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[HCG21-P06] 鮮新統人吉層中の化石林と古土壌が示す古環境

キーワード:鮮新世、堆積環境、古土壌、人吉層
はじめに
樹幹化石や根の痕跡は,過去にその地に草原や森林が存在し,土壌が発達していたことを示す.熊本県人吉市の球磨川河床に露出する鮮新統人吉層には多数の樹幹化石からなる化石林が含まれ,その周囲には古土壌が広がっている.化石林は,過去の陸上環境を記録する貴重な証拠であり,古環境復元において重要な意義を持つ.日本列島では2.9 Ma 以降の寒冷化に伴い,温暖湿潤な森林が衰退し,冷温帯の樹木が増加したことが植物化石の記録から明らかになっている(百原,2016).本研究では,九州地方に分布する人吉層に発達した古土壌を用い,当時の陸上環境の復元を目指す.
地質概説
人吉層は四万十帯や肥薩火山岩類を起源とする礫岩・砂岩優勢な下部と,凝灰質泥岩優勢な上部に区分されている(田村ほか, 1962).人吉層下部では林ほか(2007)による堆積相解析が行われており,湖周辺に発達したファンデルタ堆積物であると解釈されている.人吉層上部からはヒシ化石(今西・宮原, 1972),淡水貝化石(田村ほか, 1962),淡水海綿化石(松岡ほか,2006)などの湖沼環境を示す化石が報告されている.人吉層は凝灰岩のK-Ar年代が測定によって,堆積年代が詳細に検討されている.人吉層最下部の船戸凝灰岩部層2.72±0.25Ma,人吉層最上部の山田凝灰岩から2.58±0.08Maが報告されている(鳥井ほか, 1999).
堆積環境
人吉盆地西部において野外調査を実施し,球磨川流域の河床および球磨村総合運動公園の法面において柱状図を作成した.また,岩相・堆積構造・植物化石の産状に基づき,11の堆積相を区分した.その結果,人吉層下部は,礫質な網状河川堆積物が卓越するLower Fan堆積物と,デブリフロウ堆積物が卓越するUpper Fan堆積物から構成され,人吉層下部は扇状地をなしていたと考えられる.一方,人吉層上部は,泥質タービダイト層を挟む不淘汰シルト岩からなり,湖成層と考えられる.
化石林の古土壌
人吉層下部には樹幹化石を豊富に含む化石林の層準が認められ,氾濫原相に相当する.この層準は人吉層下部(扇状地堆積物)と人吉層上部(湖成層)の境界付近に位置し,当時の湖縁辺の湖畔林が保存されていると考えられる.
化石林の古土壌は,黒色の有機質に富むA層,白色を呈するB層,堆積構造を保持するC層からなる土層分化が明瞭である.特にA層は細粒であり,層理面と斜交するスリッケンラインが発達する.
人吉層では,化石林といえる規模のものは1層準のみであり,特定の地形的条件が化石林の形成に寄与した可能性が示唆される.また,人吉層は普遍的に軽石や火山ガラスが豊富に含み,土壌母材は火山灰質である.
議論
火山灰質土壌は火山ガラスを多く含むため,土壌化が進みやすいとされる(Shoji et al., 1993).さらに,古土壌が人吉層下部(扇状地環境)に集中し,人吉層上部(湖成層)にはほとんど認められないこと,また湖縁付近の氾濫原で樹幹化石を豊富に含む層準が確認されることから,湖周辺の環境変化が土壌形成や植生に大きな影響を与えていた可能性がある.また,古土壌中に発達するスリッケンラインは粘土鉱物の生成とその季節的膨縮から形成されたと考えられ,化石林の古土壌が強く土壌化し,成熟した土壌であることを示している.このことは,局所的な環境変動やより広域的な気候変動による可能性が考えられる.一般に変動帯では大量の土砂供給と高い堆積速度から成熟した土壌の形成は限定的である.しかし,人吉層の化石林の存在は鮮新世末期の冷涼な気候条件下において,土壌成熟を招く温暖・湿潤期が出現し,植生に影響を与えていた可能性が示唆される.
