日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 地すべりおよび関連現象

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:王 功輝(京都大学防災研究所)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、千木良 雅弘(公益財団法人 深田地質研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)

17:15 〜 19:15

[HDS07-P06] SAR衛星画像解析によって検出された令和6年能登半島地震に伴う地すべり土塊の変動

菊池 柚里1、*高橋 尚志2福島 洋2 (1.東北大学理学部、2.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:地すべり、2024年能登半島地震、SAR衛星画像、ピクセルオフセット解析

大規模な地震の発生時には,山地・丘陵地において地震動により斜面崩壊や地すべりが誘発される.令和6年能登半島地震では,山間部を中心に約2,000箇所以上で斜面崩壊が発生したことが確認された(国土地理院, 2024).Fukushima et al. (2024) は,SAR衛星画像を用いたピクセルオフセット解析によって,若山川沿いの幅約5 km以上の斜面が,この地震に伴って最大2 m程度滑動したこと,ならびにこれと類似した地すべり土塊の移動現象(hillslope slump; HS)が地震時に半島全域で多数発生していた可能性を示した.しかし,これらの地すべりの実態はほとんど明らかにされていない.そこで本研究では,これらの地すべりの実態を把握することを目的として,詳細なSARピクセルオフセット解析を実施し,令和6年能登半島地震に伴って発生したとみられるHSのマッピングを行った.本発表では, HSの空間分布傾向および,それらが能登半島の地形景観発達に与えてきた影響について報告・議論する.
本研究では,能登半島で地震前後に撮像された11組のSAR画像のペアを用いてピクセルオフセット解析を実施し,その結果をもとに,山地域において周囲とは異なるトレンドの変動が認められる領域を肉眼でマッピングした.マッピングの基準は,(1)変動領域の差し渡し(幅)の長さがおおむね300 m以上であること,(2)変動シグナルがほぼ一様であること,(3)複数の解析結果で変動が確認できること,(4)斜面の傾斜方向とおおむね調和的な方向の変動であること,とした.
その結果,少なくとも計246箇所でHS型の変動が認められ,最大で1.3×106 m2の規模であることが明らかになった.これらのHS型変動が認められた領域は,おおむね防災科研の地すべり分布図で示された地すべり土塊と範囲や活動方向などが一致する箇所が多かったことから,その多くが既存の地すべり土塊が滑動したものであると推察される.HS型の地すべり変動が認められた斜面領域は,地震による隆起量が大きく,また山地の起伏が大きい半島北部の海岸沿い西部や北東部に集中する(図).一方で,震源断層から遠く,相対的に起伏が小さい半島南側にはほとんど分布しない.HS型変動が確認できた領域を対象に現地踏査を実施したところ,変動方向とおおむね整合的で,かつ細かな尾根や谷を無視した亀裂などが観察された.このことから,これらの変動シグナルが実際の斜面地形の変動(HS型の地すべり変動)を反映したものであることが確認された.
国土地理院(2024)によって判読された斜面崩壊はデイサイト・流紋岩で多いことが報告されている(阿部ほか,2024)が,今回認められたHS型地すべりの個数は,珪質泥岩の分布域で最も多く(31.3%),次いで砂岩・泥岩(23.2%),デイサイト・流紋岩(15.9%)の順に多い.このことは,斜面崩壊とHS型地すべりが異なるプロセスであること,ならびに地質によって斜面地形の形成や侵食過程が異なることを反映している可能性がある.
今回確認できたHS型地すべりは,幅数100 m~数 kmの規模の土塊が,その形をほとんど保ったままメートルスケールで移動する現象であり,空中写真では判読・識別しづらく,他地域の過去の地震で発生していたとしても,これまでほとんど認識されてこなかった可能性があり,これらの現象に対するSARピクセルオフセット解析の有効性が実証された.これらのHS型地すべりは,長期的な時間スケールでの能登半島の山地・丘陵地の侵食に無視できない影響を与えていると推察され,地すべり地形が卓越する他の隆起山地・丘陵においても重要な地形形成プロセスの1つである可能性が示唆される.