化は外的要因によって促進されたことが示唆される.