日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、座長:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)

14:45 〜 15:00

[HCG21-05] ベンガルファン堆積物のバイオマーカープロファイルによる化学堆積学シーケンス解析

*児玉 祐輔1安藤 卓人2沢田 健1,3 (1.北海道大学 理学院 自然史科学専攻、2.秋田大学 国際資源学研究科 資源地球科学専攻、3.北海道大学 理学研究院 地球惑星科学部門)


キーワード:ベンガルファン、植物テルペノイド、化学堆積学シーケンス、タービダイト、IODP

インド洋北東部のベンガル湾には、主にヒマラヤ山脈やチベット高原の隆起に伴う多量の砕屑物がガンジス川・ブラマプトラ川水系によって流入しており、地球上で最大の海底扇状地であるベンガルファンが形成されている(Curray et al., 2002)。海底扇状地は洪水流や地震等に起因するタービダイトによって主に構成されており、陸源有機物が濃集する例が知られている(Baudin et al., 2010; Biscara et al., 2011)。本研究ではベンガル湾で掘削された堆積物コアに含まれる生物起源有機分子(バイオマーカー)の深度プロファイルデータを用いて化学堆積学シーケンス解析を行い、ベンガルファンを構成するタービダイトの堆積過程を検討した。
本研究では、ベンガル湾にて実施された国際深海科学掘削計画(IODP) Exp. 353で掘削されたSite U1444のコア試料を用いた。微化石層序から、コアの最下部は約6Maと推定される。U1444Aコアは、大きく分けて4つの堆積相からなる。Unit 1は多様な層厚のタービダイトが含まれるシルト質砂とシルト質粘土、Unit 2は薄いタービダイトが含まれる粘土、Unit 3はコア回収率が悪いがシルト質砂と粘土質シルト、Unit 4は薄いタービダイトを含むシルト質粘土から構成される。本研究では、U1444Aコアのタービダイト層(シーケンス)を粗粒層とその直下・直上の細粒層(直下:半遠洋性泥層(Hemipelagite)、直上:基本的にタービダイト性泥層(Tmud))に分けて採取して分析した。凍結乾燥した堆積物コア試料を粉砕、有機溶媒抽出、けん化処理した後に、シリカゲルカラムによって分離した。それらの画分をGC-MSおよびGC-FIDで分析した。
堆積物試料からはステロイドや陸上植物由来のテルペノイドが検出された。C27ステロイドは主に海生藻類由来であり、C29ステロイドは主に陸上植物に由来するため、ステロイドC29/C27比は陸源流入指標として用いられる。植物テルペノイドは、マングローブに由来するタラキセロール(Taraxerol)が特徴的に高い割合で検出された。Unit 1のタービダイトシーケンスにおいて植物テルペノイドの濃度・組成はほとんど変動しなかったが、C29/C27ステロイド比は粗粒層でのみ高い値を示した。Unit 2とUnit 4のシーケンスでは、直下のHemipelagiteよりも粗粒層や直上のTmudで植物テルペノイド濃度やC29/C27ステロイド比が高い傾向が見られた。タービダイトシーケンスの粗粒層と直上のTmudにおける陸源流入指標の増加は、ベンガルファンにおいて陸源物質の混濁流による陸域や沿岸域からの直接的・効率的な輸送が起こっていたことを示唆するものである。一方、一部のシーケンスでは粗粒層の方が直下・直上の細粒層よりも低い植物テルペノイド濃度やC29/C27ステロイド比を示し、針葉樹由来のデヒドロアビエチン酸(DAA)が高い割合で検出された。この結果は分解されにくい樹脂や材に含まれるDAAが海底地すべりによって再堆積した可能性を示唆する。本研究のタービダイトシーケンスにおけるバイオマーカープロファイルの傾向は中新世から更新世まで長期的に変化していて、その変化はClift et al (2008)で示されたヒマラヤ山脈の隆起史と大まかに同調していることがわかった。つまり、バイオマーカープロファイルに記録されたベンガルファンの堆積システムは大局的にヒマラヤ山脈の隆起を反映していると考えられる。