日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] バイオミネラリゼーションと古環境プロキシー

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、Heinz Petra(University of Vienna)、廣瀬 孝太郎(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)、de Nooijer Lennart Jan(Royal Netherlands Institute for Sea Research)

17:15 〜 19:15

[BPT03-P01] 珪藻遺骸群集からみた諏訪湖における過去2万4千年間の環境変遷

*正木 紫苑1廣瀬 孝太郎2葉田野 希3 (1.兵庫県立大学 環境人間学研究科、2.兵庫県立大学 自然・環境科学研究所、3.長野県環境保全研究所)

キーワード:諏訪湖、珪藻、完新世、ヤンガードリアスイベント

現在の地球は,約10 万年の周期で温暖な時期の間氷期と寒冷な時期の氷期が繰り返す変動パターンを持つ.最終氷期以降の過去2万年間は,全体的には温暖化の後に安定的な気候が続いた一方で,その間にヤンガードリアス,8.2 ka,4.2 kaといった急激な寒冷化イベントがあったと知られている.これらの寒冷化イベントは,北大西洋の寒冷化がシベリア高気圧を強化,熱帯収束帯(ITCZ)が南下,アジアの夏季モンスーンが弱化,降水量が減少,地域的な乾燥化が進行,という過程を経て起こったとされている.しかし,これらの変動を駆動する要因は未解明な点も多く,また,日本においてその記録が検出された例は少ない.そのため,これらの気候変動やそのシステムの解明には,より多くの地域での気候変動の情報を蓄積し,時空間的な変化を明らかにする必要がある.
諏訪盆地は,寒暖差が大きいことや,集水域が広いこと,堆積速度が大きいことなどの特徴を持つ.これらのことから,諏訪湖湖底堆積物は,周辺の気候変動を高時間解像度で保存しているといえる.また,アジアモンスーンを介した降水量変動を記録している可能性もある.加えて,過去数万年という地球規模では短い期間の気候変動の記録媒体として期待できる.
以上のことから,諏訪湖およびその周辺域における最終氷期以降の環境変遷を明らかにすることを目的として,諏訪湖湖底堆積物(ST2020コア)の珪藻化石分析を行った.
コアの岩相や含まれる植物片の14C年代に基づくと,コアは過去24000年間に堆積したものであり,深度30.00~21.28 m において0.84 m/103 yrs,深度21.28~11.54 m において0.73 m/103 yrs,深度9.73~5.86 mにおいて1.3 m/103 yrs であった.コアの63層準について珪藻分析を行った結果,計60属362分類群,17未同定分類群が確認された.コアは,珪藻群集の特徴に基づき,計11の珪藻帯に区分された.珪藻群集の時系列変化に基づき,コアの堆積環境は以下のように推定された.
珪藻群集から,珪藻区分Ⅰaに相当する約24~16.5 kaは,富栄養な湿地環境であったと推定された.この解釈は,ST2020コアの堆積相分析や長野県広原湿原の花粉分析,グリーンランド氷床コア中のδ18Oから知られているような全球的な寒冷・乾燥な気候と概ね一致する.珪藻区分Ⅰbに相当する約16.5 ka頃には,水深が急激に増加し,15.7 kaにかけては,ある程度の水深を有する湖であったと推定された.約16.5 kaからの水深の増加は,日本および東アジア地域での温暖化を介した降水量増加を反映していると考えられ,この温暖化は,北部大西洋周辺に比べて数百年ほど早く起こったことが示唆された.約16.0~15.5 kaにかけては,浮遊性種が優占する環境から底生種が優占する環境に大きく変化し,これは,ST2020コアの層序学的な分析により示唆されていた水深低下の期間よりも短い期間で起こったことが示唆された.珪藻区分Ⅰcに相当する約15.5~13.7 kaにかけては,Staurosira科が優占し,群集組成に大きな変化が見られないことから,Staurosira科が生育するのに適したある程度の水深が維持された水域であったと推定された.珪藻区分Ⅱ~Ⅶに相当する約13.5~12.6 kaで産出した珪藻殻は,河川によって諏訪湖の集水域から運搬されて堆積した可能性が示唆された.これは,ST2020コアの堆積相分析による,この時期の堆積物が洪水や土石流イベント性のものであるという推定を支持するものである.珪藻区分Ⅷに相当する約12.6~11.3 kaは,水深が大幅に増加し,貧栄養の湖が続いたが,一時的に水深が浅い湿地環境を経験したと推定された.この時期の珪藻殻含量の増加は,完新世における全球的な温暖化を反映しており,それに先立つEunotia属の一時的な増加は,ヤンガードリアスイベントの寒冷化を反映していると考えられる.珪藻区分Ⅸの前期に相当する約11.3~10.0 kaは,富栄養な湖であったと示唆された.この時期におけるAulacoseira属の組成変化は,漸進的な富栄養化の進行を反映している.これは,全球的な温暖化を介した降水量の増加と,それに伴う河川からの栄養塩供給量の増加という過程を経て起こったと考えられる.珪藻区分Ⅸの後期~Ⅺに相当する10.0 ka~現在にかけての珪藻群集は,浮遊性種が優占の時期と底生種が優占の時期を1000年ほどの間隔で交互に繰り返しており,これは,この時期における諏訪湖の水深の増減を反映していると考えられる.約8.0 kaにおいては,Eunotia属が優占しており,これが8.2 kaイベントの全球的な寒冷化を反映している可能性がある.