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[HCG20-P03] 亀裂を胚胎する溶岩層の水みちとしての可能性をNMR検層で評価する
キーワード:高レベル放射性廃棄物の地層処分、核磁気共鳴検層、水みち、地下水流動、間隙率、浸透率
1.はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分、地熱発電、CO2地中貯留の分野では、広域地下水流動を把握するために、地層の間隙率・透水係数・間隙サイズ分布などの基礎的な水理学的データを原位置で取得することが重要である。水分子を構成している1Hの原子核を対象にしたプロトン核磁気共鳴分光学(nuclear magnetic resonance, NMR)に基づく物理検層は、それらの水理学的データの深度分布を取得できる可能性がある。今回は地層処分の観点で、広域地下水流動特性として特に重要な水みち(透水係数が高い地層)について、国内で実施したNMR検層データの解析をおこなった結果、亀裂を胚胎する溶岩層の高い透水性を定量評価できた(亀裂開口幅を定量できた)ので発表する[1]。
2.NMR検層とその結果
NMR検層(図1, 2)は、駿河湾沿岸部の調査孔で実施した[2]。地層の大部分は未固結の第四紀扇状地堆積物(玉石交じりの砂礫層)であるが、一部に玄武岩質の溶岩層(厚さ7 m)がある。そこから採取した溶岩コア中の亀裂の一例を図3に示す。
図3の亀裂の開口幅を、NMR検層を用いて以下の手順で定量した。NMR検層の生データは、複数の時定数で指数関数的に減衰する1H核の横磁化の過渡的な波形である(減衰の時定数をT2とよぶ)。この生波形を逆ラプラス変換してT2i(i番目のT2値)に対応する振幅Aiを求める(図4)。T2値は空隙サイズに比例することが多いので、図4の横軸は間隙サイズに読み替え可能であり、図2の感度領域中のミクロな間隙(溶岩中の発泡した直径数十μmの微小空洞)とマクロな間隙(掘削泥で充填された開口亀裂)をT2の長短という視点で識別できる。図4のT2 > 13 msの部分のΣAiの値が感度領域中での亀裂の体積分率に相当する。亀裂の傾斜角(78°)を考慮したうえで、図3の開口幅が13 mmであれば、図4のT2 > 13 msの部分のΣAiの実測値を再現できることが分かった。平面ポアズイユ流を想定して、難透水性基質の厚さ7 mの溶岩層に開口幅13 mmの平面亀裂が1本走っている系の実効的な透水係数は、0.22 m/sと算出できる。
3.考察
厚さ7mの溶岩層の上位には、厚さ約140 m、透水係数約10-5 m/s(原位置水理試験の値)の扇状地堆積物(砂礫層)が堆積している。地下水輸送能力を評価するため、それぞれの透水係数に層厚を掛けた量(transmissivity)を計算すると、溶岩層は砂礫層の約1000倍にもなる。このことは、亀裂を含む厚さわずか7 mの溶岩層が、その地域の広域地下水流動を考えるとき無視できないことを示唆している。
しかし、NMRセンサーの感度領域は肉厚わずか2 cmの円筒状であり(図2)、この小さなスケールで計算した開口幅でkmスケールの広域的な地下水流動としての水みちを論じるには、ほかの検証が必要である。幸いにもこの地点では多くの支持データを得ることができた。一部を紹介すると、(i)調査孔から約3 km離れた海底(水深約140 m)で活発な海底湧水が観測されたが[2]、その湧水量は、開口幅1cm程度の平板亀裂内を流れる地下水流でおおむね説明できる。(ii)NMR検層と同じ調査孔で計測した地層水の温度、電気伝導度、塩素イオンなどの溶存イオン濃度、14Cなどの同位体比の深度分布は、すべて、溶岩層のある深度(約150m)とほぼ一致する深度100-200 mの区間で激変している[2]。このことは、溶岩層が水みちとして、駿河湾沿岸の広域的な地熱エネルギーや地下水とその溶存物質の輸送に大きな影響を及ぼしていることを示唆している。
このようにプロトン定量能力に秀でたNMR検層によって、透水性能評価に決定的な影響を及ぼす亀裂開口幅の定量ができた。原位置で亀裂開口量を定量計測できる手法があまりない現状では、NMR検層は水みち検出のための有望な手法といえる。
本研究には、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度~令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(沿岸部処分システム評価確証技術開発)」の成果の一部を利用した。
参考文献
[1] Nakashima, Y. and Ikawa, R. (2025) J. Nucl. Sci. Tech. https://doi.org/10.1080/00223131.2025.2451025
