日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、座長:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)

15:30 〜 15:45

[HCG21-07] 定常的海水準変動サイクルのもとで進行する下流域沖積系の層序収束とチャネル安定化

*武藤 鉄司1、本宮 奎吾2、飯嶋 耕崇2、大野 研也2、Pamutan Miya1、Wang Junhui3 (1.長崎大学総合生産科学研究科(環境科学系)、2.INPEX、3.中国石油大学 (北京))

キーワード:埋積、オート層序学、削剥、非平衡応答、海退、海進

海水準フォーシングに対する下流域沖積系の応答は地球表層における主要な堆積物移送プロセスの一つである。今日一般に受け入れられている学説は下流域沖積系の応答は相応規模の海水準変動サイクルの位相と対応し,海水準が同じ位相に来るたびに系は同じ応答を繰り返すと説く。これは,特定の海水準条件のもとで下流域沖積系が特定パターンの応答をすることを想定した平衡応答の地層観に根差した考え方に他ならない。このスキームの中では,下流域沖積系は海水準下降期に削剥・下刻する傾向にあり,そして上昇期には埋積する傾向にあると説明されることが多い。このような考え方はもともと概念的思索から発したものであり,現在においてもフィジカルな根拠で十分裏付けられているわけではない。この問題について,著者らはモデル実験と理論的検討に基づき,従来と大幅に異なる理解を提起した(e.g. Wang & Muto 2021 Sedimentology)。それは次のように要約される。海水準変動のもとで成長する下流域沖積系は,海水準フォーシングに対して非平衡応答(non-equilibrium response)するのが一般的であり,定常的海水準条件下でも系の応答は非定常的に変遷する。同じフォーシングのもとであっても,系それ自体が成長しサイズを増していくことで,特定の同じ応答を持続できなくなるからである。同一パターンの海水準変動サイクルが繰り返される場合,各サイクルの中で進行する地形・地層形成過程はサイクルを経るにつれて変遷する。次のサイクルで起こることは前のサイクルで起こったことの単純なリピートではなく,非平衡応答それ自体もサイクル数の経過に伴って非定常的に変遷していく。例えば,早期サイクルの海水準下降時に大規模な下刻が起こったとしても,多数回のサイクルを経て下流域沖積系が十分に成長していれば,サイクルのどのタイミングにおいても削剥・下刻を生じない恒常的埋積状態に到達する。サイクル位相と下流域沖積系の挙動との間の固定的対応関係は一般には成り立たない。ただし,恒常的埋積状態はいわば最終形態であり,これ以降のサイクルでは実質的な変遷を生じない。そのような状態に到達するまでの過程を著者らは層序収束(stratigraphic convergence)と呼んでいる。
 定常海水準変動サイクルのもとで層序収束へ向かう下流域沖積系について,そのチャネル動態の変遷パターンが明らかになりつつある。長崎大学のマルジ系水槽を用いて三次元モデル実験を行ったところ,以下の知見が得られた。1. 早期サイクルの海水準上昇期においては,沖積チャネルは側方移動とアバルジョンを頻繁に繰り返す。非デルタ性海進沖積系の縮小に伴ってオートステップが形成されやすくなる。上昇期間が十分に長ければ形態力学上の平衡に到達し,一定サイズのオートステップを生成しながら後退していく。下降期においては,河谷が形成されやすく,チャネルの活動は河谷内に限定される。2.サイクルが進行するにつれて,上昇期・下降期とも,チャネルの安定性が増していく。下降期においては削剥が起こりにくくなる。3.晩期サイクルの海水準上昇期においては,沖積チャネルは側方移動もアバルジョンも経験することなく,河口域にロブを残しながらバックステップしていくが,系の縮小範囲がディスタル部に限られるためオートステップの生成には至らない。下降期においては,削剥を伴うことなく,また側方移動もアバルジョンも伴うことなく,沖積チャネルが海方向へ直線的に延伸していく。オートジェニックな河川平衡(alluvial grade)の状態へ漸近しつつ,チャネル埋積速度は限りなくゼロに近づいていく。
 既知または未知の海水準変動に対する下流域沖積系の層序応答を地質記録から解明しようとする試みでは,系の空間的成長の影響とそれに伴う層序収束の理解が極めて重要である。本議論は定常的で対称的な海水準サイクルのもとで成長する沖積系を主対象としているが,非定常なサイクルのもとで成長する場合にも応用可能であろうし,それぞれの条件下での層序収束の可能性を検討することは意味がある。少なくとも,海水準が同じ位相に来るたびに同じ層序応答を繰り返すといったような考え方は一般には成り立たないことは明らかである。支配していた海水準フォーシングの推定と地層の広域的対比の際は留意しておく必要がある。