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[BCG07-06] 浮遊性有孔虫遺伝子型の殻形態による分類

キーワード:Pulleniatina obliquiloculata、隠蔽種、形態計測、遺伝子型、浮遊性有孔虫
浮遊性有孔虫は,炭酸塩の殻を形成し,殻の様々な形態的特徴に基づいて分類されてきた.これら形態種は,豊富な化石記録を持つだけでなく,地理的分布や生態に特徴があるため,過去・現在の海洋環境の指標として使用されている.しかし分子系統解析によって,1つの形態種に複数の遺伝的に異なる種(遺伝子型)が含まれ,各々の遺伝子型が特異な地理的分布と生態的特徴を示すことが明らかになってきた.さらに,遺伝子型別に殻の形態を精査すると,これまで使用されてきた形態分類方法には,形態的可塑性と種ごとの形質が混在している可能性も示唆され,形態分類法の見直しが必要である.また,遺伝子型ごとの形態形質が明確になることで,遺伝子型レベルでのより精確な生態情報を,DNAの採取ができない化石個体へ適用し,過去の海洋環境変動を検証する指標として応用が可能となる.そこで本研究では,世界的な規模で分子系統地理解析が行われ,遺伝子型の系統関係や地理的分布が分かっている浮遊性有孔虫 Pulleniatina obliquiloculataに着目し,形態計測法による殻形態の定量評価によって,3つの遺伝子型(Type I,IIa,IIb)の形態形質を検出し,分類方法を確立することを目的とした.太平洋赤道域と土佐湾の2海域から採取した生体個体を用いた.殻を保存できるDNA抽出法によって同一個体からDNAと殻試料の双方を得た.まず,DNA試料から制限酵素断片長多型(RFLP)法と分子系統解析によって,SSU rDNA部分配列から全研究個体の遺伝子型を同定した.次に,殻試料の形態を,デジタルマイクロスコープとマイクロフォーカスX線CT撮影を用いて計測し,形態の数値データを作成した.それら数値データを統計解析し,異なる海域で採取した同種(同一遺伝子型)の個体群を比較することで種の形態的多様性を画分し,種ごとの形態的特徴を示すパラメータを構築した.
RFLP解析と分子系統解析の結果,太平洋赤道中央部ではType Iが34個体,Type IIaが68個体,土佐湾ではType Iが19個体,Type IIbが150個体と,各々2つの遺伝子型が同定された.二次元・三次元形態計測値から殻形態を表す8つのパラメータを構築し,2つの海域間で共通して産出するType Iの個体群間で比較したところ,殻サイズと殻上のポアの形態を示す4つのパラメータについて有意差が認められた.これらの違いは,生息海域の水温や溶存酸素濃度と関係した代謝による形態的可塑性である可能性が示唆された.一方,他4つのパラメータ(1)殻の外形,(2)アパーチャーの扁平率,(3)アパーチャーサイズ,(4) 殻厚は,個体群間で違いはなく,遺伝子型間で有意差が認められた.Type IIbは他の2遺伝子型と(1)~(3)で有意差が認められ,3遺伝子型間では(4)で有意差が認められた.このように,(1)~(3)のパラメータから,Type IIbはType I, IIaと比べて,殻の外形は縦長で,アパーチャーは大きくかつ縦に開くという形態的特徴を持つことが示唆された.また,(4)のパラメータから,殻厚はType IIa,I,IIbの順に厚い殻を形成していることが示された.このように,P. obliquiloculata の成体の遺伝子型は,殻の外形,アパーチャーの形状や大きさ,殻厚を表す4つの形態パラメータを組み合わせることで,殻形態によって分類できることが示唆された.本研究で確立した形態パラメータによって,化石個体の遺伝子型を同定することが可能となり,地球環境変動に伴う遺伝子型分化やそれらの分布拡大プロセスの解明に発展することが期待される.
RFLP解析と分子系統解析の結果,太平洋赤道中央部ではType Iが34個体,Type IIaが68個体,土佐湾ではType Iが19個体,Type IIbが150個体と,各々2つの遺伝子型が同定された.二次元・三次元形態計測値から殻形態を表す8つのパラメータを構築し,2つの海域間で共通して産出するType Iの個体群間で比較したところ,殻サイズと殻上のポアの形態を示す4つのパラメータについて有意差が認められた.これらの違いは,生息海域の水温や溶存酸素濃度と関係した代謝による形態的可塑性である可能性が示唆された.一方,他4つのパラメータ(1)殻の外形,(2)アパーチャーの扁平率,(3)アパーチャーサイズ,(4) 殻厚は,個体群間で違いはなく,遺伝子型間で有意差が認められた.Type IIbは他の2遺伝子型と(1)~(3)で有意差が認められ,3遺伝子型間では(4)で有意差が認められた.このように,(1)~(3)のパラメータから,Type IIbはType I, IIaと比べて,殻の外形は縦長で,アパーチャーは大きくかつ縦に開くという形態的特徴を持つことが示唆された.また,(4)のパラメータから,殻厚はType IIa,I,IIbの順に厚い殻を形成していることが示された.このように,P. obliquiloculata の成体の遺伝子型は,殻の外形,アパーチャーの形状や大きさ,殻厚を表す4つの形態パラメータを組み合わせることで,殻形態によって分類できることが示唆された.本研究で確立した形態パラメータによって,化石個体の遺伝子型を同定することが可能となり,地球環境変動に伴う遺伝子型分化やそれらの分布拡大プロセスの解明に発展することが期待される.