日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG18] 景観評価とレクリエーションの国際比較

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:青木 陽二(国立環境研究所)、松島 肇(北海道大学大学院農学研究院)

17:15 〜 19:15

[HCG18-P07] 人吉球磨地域をロケ地とするアニメ『夏目友人帳』が在住者と観光客の地域認識に及ぼす影響

*呉 姝玥1劉 銘2中村 和彦1 (1.国立大学法人東京大学、2.國學院大学)


キーワード:コンテンツ・ツーリズム、自然認識、地域愛着、在住者、観光客

1.背景と目的
 近年、アニメや漫画などのコンテンツをきっかけに特定地域を訪れる「聖地巡礼」が注目されている。一方、観光客の集中による環境・景観の負荷や地元住民との摩擦も課題となり、特に自然観光地では持続可能な活用の在り方が求められている。熊本県の人吉球磨地域は、妖怪物語を題材とするアニメ作品『夏目友人帳』の舞台として知られ、ファンによる訪問が観光振興の契機となってきた。さらに、同地域は豊かな森林や河川などの自然景観を活用したエコツーリズムにも近い取り組みが進んでおり、自然環境保全と観光活性化を両立する事例として注目される。しかしながら、観光客と在住者それぞれの「自然認識」や「地域愛着」、そして作品による影響を比較検討した研究は十分に見当たらない。こうした背景を踏まえ、本研究では、人吉球磨地域を対象に「在住者と観光客」、そして「『夏目友人帳』に詳しい人と詳しくない人」が、それぞれの自然認識や地域愛着を把握し、『夏目友人帳』への認知がそれらにどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。
2.方法
 本研究では、自然観尺度および地域愛着尺度を参考に質問項目を作成し、人吉球磨地域を訪れる観光客(特に『夏目友人帳』のファン)および在住者を対象として、2024年8月および2025年2月にアンケート調査を実施した。配布・回収はオンラインと紙媒体を併用し、有効回答数は192件(在住者96名、観光客96名)を得た上で、「『夏目友人帳』に詳しい/詳しくない」で分類した。回答者の年齢層は10代〜60歳以上、男女比はほぼ同程度であった。11項目の回答を対象として探索的因子分析により解釈可能な因子を抽出したうえで、二元配置分散分析を用いて「在住者/観光客」と「『夏目』に詳しい/詳しくない」の2因子が各因子得点に及ぼす影響を検証した。
3.結果
 因子分析の結果、①地域魅力度認知、②自然に対する畏敬の念、③地域への自己帰属感という三因子が抽出された。二元配置分散分析により、因子1(地域魅力度認知)については、いずれの主効果や交互作用も有意な差が認められなかった。一方、因子2(自然に対する畏敬の念)は「在住者/観光客」によって有意差があり(p<.05)、在住者の平均得点が観光客よりも高い傾向が確認された。これは、地域に日常的に関わる在住者と、非日常的体験を求める観光客とで自然への向き合い方が異なる可能性が示唆された。さらに、因子3(地域への自己帰属感)では「『夏目』に詳しい/詳しくない」で有意な主効果加え(p<.05)、作品に関する知識が深い人ほど地域への自己帰属感が強く感じる傾向がみられた。
4.考察
 以上の結果から、人吉球磨地域における聖地巡礼は単に作品ゆかりの地を訪れるだけでなく、地域への帰属感と結びついている可能性がうかがえる。これは作品を通じて地域の自然や文化に共感し、より深い関与を持つ人ほど地域のポジティブな側面と感じやすいと考えられる。一方、在住者と観光客の間では自然に対する捉え方に差異があるため、今後は双方の視点を尊重しつつ、自然環境を保全しながら交流を促進する施策が必要となると考えられる。作品の魅力を活用しつつ、地域の持続可能性を支える具体的方策の検討が今後の課題である。