日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 圏外環境における閉鎖生態系と生物システムおよびその応用

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:加藤 浩(三重大学 研究基盤推進機構 先端科学研究支援センター)、安部 智子(東京電機大学理工学部)、篠原 正典(帝京科学大学)

17:15 〜 19:15

[HCG25-P01] 月面基地内に緑地を形成する箱庭テラフォーミング計画

★招待講演

*佐藤 一朗1、石岡 憲昭2、磯部 勝孝3、槇村 浩一4 (1.帝京大学医療共通教育研究センター、2.帝京大学医学部AMR寄付講座、3.日本大学生物資源科学部アグリサイエンス学科、4.帝京大学医真菌研究センター)

キーワード:箱庭テラフォーミング、月シミュラント、植物生育促進糸状菌、ハツカダイコン

宇宙開発の舞台が国際宇宙ステーション(ISS)から月面および火星へ移行しつつある。月面は二酸化珪素の結晶を多く有する月レゴリスで形成された砂漠である。ヒトが生活可能な月面基地を設置するためには食料生産が可能な農地が必要であるため、月面の緑化が必須である。近年、アポロ計画で採取された月レゴリスを用いたシロイヌナズナの栽培成功が報告された。しかしながら、当該研究ではシロイヌナズナは幼苗から生育が進まず、生活環が全うできることは見込めなかった。月レゴリスは空隙率が低いため、通気性や透水性が悪い。陽イオン交換容量が低いことから、肥料の残留性が低い。さらに月レゴリスが微細なガラス状結晶を多く含むことから、アスベストのような健康被害をもたらすことが懸念されている。これらのことから、月レゴリスは植物の生育に適した土壌とはいえない。したがって、月面で植物を栽培するためには、それが可能になるような処置が必要である。しかしながら、原始地球で生命が誕生してから地上が緑化されるまで、30億年以上の年月がかかったといわれており、月には大気を維持できるほどの引力もないため、月全体でのテラフォーミングは実現の可能性を見いだせない。そこで基地内にヒトが管理できる有用微生物群で屋内緑地および圃場を創成することを目的とした、箱庭テラフォーミング計画を演者らは提唱している。地上から打ち上げられる物品には限りがあるため、地球の肥沃土や堆肥を月に輸送することは現実的ではない。欧米の研究では堆肥の代わりに宇宙飛行士の人糞を月や火星の模擬砂(シミュラント)にすき込むことを計画している。人肥はかつて我が国でも一般的に使われていた肥料であるが、感染症予防と精神的忌避感の観点から、閉鎖環境での使用は避けたい。そのため、堆肥などのない状態から現地において土壌の創成を行うことを目標としている。地球環境における肥沃な土壌の生成・維持には多種多様な微生物が関与している。しかしながら、月環境の生態系を保持しつつヒトが生活できる環境を作るためには、土壌の創成・肥沃化に関わる微生物の種類は最小限かつ人体に悪影響がないものであることが必須条件である。
人類は溶岩で焼けただれた大地、砂漠などの裸地の緑化を経験してきたが、月面の緑化は未経験である。月面基地の開発は輸送の都合から、使用する資源は最小限にする必要がある。月面基地では初期は地球から食料を輸送し、植物工場を経て、農地での作物生産が見込まれている。そのため、植物残渣は必ず生じるため、それを植物生育促進微生物(PGPM;plant growth-promoting microorganism)で腐熟させ土壌改良資材に再生することで、シミュラントの土壌化および緑地への遷移をどこまで省資源化できるかを検証する。本研究により、月面という未知の環境における緑化および食料生産の知見を得ることができる。その成果は近年増加するマンションなどの高気密建造物における室内緑化に使えるだけで無く、経済的理由などで投入できる資源が限られている発展途上国における農耕不適地の緑化・農地への転換を行うための技術となることが見込める。
 本演題では、植物残渣を植物生育促進糸状菌で腐熟させた土壌改良材をシミュラントに施用し、ハツカダイコンの生育に及ぼす影響を比較した。その結果、シミュラントに資材を施用したハツカダイコンではシミュラントのみより生育が有意に向上したが、市販の培養土にはおよばなかった。また、シミュラントのみで栽培した場合には市販の培養土とは異なるタンパク質の動態が確認できた。さらに、収穫したハツカダイコンの化学組成や栽培後のシュミラントの化学・物理性を測定し、ハツカダイコン栽培に対する養分などの過不足を解析した。それらについて発表する。