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[HDS07-P12] 富士山における土石流およびスラッシュ雪崩に伴う地震波振動特性の時間的変動
キーワード:富士山、スラッシュ雪崩、泥流、地震波粒子軌跡、地震波形データ、スペクトル解析
火山噴火後に発生する融雪型火山泥流や降灰後土石流はこれまで大きな災害をもたらしてきた.このような現象を即時把握するためには,平年に発生する土石流等の観測頻度の高い現象を即時把握する手法の開発とその応用が効果的と考えられる.富士山は融雪や大雨に伴う土石流が頻発する地域である.春先や初冬には温暖な雨による融雪に伴って,スラッシュ雪崩と呼ばれる大量の水分を含む雪が土砂を巻き込みながら流れ下る現象が発生する.土石流やスラッシュ雪崩の一般的な検知手法として,監視カメラやワイヤーセンサーが使用される.一方で,視界不良時でも観測が可能であり,連続的な観測ができるという点で,地震波形データを活用した手法が提案されている.富士山では地震波振幅によってスラッシュ雪崩の位置が数百mの精度で推定された (Pérez-Guillén, 2019).しかし,このような研究では地震波振幅の高まりが見える特定の時間帯の振幅のみを解析しており,土石流やスラッシュ雪崩発生の前後数時間以上における地震波動場の解析は不足している.本研究では,富士山における土石流,スラッシュ雪崩発生日の連続地震波形の振幅の平均二乗平方根,振動方向,スペクトルを計算することによって,数時間以上における地震波の変動と土砂流動の関係を精査した.
本研究では,富士山西側の大沢沿いに位置する標高の異なる3つの地震観測点を使用した.具体的には,気象庁の地震観測点であるV.FUJ2(標高3772 m),V.FUJD(標高1761 m),および防災科学技術研究所のN.FJHV(標高571 m)である.また比較のため気象庁(アメダス観測点)および山梨県道路公社の気象データを使用した.富士砂防事務所に報告されている2018年から2024年の5回のイベント(2021 年の2回の土石流および2018年,2021年,2024年の3回のスラッシュ雪崩)を解析対象とした.解析には土石流,スラッシュ雪崩発生時に地震波のエネルギーが集中していた1-10 Hzの周波数帯を使用した.RMS振幅は上下動成分で計算し,大局的な振幅変化を検出するために5分ごとの中央値を計算した.振動方向の計算では,1秒ごとに水平動2成分データの共分散行列を計算し,その最大固有ベクトルの向きを振動方向とした.さらにその振動方向について5分ごとに中央値を推定した.スペクトル解析では,5分の時間窓を50%オーバーラップさせてパワースペクトル密度を計算し,時間窓ごとにスペクトルの最大値で規格化した.
いずれの土石流,スラッシュ雪崩においても,大沢沿いの映像で確認される前後数時間以上にかけて振幅の増加,振動方向の変化,および数Hz以上のエネルギーの増大が観測された.2024年4月9日に発生したスラッシュ雪崩の場合,3観測点の地震波振幅は1:00頃から降水量の増加とともに増大した.振幅が最大となる時間は大沢沿いの映像やワイヤーセンサーで土石流が複数回検知された時間帯(8:20~10:10)と重なっていた.振動方向は6:00頃にN.FJHVでおおよそ東西方向であったものが北から左回りに約20°の方向に変化し,7:30頃にV.FUJDでばらつきが大きくなった.また,同時刻にV.FUJDのスペクトルピークは1–2 Hzから4–6 Hzへと変化した.最初のスラッシュ雪崩がカメラ映像で観測された8:20頃にはN.FJHVの振動方向のばらつきが小さくなった.さらに,V.FUJ2では2–3 Hz,V.FUJDでは2 Hzと4 Hzのエネルギーが増大した.降水量が減少した後,N.FJHVの振動方向は11:40頃にばらつきが増大し,13:00頃には北から左回りに20°〜0°の向きから東西方向の振動へと元の状態に戻った.このような変化が観測された際,風速には顕著な変化は見られず,このような振動方向の変化パターンは,平時の大雨の日には確認されなかった.したがって,このような地震波振動特性は大雨,融雪に伴う土砂の流動状態の変化によると考えられる.他の地域において,土石流の到達前に流れる泥水が地震波を励起することが報告されている(大角・他,2008).このことから,富士山での土石流,スラッシュ雪崩発生前数時間以上にわたる地震波動場の変化は泥水が地震波を励起したことによる可能性がある.
