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[BPT04-04] 低緯度パンサラッサ海遠洋のペルム紀-三畳紀境界炭酸塩岩(上村セクション)の岩相層序と介形虫化石

キーワード:ペルム紀末の大量絶滅、上村セクション、Hot acetolysis、微生物岩、古生物地理、浅海避難所仮説
約2億5200万年前に起きたペルム紀末の大量絶滅時にはシベリアでの大規模火山活動に起因する一連の海洋環境変動によって当時の海洋生物種の9割近くの種が絶滅したといわれている。当時の遠洋浅海の海洋環境を保存した地層の1つに、パンサラッサ海の遠洋にあった海山頂部で堆積した、九州東部のジュラ紀付加体に含まれる上村石灰岩(宮崎県高千穂町)がある。上村石灰岩の特にペルム紀-三畳紀境界層付近においては堆積学(Sano and Nakashima, 1997)や、コノドントや炭酸塩岩の安定炭素同位体比(δ13C)に基づく層序学的研究(Zhang et al., 2019など)がなされてきた。上村石灰岩からは介形虫や巻貝といった底生動物化石が薄片下で多く報告されている。これらの化石の研究をさらに詳しく行うことで、大量絶滅時の遠洋海山上における古環境変遷や大量絶滅後の生態系回復の解明が期待できる。
本発表では上村石灰岩のペルム紀-三畳紀境界層付近から産した介形虫化石について報告する。介形虫は微小な水棲甲殻類であり、生涯を通して底生で移動能力に乏しいこと、水深や水温などの環境条件に応じて生息する種や群集組成が異なることから古環境や古地理を復元する上で有用な生物指標である。ペルム紀末の大量絶滅時には全体の7割近くの種が絶滅した一方で、絶滅直後においても個体数は大きく減少していないことが南中国やテチス海で報告されている。介形虫が大量絶滅後も個体数を維持できた理由を説明する仮説には、当時の浅海底に広がっていた微生物礁が介形虫にとっての避難所として機能したという微生物礁避難所仮説(Forel et al., 2013)や浅海全域が避難所であったという浅海避難所仮説 (Qiu et al., 2019) がある。
化石試料を採取する前に、絶滅境界露頭の岩相分布を詳細に観察・記載して岩相層序の再検討を行った。調査セクションは上村セクション(Sano and Nakashima, 1997のKamura B Section)のうち三田井層最上部から上村層基底部層(ペルム紀後期Changhsingianから三畳紀前期Griesbachian)である。露頭は植生による被覆や風化の影響で広範囲の観察が難しい状態であったため、電動工具等で露頭の清掃と研磨を行い、露頭観察に最適な状態を作った。
調査露頭の岩相は下位から上位にかけてdolostone, dolomitic thrombolite, thrombolite, bioclastic wacke-packstoneとなっている。Thromboliteの上位ではレンズ状のshelly packstoneやbioclastic pack-wackestoneとの互層が観察できた。最下部のdolostoneのみが三田井層に属し、より上位はすべて上村層に属する。Dolostoneとdolomitic thrombolite中にはそれぞれlime-mudstoneやthromboliteといったドロマイト化を受ける前の岩相が局所的に分布していた。
岩石試料はHot acetolysis法(Crasquin-Soleau et al., 2005)で処理して介形虫化石を抽出した。処理した15層準のうち11層準から介形虫化石23属53種が産出した。介形虫化石の中にはSilenites? zhejiangensisのような同時代の南中国から報告のある種が含まれていた。一方、固有種と考えられる種が多いことから、上村セクションの介形虫は海流等により南中国と関係性を持ちつつも独立した生物地理区に属すると考えられる。介形虫の生物地理区は上村セクションが遠洋の海山頂部で堆積した点と整合的である。介形虫化石の構成種は岩相と関係が見られ、下位から上位に向けて次のような傾向が見られた: (1) Lime-mudstoneでは Bairdiacypris spp.に比較的富むが優勢な種がいない; (2) Dolomitic thromboliteではParacypris cf. gaetaniiに富む; (3) thrombolite下部ではP. cf. gaetaniiとBairdia spp.が優勢になる; (4) thrombolite上部では Bairdia spp. が優占的になる。また、thrombolite中のレンズ状shelly packstoneからはGeffenina sp.1をはじめとしたPalaeocopidaが多く得られた。Crasquin-Soleau et al. (2006) によるテチス海のペルム紀から三畳紀における介形虫群の生息水深に照らし合わせると、上村セクションは潮下帯外側で堆積したが、shelly packstone中の化石はより浅い潮下帯内側から供給されたことを示す。このように、本研究ではthromboliteではない石灰岩からも多数の介形虫化石が得られたことから、微生物礁がない浅海も介形虫にとっての避難所として機能したといえる。そのため、遠洋海山頂部での介形虫の生存は浅海避難所仮説で説明でき、南中国などと整合的である。一方で、上村石灰岩のthrombolite中の介形虫の構成属変化は南中国の事例(Ji et al., 2023)と異なり、地域的な環境条件の違いなどを反映している可能性がある。
