日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 文化水文学

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)、座長:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)


11:30 〜 11:45

[HCG23-04] 隆起珊瑚礁島・宮古島における地下水水質管理に向けた窒素汚染源の影響評価

*齋木 真琴1新井 宏受1木庭 啓介2,1林 健太郎1 (1.総合地球環境学研究所 Sustai-N-ableプロジェクト、2.京都大学生態学研究センター)

水資源が乏しい島嶼地域では、水の量・質の管理は島内の生活を維持し、発展させるための重要課題である。隆起珊瑚礁の6つの島々から成る沖縄県宮古島市は、生活・農業用水を唯一の水源である地下水で賄い、農水産業と観光業を主軸として発展している地域である。1980年代に地下水の硝酸態窒素濃度が水道水質基準値に近づき、現在も全国的に高い水準にある。地下水の水質管理のためには、汚染物質の排出源の特定と水質への寄与、そして汚染物質の地下水へ混入後の動態を把握する必要がある。宮古島市では、2021年に地下水に含まれる硝酸態窒素の起源別割合が原単位法によって推計されているが、水の流れや生物反応(脱窒等)を考慮した窒素動態は十分に評価されていない。そこで本研究では、宮古島市における窒素動態を把握するために、水質調査と窒素収支を用いて汚染源の地下水水質への影響を推定した。
調査対象地は、宮古島市内で最も面積が大きい宮古島(165 km2)とした。島のほとんどは空隙率(9%)の高い琉球石灰岩に覆われ、下位に不透水性の泥岩からなる島尻層が分布している。地層の分布状況と北西から南東方向に走る数乗の断層、5つの地下ダム堤体により、27の地下水流域が形成されている。本島には、生活・農業用水源流域が5つあり、ここから揚水した水は市内の他の島々にも供給されている。年間降水量は約2,000 mmで冬〜春にかけて乾季となる。地下水位は季節変動が見られるものの、経年的に見ると安定しており、年間の総流入量と総流出量は等しいと予想される。水収支における流入の内訳は降水、灌漑水、生活排水の浸透とし、流出の内訳は、人為的な揚水(生活、農業、事業用)と自然流出(湧水)とした。
本島の約半分がサトウキビを中心とした農地であり、畜産は肉用牛の飼育が盛んである。下水道の接続率は16%(2020年)であり、多くの家庭は浄化槽および汲み取り式排水設備を利用している。11流域の湧水および洞穴泉水(掘り下げ井戸水)における現地調査を2022〜2024年の春(3、4月)と夏(6〜8月)に行い、採水した水試料は硝酸態窒素濃度及び硝酸安定同位体比の分析を行った。窒素収支における地下水への窒素負荷源は、土壌、化学肥料、家畜廃棄物、家庭排水とし、その負荷量は宮古島市(2021)による推計結果を用いた。地下水からの窒素流出経路は、揚水および湧水に伴う流出、脱窒を仮定した。
2021年度における島全体の水収支を推計した結果、揚水量は総流出量の10%であり、残り90%は湧水として島周辺の海域へ流出していることが分かった。生活・農業用水源の流域に着目すると、揚水量の割合は2〜73%であり、地下ダムがある流域で割合が高くなる傾向が見られた。宮古島の地下ダムはすべて農業用であり、地下水に含まれる窒素は灌漑水として農地に還元される可能性が高い。
水質分析の結果、各流域における硝酸態窒素濃度は2.1−4.1 ppm、硝酸態窒素安定同位体比は4.7−11.5‰、硝酸態酸素安定同位体比は1.2−2.9‰(全て平均値)であった。これらの水質調査結果と各流域の窒素汚染源を特徴付ける情報との相関分析を行い、各汚染源の地下水質への影響を評価した。窒素汚染源の情報としては、単位流域面積あたりの農地面積、飼育肉用牛数、人口を用い、それぞれ化学肥料由来、家畜廃棄物由来、家庭排水由来の窒素汚染を示す。化学肥料由来に関しては、湧水の水質調査結果と農地面積との相関が見られた。湧水の採水地点は島南東の琉球石灰岩が薄い流域で、地下水の滞留時間が比較的短い。そのため、降雨時等に流入した肥料由来の窒素が水質に反映されやすいと考えられる。家畜廃棄物由来に関しては、水質調査結果と飼育肉用牛数との相関は見られず、適正な廃棄物処理が行われているか、廃棄物による負荷は水質に影響を及ぼさない程度に小さいと示唆された。家庭排水由来については、下水道が整備されている流域では水質調査結果と人口との相関が見られなかったが、それ以外の流域では相関が見られた。宮古島市の非水洗化率は54%(2021年度)と高いことからも、家庭排水が地下水水質へ影響を与えている可能性は高い。
窒素収支は現地調査を行った11流域で推計した。脱窒量は水質調査結果から反応が生じていることを確認できなかったため収支から除外した。地下水の窒素濃度は近年減少傾向もしくは一定であるため、地下水への総流入量が総流出量を下回るもしくは等しいと予想されたが、本研究結果では8流域で総流出量が多くなった。そのうち収支差が総流入量の10%以上の流域は、畜産が盛んな地域もしくは下水道が整備されている地域であり、上記の水質への影響評価の結果から地下水への負荷量を過大評価していると考えられた。