日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 防災リテラシー

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)

17:15 〜 19:15

[HDS09-P06] 学区に根差した防災すごろくの作成とその教育効果の検証
―災害リスクを想定する力を身につける防災教育の教材化を目指して―

*白銀 美里1山田 愛莉1三沢 良1松多 信尚1 (1.国立大学法人 岡山大学)

キーワード:防災教育、地域防災、防災意識尺度、被害想定力、中学校区

1.はじめに
 東日本大震災において避難所など安全だとされた場所でも多くの犠牲者をだしたことで,ハザードマップをただ信じるのでなく主体的に災害リスクを想定する力が重視されるようになった。それを契機に防災教育の報告件数は増加したが,防災教育のあらゆる素材やコンテンツの共有は十分でない(文科省, 2007)。また,防災教育を担うことを期待される学校は,時間的・経済的制約がある上に,実践者である教員がそもそも防災の専門家ではないため,十分な役割を担えていない。そこで,本研究では,災害の知識を学ぶ教育の効果を検討し,それを受けて自ら災害リスクを想定する力を身につける防災教育を考案・実践し,その教育効果の検証を行った。本実践の実用性についても紹介し,実装化に向けた提案も試みる。

2.手法
 実践方法:中学生による学区に根差した防災すごろくの作成に取り組んだ。
 効果検証の方法:本実践の教育効果について,「あらゆる被害を想定する力(被害想定能力)」と「災害への不安傾向」に着目し測定した。「被害想定能力」を測定する質問紙では,地図に「災害に関すること」を自由記述する形式で回答を求めた。この方法によって,自身の地域における災害による被害を「自発的に」想起できるかを確認する。「災害への不安傾向」を測定する質問紙では,「防災意識」と「不安傾向」を測定する防災意識尺度(島崎ら,2017)への回答を求めた。なお,本実践の参加者は,岡山市内の中学1年生7名である。質問紙調査は,実践前の2024年11月1日と実践後の2025年1月8日に行った。また,本校第1学年は,実践前の11月8日に防災センター(神戸)へ研修に行っている。そこで,本実践の教育効果をより明確に評価するため,研修後の11月21日にも調査を行った。第1回調査(11月1日)と第2回調査(11月21日)は第1学年166名,第3回調査(1月8日)は本実践参加者7名が回答した。

3.結果と考察
 被害想定能力:研修前後を比較すると,公共・商業施設,道路や橋などの記述が増加したが,災害発生の場合を考慮した記述はあまりみられなかった。それに対して,本実践後では,土砂崩れや洪水,津波による被害など一般的な自然災害に関する知識と,本地区の自然素因である地盤のゆるさやそれに伴う液状化に関する記述がみられた。中学生の多くは,本実践前から,本地区は干拓地であるために地盤が弱いことやそれによって液状化が起こりやすいことを知っていた。しかし,液状化による家屋や電柱の沈下,マンホールの浮上,また道の破損や渋滞,それに伴う救援の遅れなど自身が避難する際に直面し得る問題を想定した回答は,本実践後のみである。これらのことから,自然災害の現象を理解するだけでは,地域における災害リスクの想定には結びつきづらいことが考えられる。
 災害への不安傾向:防災意識と不安傾向の尺度のCronbachのα係数は,いずれも.70以上の十分な内的整合性を示した。両者には有意な弱い正の関連が認められた(r=.360,p<.001)。そして研修の前後,および本実践の前後における防災意識と不安傾向の変化を吟味するため,対応のあるt検定を行った。研修前後を比較すると,防災意識は有意に低下し(t=2.658,p<.05,d=0.206),不安傾向は有意に上昇していた(t=-2.519,p<.05,d=-.195)。それに対して,本実践後では,防災意識は維持されたが(t=-1.738,ns),不安傾向は有意に低下することが示された(t=2.449,p<.05,d=.926)。「不安傾向」は,研修後は高まったのに対し,本実践後は低下するという非常に興味深い結果を得た。また「防災意識」と「不安傾向」はそれぞれ有意に変化しているが,「災害に対する関心」と「不安傾向」の関連はみられなかった(r= -.132,ns)。データのサンプルサイズの制約はあるが,本実践前後は,人数が少ないにも関わらず統計的有意差が見出されたことや,数値の実質的な変化の大きさも研修前後よりも明確であることに注目したい。
 以上より,本実践による一定の教育効果が認められたといえる。また,研修前後の測定結果を踏まえると,防災センターは災害の記憶を風化させないために,危機感を喚起する役割を果たしていると考えられる。したがって,研修の振り返りを行うだけでは防災教育として不十分であり,それを契機として防災に関する主体的な学習へつなげていくことが重要である。
 また,本実践は,2025年2月22日に本地区公民館でのイベント開催を予定している。中学生が主体となって防災教育をすることで,保護者世代を呼び込むことができるため,中心地や郊外など移住者の多い地区の地域コミュニティを構築することにつながると考えている。発表では,教材化への検討に加え,イベント時の様子やすごろく体験者の教育効果測定の結果も紹介する。

【参考文献】文部科学省(2007)防災教育支援に関する懇談会(第6回)配布資料 https://www.mext.go.jp/in dex.htm (閲覧日2025/1/27) 島崎 敢・尾関美喜 (2017) 防災意識尺度の作成 (1)日本心理学会第81回大会発表論文集 p.69