日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 微化石生物学の最前線

2025年5月27日(火) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、氏家 由利香(高知大学)、野牧 秀隆(海洋研究開発機構)、座長:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、野牧 秀隆(海洋研究開発機構)、氏家 由利香(高知大学)

12:00 〜 12:15

[BCG07-12] 5 ppm TiO2ナノ粒子曝露による底生有孔虫Ammonia venetaの代謝変化

*稲垣 優花1氏家 由利香2石谷 佳之3、Caterina Ciacci4、Fabrizio Frontalini5、Federica Rebecchi5、Mattia Tiboni4 (1.高知大学 総合人間自然科学研究科 理工学専攻 生物科学コース、2.高知大学 海洋コア国際研究所、3.海洋研究開発機構、4.ウルビーノ大学 バイオ分子科学部、5.ウルビーノ大学 自然科学・応用科学学部)


キーワード:二酸化チタンナノ粒子、海洋汚染、底生有孔虫、毒性、トランスクリプトーム解析、代謝

二酸化チタンナノ粒子(TiO2 NPs)は、様々な産業製品に利用される一方で、廃棄物として海洋へ流出すると分解されずに蓄積するため、水生生物へ毒性をもたらすことが懸念されている。これまでの研究では、仮足によって周囲の物質を集める特性をもつ単細胞真核生物の底生有孔虫Ammonia venetaを用いた培養実験を通じて、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)観察やトランスクリプトーム分析により、TiO2 NPsの細胞毒性メカニズムが明らかにされてきた(Ishitani et al., 2023; Inagaki et al., 2024)。A. venetaを1 ppm TiO2 NPsに24時間曝露した場合の代謝経路予測では、有孔虫がTiO2 NPsを細胞内に取り込んだ後、ストレス指標である反応性酸素種(ROS)を産出するが、ROSを抑制し、TiO2 NPsを細胞外排出する解毒作用によって生存することが示唆された(Ishitani et al., 2023)。A. venetaに対するTiO2 NPsの長期的な細胞毒性と致死濃度は、1、5、10、50 ppmのTiO2 NPsに5週間曝露する実験によって調べられた(Inagaki et al., 2024)。有孔虫は、5 ppm以上のTiO2 NPsでは最初の2週間しか成長がみられず、3週目に全個体が死亡した。しかし、透過型電子顕微鏡(TEM)観察とエネルギー分散型X線分光計(TEM-EDS)観察で、5 ppm TiO2 NPs曝露個体の小胞と細胞外廃棄物の中にTiO2 NPsが見つかった。これらの結果は、A. venetaの解毒作用が5 ppmを超える濃度で破壊される可能性があることを示唆している。これは、ストレスや有害物質の放出に関連する遺伝子調節によるROS生産の促進や、細胞成長を抑制する遺伝子の過剰発現による細胞死に起因する可能性がある。
本研究では、5 ppm TiO2 NPsに曝露されたA. venetaの代謝変化をCLSM観察とトランスクリプトーム分析に基づいて調査した。30分、1、6、24、48時間の5 ppm TiO2 NPsへの曝露実験を通じて、分子プローブ(CellROX Greenおよびアクリジンオレンジ)を用いてA. venetaの生理的変化を調べた。その結果、ROSと酸性小胞はどの時点でも検出されなかった。5 ppm TiO2 NPsへ1、6、24時間曝露したA. veneta各5個体を用いて、cDNA増幅を行い、トランスクリプトーム分析を行った。5 ppm TiO2サンプルで発現レベルが変化したオープンリーディングフレーム(ORF)は、Ishitani et al.(2023)のコントロールサンプルとの比較により抽出され、対応する代謝経路はKEGGデータベースを通じて検索された。この研究でアノテーションされた165,801のORFのうち、24,554のORFは5 ppm曝露群でのみ発現し、122,722のORFはコントロール群と比較して発現増加することを示した。このうち、21,546のORFの発現は有意に(p<0.05)増加した。1 ppmおよび5 ppm TiO2 NPs曝露で同一の8,415のORFは、5 ppmの方にコントロール群と比較して発現増加するORFが多かった。5 ppm TiO2 NPs曝露で発現増加するORFの割合は、以前の研究の1 ppm TiO2 NPs曝露におけるものよりもはるかに大きく、より多くの異なる遺伝子が検出された。1 ppm TiO2 NPs曝露でROS産出に関連するとしてアノテーションされた遺伝子は、5 ppm TiO2 NPs曝露で発現増加すること示された。さらに、本研究では、ROS産出に関与するNOX遺伝子およびROS除去に関与するSOD1/CAT遺伝子が5 ppm TiO2 NPs曝露でのみ発現増加することが新たに発見された。これらの遺伝子の有意な発現増加は、CLSM観察によるROSの検出がないという結果に一致していた。したがって、本研究の結果は、5 ppm TiO2 NPs曝露で、1 ppm TiO2 NPs曝露と異なる代謝過程が発生し、特に、多くの遺伝子が過剰発現していることを示している。

Ishitani Y, et al. (2023) Environ Pollut. doi: 10.1016/j.envpol.2023.121538
Inagaki Y, et al. (2024) Front. Mar. Sci. doi: 10.3389/fmars.2024.1381247