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[G01-P01] 視覚の有無に関わらず体験可能な特別展の実施:主に3Dプリンターによる天体や宇宙機の模型を用いた事例
キーワード:視覚障害教育、障がい者、3Dモデル、3D プリント
はじめに
国際博物館会議(ICOM)は,2022年8月に博物館の新定義を承認した.新定義では,誰もが利用できる包摂的な役割が強調されている.しかしながら,国内の博物館の多くは,特に障害者の情報アクセシビリティについて課題がある(日本博物館協会,2019).
黒部市吉田科学館では,多様な市民に開かれた博物館を目指すため,2022年に基本方針の一つとして「誰もが楽しめる科学・文化活動の場を市民と共につくる」と定め,2024年度に特別展「さわる宇宙展」を実施し,視覚障害者の来館を促した.本報告では,本特別展の展示構成と運用方法にくわえ,視覚障害者および晴眼者からの反応を基にした評価を示し,本特別展の有効性について考察する.
特別展の概要
本特別展は,主に3Dプリンターで製作されたハンズオン型の展示で構成された.模型の展示は,天体や宇宙機,プラネタリウム投影機を主とし,触覚で形状を認識可能である.また,触覚以外の感覚を使う展示としては,各惑星の表面重力を反映した重さのりんごの模型を持ち上げる展示や,太陽から各惑星までの距離を歩いて比較する展示が挙げられる.さらに,実物資料としては,隕石やプラネタリウム操作盤などが挙げられる.各展示には,点字で示したキャプションが設けられた.展示場の壁には,墨字と点字が両方印刷された解説文が用意されており,観覧者は手に取って読むことができる.解説文の点字については,富山県視覚障害者福祉センターが点訳および点字プリンターでの印刷を行った.キャプションの点字については,当科学館の職員が点訳サイトを用いて点訳し,点字器により作成した.
本特別展では,事前予約制で職員による解説が行われたほか,関連イベントとの連携が行われた.解説の予約は,視覚障害者個人により8件,視覚障害者の団体により2件,晴眼者のみの個人により2件,博物館関係者により3件の計15件であった.関連イベントとしては,ブラックホールと惑星地形を題材とした講座がそれぞれ1件ずつ行われ,いずれも3Dプリントされた教材を参加者全員に配布する形式で実施された.関連イベントには,視覚障害者2名と,晴眼者77名(聴覚障害者2名を含む)の参加があった.なお,当科学館の把握する限りでは,予約制解説や関連イベントに参加した観覧者も含め,計33名の視覚障害者が本特別展を観覧した.
アンケート結果と観覧者の様子
アンケートの回答数は,視覚障害者による回答が9件,晴眼者と推察される観覧者による回答が153件の計162件であった.満足度は,「満足」,「やや満足」,「ふつう」,「やや不満」,「不満」の5件法で,「満足」が67%,「やや満足」が21%であった.難易度は,「難しかった」,「やや難しかった」,「ちょうどよかった」,「やや簡単だった」,「簡単だった」の5件法で,「ちょうどよかった」が56%,「やや難しかった」が18%であった.特に面白いと感じた展示を問う設問では,最も票数を得た展示から順に,「惑星の重力の体験」,「惑星の距離」,「惑星模型」,「ブラックホールや星雲の模型」,「いん石」,「ロケット・探査機・人工衛星の模型」,「プラネタリウム操作盤」となり,それぞれ103票,78票,57票,49票,48票,43票,39票であった.感想には,視覚障害の有無に関わらず楽しめる展示であったとの言及や,視覚のみに頼った場合に影になるところを詳しく触って理解できたとの言及があった.9件の視覚障害者からの回答については,満足度は「満足」が8件,「ふつう」が1件,難易度は「やや難しかった」が5件,「難しかった」が1件,「ちょうどよかった」が3件であった.満足度が「ふつう」であった観覧者の回答には,弱視者を考慮するべきとの指摘があった.
予約制解説を利用した視覚障害者には,晴眼者と比較して各展示を長く触察する傾向があり,1時間以上滞在する様子も見られた.解説の際には,惑星の大きさや距離の比較,惑星の重力体験などの展示が好評であり,総じて「楽しかった」との感想があった.
考察
本特別展は,アンケート結果と観覧者の様子より,視覚の有無に関わらず有意義な体験ができる企画であったと評価できる.アンケートの特に面白いと感じた展示を問う設問の結果からは,特に晴眼者にとって,触覚で形を認識するよりも,体を動かす体験を有意義であると感じやすい傾向が示唆される.また,同設問において,実物展示と模型の票数が同等であった結果は,必ずしも実物が模型よりも有意義であると感じられないことを示す.また,予約制解説は,利用者から好評を得ており,有効な手段であったと考えられる.今後は,予約制解説を利用しない視覚障害者や弱視者にとっても満足度の高い企画となるよう,情報アクセシビリティの向上が必要である.
