16:00 〜 16:15
[BPT03-08] アコヤガイの貝殻基質タンパク質nacreinによるCaCO3クラスター生成における微量元素の取込制御

キーワード:nacrein、バイオミネラリゼーション、炭酸カルシウム、タンパク質、vital effect
アコヤガイ(Pinctada fucata)は真珠養殖に用いられる二枚貝である。アコヤガイの貝殻は約95%が炭酸カルシウム(CaCO3)、残りの約5%が有機物で構成されている。有機物は主にキチンなどの多糖高分子や貝殻基質タンパク質であり、貝殻形成においてCaCO3結晶の合成を緻密に制御している。nacreinはアコヤガイの貝殻に含まれる可溶性タンパク質の中で最も含有量が多いタンパク質であり、炭酸脱水酵素ドメインとGXNドメインから構成される。炭酸脱水酵素ドメインは二酸化炭素(CO2)を重炭酸イオン(HCO3-)に変換する反応を触媒し、石灰化の場に炭酸源を供給する役割を持つと考えられる。GXNドメインはグリシン-X(高頻度の酸性アミノ酸)-アスパラギンの繰り返し配列であり、アミノ酸の種類が少ないlow complexity regionである。GXNドメインは溶液中のCaCO3と結合することでCaCO3の析出を阻害する活性が報告されている。しかし、貝殻形成の場におけるnacreinの機能と役割を実験的に明確に示した報告は存在しない。
本研究では、nacreinとCaCO3の相互作用解析を行い、アコヤガイの貝殻石灰化におけるnacreinの機能の解明を試みた。カルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)を含む溶液にnacreinを加え、CaCO3の沈殿形成を濁度により測定したところ、nacreinの濃度依存的にCaCO3の沈殿形成が阻害されることが分かった。他の貝殻基質タンパク質においても数µM程度の濃度で同様の沈殿形成阻害活性が報告されているが、nacreinは数nMでもその活性を示しており、nacreinがCaCO3と結合してCaCO3を溶液中で安定に保持する活性が高いことが判明した。このとき、nacreinのGXNドメインは溶液中で複数のCaCO3と結合してCaCO3クラスターを形成していると考えられる。次に、nacreinが形成するCaCO3クラスター内に何分子のCaCO3が含まれているかを確認することにした。nacreinとCO32-を含む溶液にCa2+を滴定することで、nacreinとCaCO3分子の結合比を計算したところ、1分子のnacreinあたり約20,000分子のCaCO3と結合することが分かった。nacreinは430アミノ酸から構成されるタンパク質であり、負電荷を持つアミノ酸の数は430よりも小さいことから、アミノ酸とCaCO3分子は1:1で結合していないことが考えられる。そのため、nacreinのGXNドメインが巨大なCaCO3クラスターと結合しているという説が支持された。
nacreinは1分子内に炭酸脱水酵素ドメインとGXNドメインの2つのドメインを有し、さらにGXNドメインは炭酸脱水酵素ドメインに挿入されることで両端が固定されたループ構造を取る。この特殊な構造を取る理由を明らかにするために、ループ構造を持つものと持たないGXNドメインの組換えタンパク質を調製した。また、炭酸脱水酵素ドメインの機能を模倣するために、ウシの炭酸脱水酵素を用いた。上記のタンパク質をCa2+及びMg2+を含む溶液と混合してCO2インキュベーター内でCaCO3合成を行った。合成されたCaCO3に含まれるMg量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて測定したところ、炭酸脱水酵素を含むとMg含有率が上昇することが分かった。しかし、nacreinは炭酸脱水酵素を含むにもかかわらずMg含有率は低かった。また、GXNドメインはMg含有率を低下させることが分かった。特に、GXNドメインの両端が固定されたループ構造を取っている場合、Mg含有率の低下がより顕著であった。炭酸脱水酵素はCO32-を素早く供給することで、溶液中のCO32-濃度を急上昇させるが、それに伴って不均一なCaCO3凝集体の形成を促進してしまうと考えられる。GXNドメインは炭酸脱水酵素ドメインから供給されたCO32-を素早く取り込み、Ca2+と結合させることでCaCO3クラスターとして保持すると考えられる。その際、CaCO3クラスターがnacrein分子の周辺だけで形成されるため、不純物であるMgはクラスターに入り込むことができず、純度の高いCaCO3合成が可能となる。合成したCaCO3をXRD(X線回折)により測定し、半値幅から結晶欠陥を評価したところ、nacreinを用いて合成したCaCO3は結晶のひずみがほとんどないことが分かった。上記の実験より、nacreinは貝殻形成の場においてCaCO3リッチなクラスターを供給し、高純度なCaCO3を石灰化の場に輸送する役割を持つと考えられる。
