日本地球惑星科学連合2025年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] バイオミネラリゼーションと古環境プロキシー

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、Heinz Petra(University of Vienna)、廣瀬 孝太郎(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)、de Nooijer Lennart Jan(Royal Netherlands Institute for Sea Research)

17:15 〜 19:15

[BPT03-P02] 輪島市に分布する中新統産サメの歯化石に保存されたアミノ酸:巨大ザメの栄養段階推定に向けて

*清水 彩花1ジェンキンズ ロバート1長谷川 卓1小坂 由紀子1 (1.国立大学法人金沢大学)


キーワード:サメ、板鰓類、エナメロイド、栄養段階、続成作用、アミノ酸

はじめに
海洋生態系における食物網は,植物プランクトンなどの一次生産者を底辺としてサメ類などの高次の捕食者を頂点とする生態系ピラミッドとして捉えることができる.このような生物の生態系での位置を栄養段階といい(力石ほか 2010),被食-捕食に伴う同位体比の上昇を利用して表す.特に,個々のアミノ酸の窒素同位体比を用いて栄養段階を推定する方法を個別アミノ酸法という.これにより,複雑な食物網を単純化して生態系の生物の進化を議論することが可能になる.個別アミノ酸法を用いた栄養段階の推定は,近過去の化石試料では行われており,その有用性が示されてきた(Naito et al., 2010a; Naito et al., 2016b; 兀橋 2016MS; 湯上2018MS).しかし,試料の保存性が悪いと正しい栄養段階を推定できない可能性があり,個別アミノ酸法の化石試料への適用には保存状態を十分に吟味する必要が示された(湯上 2018MS).このように個別アミノ酸法は中新世の化石試料にも適用されてきているが,まだ少なく,化石の保存性と残存有機物量の確保が重要な課題になっている.本研究で用いるサメの歯は,高度に鉱物化した生態鉱物であり,続成作用の影響を受けずに有機物を保存している可能性が高い.そこで,サメの歯のエナメロイドを用いた新生代の古生態系復元を目指して基礎研究を行った.本研究では,(1)歯化石試料の保存性評価方法の確立する.(2)サメの歯を構成するエナメロイドに含まれるアミノ酸の抽出・解析手法の確立する.(3)中新統のCarcharodon sp.の続成を評価し,アミノ酸を検出した.続成と試料量の観点から栄養段階推定可能性について報告する.
試料と手法
試料は石川県 輪島市 鴨ヶ浦に分布する中新統輪島崎層から産したCarcharodon sp.を用いた.化石Carcharodonsp.の続成作用は①外表面の観察,②微細構造の観察(走査型電子顕微鏡;SEM),③鉱物層の同定(X線回折装置;XRD),④アミノ酸組成・定量分析(GC/GCMS)で評価した.歯試料を次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し表面に付着した有機物を除去した.この時,結晶間有機物を完全に除去できていないことに留意する.①〜③の続成作用の評価を行った後,アミノ酸を抽出する.抽出したアミノ酸は,比較的簡便に定量分析が可能なエトキシカルボニル/エチルエステル誘導体化法で誘導体を生成し,④金沢大学 長谷川研所有のGC(GC-6890)およびGC/MS(GC/MS-QP-2010)でアミノ酸の定性・定量分析を行った.
結果
①~③の続成作用の評価の結果,化石Carcharodon sp.の特徴は現生と一致しており,保存状態は良いと判断した.また,④粉末試料からアミノ酸の定量・定性分析を行った結果,エナメロイド50.79 mgから,Glu 1.01 nmol/mg,Phe 0.07 nmol/mg検出された.
考察
1. 個別アミノ酸窒素同位体比分析に必要な試料量:個別アミノ酸窒素同位体比による栄養段階推定を行うためには,定量定性分析には炭素量で40 ng,同位体比分析には5 nmol必要である(湯上MS 2020).化石Carcharodon sp.のアミノ酸濃度は,Glu 1.01 nmol/mg,Phe 0.07 nmol/mgであった.他の歯化石中にも同程度のアミノ酸が残存していると仮定すると,エナメロイド粉末試料が226 mgあれば,分析を複数回行い精度良い結果を得ることができると期待される.今回用いた化石Carcharodon sp.において保存良好なエナメロイド部分から合計103.8 mg粉末を得ることができ,他の歯化石でも同程度の割合で得られるとすると,化石Carcharodon sp.は2本の歯化石標本があれば栄養段階推定が可能となる.O. megalodonのような巨大な歯化石であれば1本の歯化石から十分に栄養段階を推定することが可能であるとの見通しが立った.
2. 象牙質の続成作用の評価方法と分析への利用可能性:象牙質はエナメロイドのような特徴的な微細構造がなく,現生と比較して続成作用の評価を行うことが極めて難しい.また,化石のエナメロイドの保存状態が良い場合でも象牙質は結晶が過成長していることが認められた.以上を踏まえると,化石に保存されたアミノ酸を利用する際には,象牙質を用いないのが望ましい.
本研究の結果は,1400万年前の化石であってもサメの歯のエナメロイドであればアミノ酸を保存しており,1000万年スケールで古生態系を復元できる可能性を示す.