国際博物館会議(ICOM)は,2022年8月に博物館の新定義を承認した.新定義では,誰もが利用できる包摂的な役割が強調されている.しかしながら,国内の博物館の多くは,特に障害者の情報アクセシビリティについて課題がある(日本博物館協会,2019).
黒部市吉田科学館では,多様な市民に開かれた博物館を目指すため,2022年に基本方針の一つとして「誰もが楽しめる科学・文化活動の場を市民と共につくる」と定め,2024年度に特別展「さわる宇宙展」を実施し,視覚障害者の来館を促した.本報告では,本特別展の展示構成と運用方法にくわえ,視覚障害者および晴眼者からの反応を基にした評価を示し,本特別展の有効性について考察する.
特別展の概要
本特別展は,主に3Dプリンターで製作されたハンズオン型の展示で構成された.模型の展示は,天体や宇宙機,プラネタリウム投影機を主とし,触覚で形状を認識可能である.また,触覚以外の感覚を使う展示としては,各惑星の表面重力を反映した重さのりんごの模型を持ち上げる展示や,太陽から各惑星までの距離を歩いて比較する展示が挙げられる.さらに,実物資料としては,隕石やプラネタリウム操作盤などが挙げられる.各展示には,点字で示したキャプションが設けられた.展示場の壁には,墨字と点字が両方印刷された解説文が用意されており,観覧者は手に取って読むことができる.解説文の点字については,富山県視覚障害者福祉センターが点訳および点字プリンターでの印刷を行った.キャプションの点字については,当科学館の職員が点訳サイトを用いて点訳し,点字器により作成した.
本特別展では,事前予約制で職員による解説が行われたほか,関連イベントとの連携が行われた.解説の予約は,視覚障害者個人により8件,視覚障害者の団体により2件,晴眼者のみの個人により2件,博物館関係者により3件の計15件であった.関連イベントとしては,ブラックホールと惑星地形を題材とした講座がそれぞれ1件ずつ行われ,いずれも3Dプリントされた教材を参加者全員に配布する形式で実施された.関連イベントには,視覚障害者2名と,晴眼者77名(聴覚障害者2名を含む)の参加があった.なお,当科学館の把握する限りでは,予約制解説や関連イベントに参加した観覧者も含め,計33名の視覚障害者が本特別展を観覧した.
アンケート結果と観覧者の様子
アンケートの回答数は,視覚障害者による回答が9件,晴眼者と推察される観覧者による回答が153件の計162件であった.満足度は,「満足」,「やや満足」,「ふつう」,「やや不満」,「不満」の5件法で,「満足」が67%,「やや満足」が21%であった.難易度は,「難しかった」,「やや難しかった」,「ちょうどよかった」,「やや簡単だった」,「簡単だった」の5件法で,「ちょうどよかった」が56%,「やや難しかった」が18%であった.特に面白いと感じた展示を問う設問では,最も票数を得た展示から順に,「惑星の重力の体験」,「惑星の距離」,「惑星模型」,「ブラックホールや星雲の模型」,「いん石」,「ロケット・探査機・人工衛星の模型」,「プラネタリウム操作盤」となり,それぞれ103票,78票,57票,49票,48票,43票,39票であった.感想には,視覚障害の有無に関わらず楽しめる展示であったとの言及や,視覚のみに頼った場合に影になるところを詳しく触って理解できたとの言及があった.9件の視覚障害者からの回答については,満足度は「満足」が8件,「ふつう」が1件,難易度は「やや難しかった」が5件,「難しかった」が1件,「ちょうどよかった」が3件であった.満足度が「ふつう」であった観覧者の回答には,弱視者を考慮するべきとの指摘があった.
予約制解説を利用した視覚障害者には,晴眼者と比較して各展示を長く触察する傾向があり,1時間以上滞在する様子も見られた.解説の際には,惑星の大きさや距離の比較,惑星の重力体験などの展示が好評であり,総じて「楽しかった」との感想があった.
考察
本特別展は,アンケート結果と観覧者の様子より,視覚の有無に関わらず有意義な体験ができる企画であったと評価できる.アンケートの特に面白いと感じた展示を問う設問の結果からは,特に晴眼者にとって,触覚で形を認識するよりも,体を動かす体験を有意義であると感じやすい傾向が示唆される.また,同設問において,実物展示と模型の票数が同等であった結果は,必ずしも実物が模型よりも有意義であると感じられないことを示す.また,予約制解説は,利用者から好評を得ており,有効な手段であったと考えられる.今後は,予約制解説を利用しない視覚障害者や弱視者にとっても満足度の高い企画となるよう,情報アクセシビリティの向上が必要である.