本研究の成果はバイオミネラリゼーションにおいて微量元素の含有割合を生物が積極的に制御していることを示す事例であり、vital effectの本質を説明できる因子の一つであるかもしれない。
本研究では、nacreinとCaCO3の相互作用解析を行い、アコヤガイの貝殻石灰化におけるnacreinの機能の解明を試みた。カルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)を含む溶液にnacreinを加え、CaCO3の沈殿形成を濁度により測定したところ、nacreinの濃度依存的にCaCO3の沈殿形成が阻害されることが分かった。他の貝殻基質タンパク質においても数µM程度の濃度で同様の沈殿形成阻害活性が報告されているが、nacreinは数nMでもその活性を示しており、nacreinがCaCO3と結合してCaCO3を溶液中で安定に保持する活性が高いことが判明した。このとき、nacreinのGXNドメインは溶液中で複数のCaCO3と結合してCaCO3クラスターを形成していると考えられる。次に、nacreinが形成するCaCO3クラスター内に何分子のCaCO3が含まれているかを確認することにした。nacreinとCO32-を含む溶液にCa2+を滴定することで、nacreinとCaCO3分子の結合比を計算したところ、1分子のnacreinあたり約20,000分子のCaCO3と結合することが分かった。nacreinは430アミノ酸から構成されるタンパク質であり、負電荷を持つアミノ酸の数は430よりも小さいことから、アミノ酸とCaCO3分子は1:1で結合していないことが考えられる。そのため、nacreinのGXNドメインが巨大なCaCO3クラスターと結合しているという説が支持された。
nacreinは1分子内に炭酸脱水酵素ドメインとGXNドメインの2つのドメインを有し、さらにGXNドメインは炭酸脱水酵素ドメインに挿入されることで両端が固定されたループ構造を取る。この特殊な構造を取る理由を明らかにするために、ループ構造を持つものと持たないGXNドメインの組換えタンパク質を調製した。また、炭酸脱水酵素ドメインの機能を模倣するために、ウシの炭酸脱水酵素を用いた。上記のタンパク質をCa2+及びMg2+を含む溶液と混合してCO2インキュベーター内でCaCO3合成を行った。合成されたCaCO3に含まれるMg量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて測定したところ、炭酸脱水酵素を含むとMg含有率が上昇することが分かった。しかし、nacreinは炭酸脱水酵素を含むにもかかわらずMg含有率は低かった。また、GXNドメインはMg含有率を低下させることが分かった。特に、GXNドメインの両端が固定されたループ構造を取っている場合、Mg含有率の低下がより顕著であった。炭酸脱水酵素はCO32-を素早く供給することで、溶液中のCO32-濃度を急上昇させるが、それに伴って不均一なCaCO3凝集体の形成を促進してしまうと考えられる。GXNドメインは炭酸脱水酵素ドメインから供給されたCO32-を素早く取り込み、Ca2+と結合させることでCaCO3クラスターとして保持すると考えられる。その際、CaCO3クラスターがnacrein分子の周辺だけで形成されるため、不純物であるMgはクラスターに入り込むことができず、純度の高いCaCO3合成が可能となる。合成したCaCO3をXRD(X線回折)により測定し、半値幅から結晶欠陥を評価したところ、nacreinを用いて合成したCaCO3は結晶のひずみがほとんどないことが分かった。上記の実験より、nacreinは貝殻形成の場においてCaCO3リッチなクラスターを供給し、高純度なCaCO3を石灰化の場に輸送する役割を持つと考えられる。
本研究の成果はバイオミネラリゼーションにおいて微量元素の含有割合を生物が積極的に制御していることを示す事例であり、vital effectの本質を説明できる因子の一つであるかもしれない。