日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] バイオミネラリゼーションと古環境プロキシー

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、Heinz Petra(University of Vienna)、廣瀬 孝太郎(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)、de Nooijer Lennart Jan(Royal Netherlands Institute for Sea Research)

17:15 〜 19:15

[BPT03-P04] The shell formation process of the foraminifera Sorites orbiculus -With special attention to the ultra-microstructure of the site of calcification

*長井 裕季子1椿 玲未2川野 潤3廣瀬 孝太郎4,8瀬戸 雄介5、上杉 健太朗6安武 正展6、佐田 侑樹6上椙 真之6、竹内 晃久6藤田 和彦7豊福 高志1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構 X-star、2.株式会社 エウサピア、3.北海道大学、4.兵庫県立大学、5.大阪公立大学、6.高輝度光科学研究センター、7.琉球大学、8.人と自然の博物館)

キーワード:有孔虫、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡、MXCT、pHイメージング

石灰質有孔虫は海洋に生息する単細胞生物で、炭酸カルシウムを主成分とする殻を作る。有孔虫殻の元素や安定同位体の組成は殻形成時の環境情報を反映することが経験的にわかっているため、水温や塩分などの古海洋学的なプロキシを適応するための材料として利用される。しかし、石灰化に伴う元素取り込みの生物学的な素過程に関する知見は限定的である。主成分であるカルシウムや炭酸イオンの取り込み過程ですらも依然として解明下とは言えない現状がある。石灰質有孔虫はガラス質有孔虫と磁器質有孔虫に大きく分類される。磁器質有孔虫の殻形成過程は、先行研究でCalcituba polymorphaという種類の観察に基づき報告されている。これによればC. polymorphaでは細胞内小胞に針状の炭酸カルシウム結晶が形成され、その後この針状結晶がエクソサイトーシスによって細胞外に運び出され、殻壁の形態に積み重ねられとなると報告された。しかし、結晶が積み重ねられ殻の構造が形づくられる場面についての観察はなく、それ以降の研究報告も存在しない。そのため磁器質有孔虫の石灰化過程を理解するには、どのように細長い結晶が小胞から分泌され、それらが殻壁構造を構築するかを記載する必要がある。そこで本研究では磁器質石灰質殻有孔虫の一種であるSorites orbiculusの殻形成過程を明らかにするために、室内飼育実験をおこなった。殻形成の一部始終をつぶさに観察、撮影し記録した。また殻形成時のpH顕微鏡イメージング法を適用し、殻形成場のpH環境の記録を行った。さらに、実験条件で形成されたり形成途上の殻を観察対象として、電子顕微鏡による石灰化部位の超微細構造観察と大型放射光施設SPring-8のマイクロ/ナノCTシステムでの殻の3次元イメージングを行った。
殻形成途上の殻を集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いて、殻壁の横断面を観察したところ、石灰化部位には多孔質な綿菓子様の構造が形成されていることがわかった。その構造は太さ20-30nmの繊維状で複数箇所で分岐を呈していた。さらに3次元イメージングから得られた繊維状構造の立体的な形態から構造は針状ではなく長い繊維状構造であることが示された。また細胞内pHの観察の結果、新たにチャンバーが形成部位付近においてpHの上昇が見られ、石灰化に有利な環境となっていた。さらに繊維状構造を透過型電子顕微鏡を使って観察したところ繊維状構造内部に7-8nmの結晶様の構造が複数確認された。このナノ構造体は、ディフラクションパターンからカルサイトであると同定した。
これらの結果は、Sorites orbiculusの石灰化は、細胞内小胞が針状結晶を形成して殻壁を構築するという、先行研究でC. polymorphaで提唱された様式とは異なっていること示唆している。本研究結果は磁器質有孔虫の石灰化様式はこれまで考えられていた以上に多様である可能性を強く示唆する。