日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 人間環境と災害リスク

2025年5月25日(日) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、山崎 新太郎(京都大学防災研究所)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)


10:45 〜 11:00

[HDS11-06] 活断層の地表変位位置の予測性能と誤差要因:2016年熊本地震の地表地震断層を用いた検証

*山根 悠輝1遠田 晋次2 (1.東北大学理学研究科地学専攻、2.東北大学災害科学国際研究所)


キーワード:断層変位ハザード、活断層判読、2016年熊本地震、地表地震断層、活断層法

内陸地殻内地震では,強振動だけでなく地表断層変位によっても構造物の被害が発生する(例えば,Zhou et al., 2010).そのため断層変位ハザードへの対策として,一部の国や地域では活断層周辺に建築規制域を設ける活断層法が施行されている.例えば,アメリカ・カリフォルニア州では,1973年以降,主断層沿いに片側150–200 mの建築規制域や,片側15 mの建築禁止域が設けられた(Bryant and Hart, 2007).現在まで,このような規制域の根拠や裏付けとなる研究は継続的に行われている.その一つとして活断層の予測(判読)位置と実際の地表地震断層出現位置の差(以下,判読誤差)の検討がある(Petersen et al., 2011; Scott et al., 2023).ただし,地域により断層の活動度や断層変位地形の保存状況,活断層の判読基準などが異なるので,一様に設定基準として採用できるわけではない.特に,侵食・堆積速度が速く,活断層が密集する日本で活断層法を適応するためには,より正確で高精度な地表地震断層データを用いた研究が必要となる.
本研究では,日本で最大規模の地表地震断層を生じた2016年熊本地震を対象に,判読誤差を算出・評価した.熊本地震を対象とした日本の活断層図の判読誤差については,すでに今野・遠田(2017)などで議論されている.本研究ではそれらに加え,複数の活断層図の評価や,判読誤差に影響する諸要因の検討を行った.
活断層図は,渡辺ほか(1979)及び渡辺(1984),都市圏活断層図(池田ほか,2001),活断層詳細デジタルマップ(中田・今泉編,2002,熊本地域は千田昇が判読)の3種を解析した.熊本地震の地表地震断層には,Kumahara et al. (2022)のデータを用いた.判読誤差の評価手法は,Scott et al. (2023)に倣った.QGISを用い,活断層トレースと地表地震断層の1 m毎に点を設置した.次にMATLABを用い,ある地表地震断層上の点から全ての活断層トレース上の点に対する平面距離を算出し,その中の最小値を当該箇所の判読誤差とした.これを全ての地表地震断層上の点に対して繰り返した.地表地震断層は,「主断層・副断層」及び「予測された・未予測」に分類した.また,出現箇所の地表地質年代(星住ほか,2004, 2014; AIST, 2023)でも分類した.池田ほか(2001)では2016年の地表地震断層の一部が判読対象外であるため,それらは池田ほか(2001)の解析では除いた.
全ての地表地震断層に対する判読誤差の中央値と最大値は,それぞれ約72–280 m,約4000–9000 mであった.カリフォルニア州の150 mの規制域でカバーできる地表地震断層の割合は,約40–65%である.予測された主断層のみに着目すると,判読誤差の中央値と最大値は,それぞれ約23–48 m,約227–272 mであった.150 mの規制域でカバーできる地表地震断層の割合は,約88–96%である.
次に,地表地震断層が現れた地表地質年代に着目する.Scott et al. (2024)では,完新世の地形面で判読誤差が大きいことが示された.本研究では,完新世に加え,後期更新世の地形面に現れた地表地震断層に対しても,より古い地形面のものと比べて判読誤差が大きくなった(図1).熊本地震では活動性の低い未予測の地表地震断層(例えば,Goto et al., 2017)が後期更新世の地形面に出現した.低活動度の活断層については,後期更新世以降の時間スケールでも地形的に不明瞭で,判読できない場合が考えられる.一方で,予測された主断層のみに対しては,後期更新世の地形面に現れた地表地震断層に対する判読誤差が最も小さかった.これは,B級程度以上の活動性を持つ活断層に対しては,後期更新世の地形面が変位位置を示す重要な基準であることを定量的に支持する.
最後に,判読誤差を与える要因の1つとして,地表地震断層の雁行配列を指摘したい.熊本地震の右横ずれ断層に伴う杉型雁行配列(left-stepping echelon aligment)は様々なスケールで観察された.ここでは,熊本地震時の地表地震断層から,数m–数百m規模(地形判読では読み取れない程度の規模)の雁行配列を判別し,その幅を評価した.幅の評価では,雁行配列を構成する各地表地震断層1 m毎の点の全てまたは中心点を近似した線を主断層と考え,主断層と各地表地震断層上で最も端にある点までの距離を算出した.その結果,解析した雁行配列の片側幅は最大で50 m程度であった.横ずれ断層に対しては,このような雁行配列の幅を考慮した建築規制域を設置する必要がある.