引用文献
林ほか. 2007, 熊本大学教育学部紀要, 56, 71-77. 今西・宮原, 1972, 熊本大学教養部紀要, 7, 27-31. Juha et al., 2014, Proc. R. Soc. B., 281, 20132049. 松岡ほか, 2006, 豊橋市自然史博物館報, 16, 31-37. 百原 新,2016,Quaternary International,397.93-105. Shoji et al., 1993, Developments in Soil Science, 21, 37-71. 田村ほか, 1962, 熊本大教育学部紀要, 10, 49-56. 鳥井ほか, 1999, 地質雑, 105,585-588. Zachos et al., 2001, Science, 292, 686-693
樹幹化石や根の痕跡は,過去にその地に草原や森林が存在し,土壌が発達していたことを示す.熊本県人吉市の球磨川河床に露出する鮮新統人吉層には多数の樹幹化石からなる化石林が含まれ,その周囲には古土壌が広がっている.化石林は,過去の陸上環境を記録する貴重な証拠であり,古環境復元において重要な意義を持つ.日本列島では2.9 Ma 以降の寒冷化に伴い,温暖湿潤な森林が衰退し,冷温帯の樹木が増加したことが植物化石の記録から明らかになっている(百原,2016).本研究では,九州地方に分布する人吉層に発達した古土壌を用い,当時の陸上環境の復元を目指す.
地質概説
人吉層は四万十帯や肥薩火山岩類を起源とする礫岩・砂岩優勢な下部と,凝灰質泥岩優勢な上部に区分されている(田村ほか, 1962).人吉層下部では林ほか(2007)による堆積相解析が行われており,湖周辺に発達したファンデルタ堆積物であると解釈されている.人吉層上部からはヒシ化石(今西・宮原, 1972),淡水貝化石(田村ほか, 1962),淡水海綿化石(松岡ほか,2006)などの湖沼環境を示す化石が報告されている.人吉層は凝灰岩のK-Ar年代が測定によって,堆積年代が詳細に検討されている.人吉層最下部の船戸凝灰岩部層2.72±0.25Ma,人吉層最上部の山田凝灰岩から2.58±0.08Maが報告されている(鳥井ほか, 1999).
堆積環境
人吉盆地西部において野外調査を実施し,球磨川流域の河床および球磨村総合運動公園の法面において柱状図を作成した.また,岩相・堆積構造・植物化石の産状に基づき,11の堆積相を区分した.その結果,人吉層下部は,礫質な網状河川堆積物が卓越するLower Fan堆積物と,デブリフロウ堆積物が卓越するUpper Fan堆積物から構成され,人吉層下部は扇状地をなしていたと考えられる.一方,人吉層上部は,泥質タービダイト層を挟む不淘汰シルト岩からなり,湖成層と考えられる.
化石林の古土壌
人吉層下部には樹幹化石を豊富に含む化石林の層準が認められ,氾濫原相に相当する.この層準は人吉層下部(扇状地堆積物)と人吉層上部(湖成層)の境界付近に位置し,当時の湖縁辺の湖畔林が保存されていると考えられる.
化石林の古土壌は,黒色の有機質に富むA層,白色を呈するB層,堆積構造を保持するC層からなる土層分化が明瞭である.特にA層は細粒であり,層理面と斜交するスリッケンラインが発達する.
人吉層では,化石林といえる規模のものは1層準のみであり,特定の地形的条件が化石林の形成に寄与した可能性が示唆される.また,人吉層は普遍的に軽石や火山ガラスが豊富に含み,土壌母材は火山灰質である.
議論
火山灰質土壌は火山ガラスを多く含むため,土壌化が進みやすいとされる(Shoji et al., 1993).さらに,古土壌が人吉層下部(扇状地環境)に集中し,人吉層上部(湖成層)にはほとんど認められないこと,また湖縁付近の氾濫原で樹幹化石を豊富に含む層準が確認されることから,湖周辺の環境変化が土壌形成や植生に大きな影響を与えていた可能性がある.また,古土壌中に発達するスリッケンラインは粘土鉱物の生成とその季節的膨縮から形成されたと考えられ,化石林の古土壌が強く土壌化し,成熟した土壌であることを示している.このことは,局所的な環境変動やより広域的な気候変動による可能性が考えられる.一般に変動帯では大量の土砂供給と高い堆積速度から成熟した土壌の形成は限定的である.しかし,人吉層の化石林の存在は鮮新世末期の冷涼な気候条件下において,土壌成熟を招く温暖・湿潤期が出現し,植生に影響を与えていた可能性が示唆される.
引用文献
林ほか. 2007, 熊本大学教育学部紀要, 56, 71-77. 今西・宮原, 1972, 熊本大学教養部紀要, 7, 27-31. Juha et al., 2014, Proc. R. Soc. B., 281, 20132049. 松岡ほか, 2006, 豊橋市自然史博物館報, 16, 31-37. 百原 新,2016,Quaternary International,397.93-105. Shoji et al., 1993, Developments in Soil Science, 21, 37-71. 田村ほか, 1962, 熊本大教育学部紀要, 10, 49-56. 鳥井ほか, 1999, 地質雑, 105,585-588. Zachos et al., 2001, Science, 292, 686-693