10:45 〜 11:00
[HCG22-07] 原爆による「黒い雨」領域推定の基礎的研究―その進捗
キーワード:原爆による「黒い雨」、放射性降下物、モデル計算、土壌調査
【はじめに】 1945年の原爆投下による放射性降下物の沈着地域、いわゆる「黒い雨」の正確な推定に向け、2021年1月から開始された調査研究の概要を昨年度本学会では紹介した。本発表では、その後の調査研究の進捗について簡単に紹介する。
【方法】
(1)気象シミュレーションモデルの構築
原子爆弾炸裂時の気象状況やその後の放射性物質の拡散状況、大規模な火災が輸送・拡散に与える影響等を考慮に入れた放射性物質の沈着状況再現のため、気象シミュレーションモデルを以下のように構築し一連の作業を行った。
a)爆発再現計算:爆発雲での爆弾由来物質の情報を気象モデルに与えるため、市販のComputed Fluid Dynamicsモデルで、爆発後0.1秒程度の火球状態から爆発雲の形成までの再現計算を実施した。
b)気象モデルによる雲形成・降雨再現計算: 計算を複数のプロセスに分割して、広島の事例につき本格的な計算を実施した。また、モデル計算の不確実性の評価にも留意して検討を行った。利用可能な日米欧の気象データによる計算結果を比較し、欧州中期予報センターの作製した再解析データ(ERA5)を用いた気象シミュレーションが、不確実性が最も小さい黒い雨評価を与えることがわかった。そこでERA5を入力とした気象モデルに、爆発雲・街区火災・衝撃塵由来の物質を導入し、輸送・拡散モデルとしてFLEXPARTを用いて沈着計算を実施した。
(2)モデル計算の検証―土壌調査
次に、モデル結果の検証データ入手を目的に実施している土壌調査の進捗状況について述べる。放射性物質を含む降水現象や沈着があったと推定される地域を含む広島の広範な領域(5 km格子で約110格子)で表土試料を採取し、放射性物質や微粒子状炭素(微粒炭;20 μm~)等の分析に供し、放射性降下物の拡散状況を調査した。調査では、長崎市での既存調査および、森林土壌の流出に関する研究例に着目し、森林での採取手法(スクレーパー・プレート法)を採用した。
土壌調査では「黒い雨」沈着の証拠-核爆発に由来する①137Cs等の放射性物質、②熱線照射による街区火災由来の微粒炭が、互いに混合しながら共通したプロセスで輸送され、おそらく、③衝撃波で地表から舞い上がった衝撃塵-放射化物とも一緒に降水過程と乾性過程で地表面へ沈着した証拠と考えられる。これまでの土壌調査では、土壌未かく乱と判断された地点の森林環境中の土壌柱では、グローバル・フォールアウト(GF)由来137Csと大気由来の過剰210Pbがきれいに成層して残留し、過剰210Pbによる堆積年代指標推定から、1945年当時に原爆由来の137Csや微粒子状炭が沈着したと推定できる事例が複数、広島・長崎の未かく乱の土壌柱で認められた。GF由来137Cs濃度極大よりも下層に原爆由来と推定される137Cs濃度極大または増大が認められ、さらに微粒炭個数濃度極大と原爆由来137Csの濃度極大の層序がほぼ同位にある例が複数見つかっている。
謝辞:本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。
【方法】
(1)気象シミュレーションモデルの構築
原子爆弾炸裂時の気象状況やその後の放射性物質の拡散状況、大規模な火災が輸送・拡散に与える影響等を考慮に入れた放射性物質の沈着状況再現のため、気象シミュレーションモデルを以下のように構築し一連の作業を行った。
a)爆発再現計算:爆発雲での爆弾由来物質の情報を気象モデルに与えるため、市販のComputed Fluid Dynamicsモデルで、爆発後0.1秒程度の火球状態から爆発雲の形成までの再現計算を実施した。
b)気象モデルによる雲形成・降雨再現計算: 計算を複数のプロセスに分割して、広島の事例につき本格的な計算を実施した。また、モデル計算の不確実性の評価にも留意して検討を行った。利用可能な日米欧の気象データによる計算結果を比較し、欧州中期予報センターの作製した再解析データ(ERA5)を用いた気象シミュレーションが、不確実性が最も小さい黒い雨評価を与えることがわかった。そこでERA5を入力とした気象モデルに、爆発雲・街区火災・衝撃塵由来の物質を導入し、輸送・拡散モデルとしてFLEXPARTを用いて沈着計算を実施した。
(2)モデル計算の検証―土壌調査
次に、モデル結果の検証データ入手を目的に実施している土壌調査の進捗状況について述べる。放射性物質を含む降水現象や沈着があったと推定される地域を含む広島の広範な領域(5 km格子で約110格子)で表土試料を採取し、放射性物質や微粒子状炭素(微粒炭;20 μm~)等の分析に供し、放射性降下物の拡散状況を調査した。調査では、長崎市での既存調査および、森林土壌の流出に関する研究例に着目し、森林での採取手法(スクレーパー・プレート法)を採用した。
土壌調査では「黒い雨」沈着の証拠-核爆発に由来する①137Cs等の放射性物質、②熱線照射による街区火災由来の微粒炭が、互いに混合しながら共通したプロセスで輸送され、おそらく、③衝撃波で地表から舞い上がった衝撃塵-放射化物とも一緒に降水過程と乾性過程で地表面へ沈着した証拠と考えられる。これまでの土壌調査では、土壌未かく乱と判断された地点の森林環境中の土壌柱では、グローバル・フォールアウト(GF)由来137Csと大気由来の過剰210Pbがきれいに成層して残留し、過剰210Pbによる堆積年代指標推定から、1945年当時に原爆由来の137Csや微粒子状炭が沈着したと推定できる事例が複数、広島・長崎の未かく乱の土壌柱で認められた。GF由来137Cs濃度極大よりも下層に原爆由来と推定される137Cs濃度極大または増大が認められ、さらに微粒炭個数濃度極大と原爆由来137Csの濃度極大の層序がほぼ同位にある例が複数見つかっている。
謝辞:本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。