日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 微化石生物学の最前線

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、氏家 由利香(高知大学)、野牧 秀隆(海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[BCG07-P03] 非堆積物性バクテリアマットに優占する多様な底生有孔虫群衆の発見

*茅森 舞姫1石谷 佳之2野牧 秀隆2 (1.東京大学、2.海洋研究開発機構)


キーワード:有孔虫、バクテリアマット、食性、冷湧水、化学合成生態系、微生物共生

相模湾西部に位置する初島沖では、メタン湧水に固有な大型底生生物や原核生物の研究が盛んに行われており、小型の単細胞真核生物は無視されてきた。深海生態系の主要な構成要素である底生有孔虫についても湧水域の堆積物中の群衆組成が研究され、化学合成生態系の固有種はいないものの、貧酸素環境に普遍的な有孔虫種が報告されてきた。しかし近年、我々の調査により、初島沖湧水域の岩石上や大型生物コロニー上に形成された貧酸素環境にある非堆積物性のバクテリアマットにて、相模湾中央部の好気環境で優占する有孔虫が優占していることが確認された。これらの種が貧酸素の湧水域に成立するバクテリアマット上でなぜ優占しうるのかを解明するため、湧水やバクテリアマット、周辺の堆積物を採取し、生息環境と底生有孔虫群衆について多面的な解析を行っている。
試料は相模湾初島沖の環境の異なる4地点のバクテリアマット(水深820-1000m)から採取した。バクテリアマットおよび周辺の堆積物での環境計測、湧水、海水採取を行った後にマットと堆積物試料を吸引して採取した。採取した試料は有機物濃度、同位体組成分析用、微生物群衆分析用、および有孔虫試料解析用に分取し、有孔虫試料は船上で拾い出した後に透過電子顕微鏡(TEM)観察用、有孔虫の遺伝子解析、有孔虫細胞内の16Sアンプリコン解析用に固定、保存した。
湧水の化学組成は地点ごとに硫化水素濃度、アンモニア濃度などが異なり、バクテリアマットが多様な環境に成立していることを示す。また、炭素同位体比の解析結果から、バクテリアマットおよび周辺の堆積物はすべて化学合成由来の有機物を豊富に含むことが示された。これは16Sアンプリコン解析の結果とも矛盾しない。有孔虫群衆は、より好気的な環境に生息する種が多いマットから嫌気的な環境に生息する種が多いマットまでマットごとに異なっており、これらが湧水の強度/組成の差や微生物叢と関係している可能性がある。TEM観察を行った有孔虫種4種のいずれの個体にもバクテリアを摂食している証拠は見られなかった一方で、2種6個体で壁孔外部にメタン酸化細菌を含む複数種のバクテリアが密集している様子が観察された。バクテリアマットに優占する有孔虫種のうちいくつかは、これら細胞外のバクテリアと何らかの物質のやりとりをするなどしてこの環境で繁栄している可能性があり、今後は化学環境や微生物組成などの環境要素が有孔虫群衆に与える影響の定量解析や、TEM観察、有孔虫細胞内のアンプリコン解析を進め、どのような要因で湧水環境への適応が可能になったのかを解明する。