以上のような結果から,本研究で解析したパラメータを用いて,富士山の土石流,スラッシュ雪崩発生前後数時間以上における土砂流動の変化を把握できる可能性が示された.今後,映像データと今回の解析パラメータを比較することで,土砂流動状態の変化と地震波の特性の関係の理解が深まると考えられる.
本研究では,富士山西側の大沢沿いに位置する標高の異なる3つの地震観測点を使用した.具体的には,気象庁の地震観測点であるV.FUJ2(標高3772 m),V.FUJD(標高1761 m),および防災科学技術研究所のN.FJHV(標高571 m)である.また比較のため気象庁(アメダス観測点)および山梨県道路公社の気象データを使用した.富士砂防事務所に報告されている2018年から2024年の5回のイベント(2021 年の2回の土石流および2018年,2021年,2024年の3回のスラッシュ雪崩)を解析対象とした.解析には土石流,スラッシュ雪崩発生時に地震波のエネルギーが集中していた1-10 Hzの周波数帯を使用した.RMS振幅は上下動成分で計算し,大局的な振幅変化を検出するために5分ごとの中央値を計算した.振動方向の計算では,1秒ごとに水平動2成分データの共分散行列を計算し,その最大固有ベクトルの向きを振動方向とした.さらにその振動方向について5分ごとに中央値を推定した.スペクトル解析では,5分の時間窓を50%オーバーラップさせてパワースペクトル密度を計算し,時間窓ごとにスペクトルの最大値で規格化した.
いずれの土石流,スラッシュ雪崩においても,大沢沿いの映像で確認される前後数時間以上にかけて振幅の増加,振動方向の変化,および数Hz以上のエネルギーの増大が観測された.2024年4月9日に発生したスラッシュ雪崩の場合,3観測点の地震波振幅は1:00頃から降水量の増加とともに増大した.振幅が最大となる時間は大沢沿いの映像やワイヤーセンサーで土石流が複数回検知された時間帯(8:20~10:10)と重なっていた.振動方向は6:00頃にN.FJHVでおおよそ東西方向であったものが北から左回りに約20°の方向に変化し,7:30頃にV.FUJDでばらつきが大きくなった.また,同時刻にV.FUJDのスペクトルピークは1–2 Hzから4–6 Hzへと変化した.最初のスラッシュ雪崩がカメラ映像で観測された8:20頃にはN.FJHVの振動方向のばらつきが小さくなった.さらに,V.FUJ2では2–3 Hz,V.FUJDでは2 Hzと4 Hzのエネルギーが増大した.降水量が減少した後,N.FJHVの振動方向は11:40頃にばらつきが増大し,13:00頃には北から左回りに20°〜0°の向きから東西方向の振動へと元の状態に戻った.このような変化が観測された際,風速には顕著な変化は見られず,このような振動方向の変化パターンは,平時の大雨の日には確認されなかった.したがって,このような地震波振動特性は大雨,融雪に伴う土砂の流動状態の変化によると考えられる.他の地域において,土石流の到達前に流れる泥水が地震波を励起することが報告されている(大角・他,2008).このことから,富士山での土石流,スラッシュ雪崩発生前数時間以上にわたる地震波動場の変化は泥水が地震波を励起したことによる可能性がある.
以上のような結果から,本研究で解析したパラメータを用いて,富士山の土石流,スラッシュ雪崩発生前後数時間以上における土砂流動の変化を把握できる可能性が示された.今後,映像データと今回の解析パラメータを比較することで,土砂流動状態の変化と地震波の特性の関係の理解が深まると考えられる.