日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 微化石生物学の最前線

2025年5月27日(火) 09:00 〜 10:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、氏家 由利香(高知大学)、野牧 秀隆(海洋研究開発機構)、座長:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、野牧 秀隆(海洋研究開発機構)、氏家 由利香(高知大学)

10:00 〜 10:15

[BCG07-05] 堆積物記録からみたプランクトンの遺伝的多様性の変遷・侵入定着要因

*槻木 玲美1、橋本 鯨2、中根 中根2、本庄 三恵3、内井 喜美子4 (1.松山大学、2.愛媛大学、3.京都大学、4.大阪大谷大学)

キーワード:堆積物DNA、遺伝的多様性、動物プランクトン、外来種、琵琶湖、生物間相互作用

生物観測の新たな手法として知られる環境DNAの解析手法は、いまや行政機関に採用されるほど発展を遂げ、その勢いは堆積試料に残る堆積物DNA技術の進展にも及んでいる。現在、これまで復元が難しかった多様な種の長期復元が堆積物DNAを用いて精力的に進められている。本研究では、世界有数の古代湖として知られる琵琶湖を対象に、新たなプランクトン種である外来種の侵入定着過程と定着成功の要因について遺伝的多様性の変遷を加味して明らかにすることを目的とし、顕微鏡観察・DNA解析を駆使して解析した結果を報告する。
 2022年、多様な生き物を回復させていくための世界目標が新たに採択され、新天地への外来種の侵入と定着率の半減が喫緊の課題の一つとなっている(環境省:昆明・モントリオール生物多様性枠組の概要)。この目標達成のためには外来種が新天地でどのように侵入・定着に成功したのか、その要因解明が大きな課題となっている。しかし、多くの場合、侵入初期から外来種の存在を把握するのは困難で、定着に至る過程は不明瞭で定着要因を明らかにすることは困難な場合が多い。
 湖沼生態系の重要な構成要素である、動物プランクトンのミジンコ(Daphnia)は堆積試料中に殻の一部の尾爪が長い期間残存することから、試料に残る尾爪を計測することで過去の個体数推定が可能な生物である(Verschuren and Marnell 1997)。さらにミジンコは堆積試料に休眠卵(卵鞘)が残るため、休眠卵を用いて過去の遺伝情報を取得することができる。そこで本研究は、琵琶湖に1990年代に侵入した外来種のプリカリアミジンコ(Daphnia pulicaria)を対象に、本種がどのような要因で定着に成功したのか、その要因を明らかにするため侵入時期から現在までの堆積試料に残る休眠卵を用いて、高変異領域のミトコンドリアDNAコントロール領域の遺伝子解析を行った。さらに、先行研究により明らかになっている個体数(尾爪)の結果(Tsugeki et al. 2022)を基に定着要因に関する生物抵抗仮説と天敵解放仮説を検証した。すなわち、プリカリアミジンコの定着要因は、競争種である在来種のカブトミジンコ(Daphnia galeata)との関係を解析し、競争相手との侵入阻害作用の減少により定着した可能性(生物抵抗仮説)と主要なプランクトン食魚であるアユ(Plecoglossus altivelis)の漁獲データを用いて、天敵からの捕食圧減少により定着できた可能性(天敵解放仮説)を検証した。
 侵入当初の1990年代から現在の堆積層に含まれる休眠卵および現在、生息している現存のミジンコ個体のミトコンドリアのコントロール領域の解析を行った結果、DNA塩基配列情報が得られた総計104サンプル(休眠卵64, 現存個体45)は、全て同じ配列で北米の系統に近縁であることが判明した。定着要因についてさらに検証した結果、プリカリアミジンコの現存量が、競合相手であるカブトミジンコとは有意な関係は得られず、捕食者のアユの現存量とは有意な負の関係にあることが判明した。つまり、生物抵抗仮説ではなく、捕食圧減少による天敵解放仮説を支持する結果が得られた。琵琶湖では主要なプランクトン食魚類のアユが1990年代より減少傾向にあることから、プリカリアミジンコは遺伝的多様性が非常に低いにもかかわらず、捕食圧が低いため定着に成功したと推察された。これらの結果から、プランクトン食魚が減っている湖沼は、ミジンコの侵入に非常に脆弱であることが示唆された。

参考文献:Brede et al. (2009) PNAS 106: 4758-. Verschuren and Marnell (1997) Transactions of the American Fisheries Society 126:21-, Tsugeki et al. (2022) Scientific Reports 12:1741.