[2] 経済産業省資源エネルギー庁 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(沿岸部処分システム評価確証技術開発) 報告書 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/library/library06.html
高レベル放射性廃棄物の地層処分、地熱発電、CO2地中貯留の分野では、広域地下水流動を把握するために、地層の間隙率・透水係数・間隙サイズ分布などの基礎的な水理学的データを原位置で取得することが重要である。水分子を構成している1Hの原子核を対象にしたプロトン核磁気共鳴分光学(nuclear magnetic resonance, NMR)に基づく物理検層は、それらの水理学的データの深度分布を取得できる可能性がある。今回は地層処分の観点で、広域地下水流動特性として特に重要な水みち(透水係数が高い地層)について、国内で実施したNMR検層データの解析をおこなった結果、亀裂を胚胎する溶岩層の高い透水性を定量評価できた(亀裂開口幅を定量できた)ので発表する[1]。
2.NMR検層とその結果
NMR検層(図1, 2)は、駿河湾沿岸部の調査孔で実施した[2]。地層の大部分は未固結の第四紀扇状地堆積物(玉石交じりの砂礫層)であるが、一部に玄武岩質の溶岩層(厚さ7 m)がある。そこから採取した溶岩コア中の亀裂の一例を図3に示す。
図3の亀裂の開口幅を、NMR検層を用いて以下の手順で定量した。NMR検層の生データは、複数の時定数で指数関数的に減衰する1H核の横磁化の過渡的な波形である(減衰の時定数をT2とよぶ)。この生波形を逆ラプラス変換してT2i(i番目のT2値)に対応する振幅Aiを求める(図4)。T2値は空隙サイズに比例することが多いので、図4の横軸は間隙サイズに読み替え可能であり、図2の感度領域中のミクロな間隙(溶岩中の発泡した直径数十μmの微小空洞)とマクロな間隙(掘削泥で充填された開口亀裂)をT2の長短という視点で識別できる。図4のT2 > 13 msの部分のΣAiの値が感度領域中での亀裂の体積分率に相当する。亀裂の傾斜角(78°)を考慮したうえで、図3の開口幅が13 mmであれば、図4のT2 > 13 msの部分のΣAiの実測値を再現できることが分かった。平面ポアズイユ流を想定して、難透水性基質の厚さ7 mの溶岩層に開口幅13 mmの平面亀裂が1本走っている系の実効的な透水係数は、0.22 m/sと算出できる。
3.考察
厚さ7mの溶岩層の上位には、厚さ約140 m、透水係数約10-5 m/s(原位置水理試験の値)の扇状地堆積物(砂礫層)が堆積している。地下水輸送能力を評価するため、それぞれの透水係数に層厚を掛けた量(transmissivity)を計算すると、溶岩層は砂礫層の約1000倍にもなる。このことは、亀裂を含む厚さわずか7 mの溶岩層が、その地域の広域地下水流動を考えるとき無視できないことを示唆している。
しかし、NMRセンサーの感度領域は肉厚わずか2 cmの円筒状であり(図2)、この小さなスケールで計算した開口幅でkmスケールの広域的な地下水流動としての水みちを論じるには、ほかの検証が必要である。幸いにもこの地点では多くの支持データを得ることができた。一部を紹介すると、(i)調査孔から約3 km離れた海底(水深約140 m)で活発な海底湧水が観測されたが[2]、その湧水量は、開口幅1cm程度の平板亀裂内を流れる地下水流でおおむね説明できる。(ii)NMR検層と同じ調査孔で計測した地層水の温度、電気伝導度、塩素イオンなどの溶存イオン濃度、14Cなどの同位体比の深度分布は、すべて、溶岩層のある深度(約150m)とほぼ一致する深度100-200 mの区間で激変している[2]。このことは、溶岩層が水みちとして、駿河湾沿岸の広域的な地熱エネルギーや地下水とその溶存物質の輸送に大きな影響を及ぼしていることを示唆している。
このようにプロトン定量能力に秀でたNMR検層によって、透水性能評価に決定的な影響を及ぼす亀裂開口幅の定量ができた。原位置で亀裂開口量を定量計測できる手法があまりない現状では、NMR検層は水みち検出のための有望な手法といえる。
本研究には、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度~令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(沿岸部処分システム評価確証技術開発)」の成果の一部を利用した。
参考文献
[1] Nakashima, Y. and Ikawa, R. (2025) J. Nucl. Sci. Tech. https://doi.org/10.1080/00223131.2025.2451025
[2] 経済産業省資源エネルギー庁 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(沿岸部処分システム評価確証技術開発) 報告書 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/library/library06.html