日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] CTBT国際監視制度が拓く地球科学:現状、運用、科学的応用

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:Metz Dirk(CTBTO)、遠藤 暁(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)、松本 浩幸(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、乙津 孝之(一般財団法人 日本気象協会)

17:15 〜 19:15

[HCG22-P07] 広島地方における放射性降下物の分布

*猪股 弥生1五十嵐 康人2遠藤 暁3、高宮 幸一2八島 浩2、福谷 哲2、池上 麻衣子2向井 中2、足立 友紀2井上 淳4、気象土壌 WG (1.金沢大学 環日本海域環境研究センター、2.京都大学 複合原子力科学研究所、3.広島大学大学院先進理工系科学研究科、4.大阪公立大学)

キーワード:137Cs、ex210Pb、土壌インベントリ、原子爆弾

【緒言】大規模核実験に先立ち、1945年に広島・長崎に投下された原子力爆弾由来の放射性核種により、広島・長崎は壊滅的な被害に襲われ、局地的なフォールアウト(黒い雨)があったことが知られている。本研究では、広島における原爆由来の放射性核種の沈着域を明らかにすることを目的とした。広島を5㎞毎に120メッシュ(緯度34.333333-34.833333°N;経度 132.125-132.75°E)に分割し、30㎝の深度まで土壌試料を採取した。このうち、人による覆土や土壌掘削等の手が加えられていない、未改変土壌中の放射性核種の濃度分布を調べた。対象とした放射性核種は、137Csと地表面から散逸する222Rnの壊変生成核種で、降水や乾性沈着によって大気から地表に供給されている自然放射性核種210Pb(過剰210Pb;ex210Pb)であり、これらは森林土壌浸食などの調査研究においてトレーサーとして使用されてきた。本研究は、土壌中放射能データ等をまとめてその分布を推定するとともに、過去の測定データや体験談などを図示化することで、黒い雨沈着地域を総合的に推定することを目的としている。
【広島における放射性核種の分布】
137Csとex210Pbインベントリは、爆心地から離れた北-北西の地域で高い傾向であった。ex210Pbによって年代推定された1945年の土壌深度は17-282cm(中央値56cm)であった。137Cs・ex210Pbインベントリの高い地域における1945年相当層は爆心地付近よりも深い傾向があった。厚生省調査研究による広島・長崎の残留放射能調査(昭和51年度、53年度)で報告された爆心地から30km以内の137Csインベントリは、本研究で得られた値とほぼ同じ範囲であった。
土壌中に含まれる放射性核種の主な起源は、大気中の濃度と降水による沈着であり、第一に降下量に依存すると考えられている。広島における降水量は冬-春季に大きく、降水量の多い地域は137Cs・ex210Pbインベントリが大きい地域に対応していた。広島県における降水中137Cs濃度変動から、大規模核実験由来の放射性核種の降下は冬から春季に大きいことが確認できた。特に、1963-1964年の137Cs年間降下量は他の年と比較して明らかに大きいことから、土壌中に見られる高いインベントリ層は、大規模核実験の痕跡であることが示唆された。
原子爆弾投下時に実際に広島にいた人の体験談(原子爆弾災害調査報告)をもとに、爆心地近傍(132.375-132.5°E, 34.3-34.5°N)における黒い雨の降った地域を推定した。大雨は爆心地の西-北部で降ったこと、爆心地の東や南では、雨が降らなかった或いは雨の記載がなかった。また、本研究で得られた137Csインベントリが低いにも関わらず大雨・雨の記録がある地点もあり、雨の降った領域はまばらであり、雨の強度も場所による違いが大きい可能性がある。

謝辞:本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。