本発表では上村石灰岩のペルム紀-三畳紀境界層付近から産した介形虫化石について報告する。介形虫は微小な水棲甲殻類であり、生涯を通して底生で移動能力に乏しいこと、水深や水温などの環境条件に応じて生息する種や群集組成が異なることから古環境や古地理を復元する上で有用な生物指標である。ペルム紀末の大量絶滅時には全体の7割近くの種が絶滅した一方で、絶滅直後においても個体数は大きく減少していないことが南中国やテチス海で報告されている。介形虫が大量絶滅後も個体数を維持できた理由を説明する仮説には、当時の浅海底に広がっていた微生物礁が介形虫にとっての避難所として機能したという微生物礁避難所仮説(Forel et al., 2013)や浅海全域が避難所であったという浅海避難所仮説 (Qiu et al., 2019) がある。
化石試料を採取する前に、絶滅境界露頭の岩相分布を詳細に観察・記載して岩相層序の再検討を行った。調査セクションは上村セクション(Sano and Nakashima, 1997のKamura B Section)のうち三田井層最上部から上村層基底部層(ペルム紀後期Changhsingianから三畳紀前期Griesbachian)である。露頭は植生による被覆や風化の影響で広範囲の観察が難しい状態であったため、電動工具等で露頭の清掃と研磨を行い、露頭観察に最適な状態を作った。
調査露頭の岩相は下位から上位にかけてdolostone, dolomitic thrombolite, thrombolite, bioclastic wacke-packstoneとなっている。Thromboliteの上位ではレンズ状のshelly packstoneやbioclastic pack-wackestoneとの互層が観察できた。最下部のdolostoneのみが三田井層に属し、より上位はすべて上村層に属する。Dolostoneとdolomitic thrombolite中にはそれぞれlime-mudstoneやthromboliteといったドロマイト化を受ける前の岩相が局所的に分布していた。
岩石試料はHot acetolysis法(Crasquin-Soleau et al., 2005)で処理して介形虫化石を抽出した。処理した15層準のうち11層準から介形虫化石23属53種が産出した。介形虫化石の中にはSilenites? zhejiangensisのような同時代の南中国から報告のある種が含まれていた。一方、固有種と考えられる種が多いことから、上村セクションの介形虫は海流等により南中国と関係性を持ちつつも独立した生物地理区に属すると考えられる。介形虫の生物地理区は上村セクションが遠洋の海山頂部で堆積した点と整合的である。介形虫化石の構成種は岩相と関係が見られ、下位から上位に向けて次のような傾向が見られた: (1) Lime-mudstoneでは Bairdiacypris spp.に比較的富むが優勢な種がいない; (2) Dolomitic thromboliteではParacypris cf. gaetaniiに富む; (3) thrombolite下部ではP. cf. gaetaniiとBairdia spp.が優勢になる; (4) thrombolite上部では Bairdia spp. が優占的になる。また、thrombolite中のレンズ状shelly packstoneからはGeffenina sp.1をはじめとしたPalaeocopidaが多く得られた。Crasquin-Soleau et al. (2006) によるテチス海のペルム紀から三畳紀における介形虫群の生息水深に照らし合わせると、上村セクションは潮下帯外側で堆積したが、shelly packstone中の化石はより浅い潮下帯内側から供給されたことを示す。このように、本研究ではthromboliteではない石灰岩からも多数の介形虫化石が得られたことから、微生物礁がない浅海も介形虫にとっての避難所として機能したといえる。そのため、遠洋海山頂部での介形虫の生存は浅海避難所仮説で説明でき、南中国などと整合的である。一方で、上村石灰岩のthrombolite中の介形虫の構成属変化は南中国の事例(Ji et al., 2023)と異なり、地域的な環境条件の違いなどを反映している可能性がある。