日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG03] ⾃然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2025年5月29日(木) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:古市 剛久(森林総合研究所)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、小田 隆史(東京大学)、座長:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)


16:00 〜 16:15

[HGG03-09] 豪雨イベントが景観に与える地形変化に関する検討-人為によって維持される奥入瀬渓流の事例-

*小岩 直人1、鄒 青穎1、髙橋 未央2、山﨑 武3 (1.弘前大学、2.弘前学院大学、3.十和田市役所)

キーワード:豪雨、地形変化、カルデラ

青森県に位置する奥入瀬渓流は,十和田湖とともに,国の特別名勝及び天然記念物に指定,また,国立公園の特別保護地区にもなっている.渓流,およびその周辺の優れた景観から毎年多くの観光客が訪れている.豊かな自然がみられるというイメージが定着している一方で,その流量が人工的に調整されている河川であるということを知らずに現地を訪れる人が多いのも事実であろう.奥入瀬渓流は,カルデラ湖である十和田湖から流出する河川である.この渓流は,流出口に位置する子ノ口周辺に取水口があり,1944年(昭和19年)から,いわゆる「観光放流」という形で,放流量や期間,時間等が変更されながら景観が保たれてきた.しかし,近年,所々で川底に土砂が堆積,川幅や流路が変化し,景観の悪化を招いているとの指摘がされている(たとえば,デーリー東北,2024年5月28日朝刊).その原因として,近年の取水口における放流量の減少も考えられており,その早急な調査が必要とされている.今回,関係機関の許可を得て,奥入瀬渓流の土砂堆積に関する調査を実施した.
 奥入瀬渓流の原形は,十和田八戸火砕流堆積物が十和田湖の決壊にともなって大量に流下し,侵食されたことによって形成された谷であり,谷の規模に対して現在の河川の流量が小さいことが指摘されている(Kataoka,2011).国土地理院から提供された1mDEMによって作成した高精度の地形情報から,奥入瀬渓流を特徴づける峡谷,それに懸かる多数の滝,およびその上流域にある十和田カルデラ起源の火砕流の堆積面を判読することができる.滝の上流域は,線状の谷が火砕流堆積面を切り込んでおり,明瞭な侵食前線を形成している.また,場所によって滝の下部には明瞭な沖積錐が発達し,その上流からの土砂供給が活発であることがわかる.高水位の時期に,目視により土砂の堆積状況の確認を行ったところ,奥入瀬渓流上流部(雲井の滝よりも上流側)では,軽石を含む凝灰質の堆積物が数多くの地点で確認できた.低水位の時期に河川断面測量,掘削調査を行い,(高水位時期において)流れのよどみが生じるような場所では,軽石層,火山砂層,凝岩質シルト層の堆積物がみられ,その厚さは30㎝を超えるところも数多く確認することができた.
 調査地域では,2022年8月に,8月1日~4日に214mm,8月9日~13日に310mmの降水がみられ(休屋AMeDAS),後者の機関には奥入瀬渓流も増水,渓流沿いの国道も冠水している.この時期の前後のGoogleEarthの衛星画像の比較では,白絹の滝をはじめとする滝の上流域において,崩壊が多発していることを判読することできる.崩壊地の分布と傾斜区分図との重ね合わせにより,崩壊地は,火砕流堆積面の末端の遷急線,すなわち侵食前線付近で発生していることがわかる.地質図との重ね合わせでは,この崩壊は,毛馬内火砕流堆積物(AD915)と八戸火砕流堆積物(15ka)の境界,または後者と大不動火砕流堆積物(32ka)の境界部で発生している.以上の事実から,近年みられる奥入瀬渓流上流部の土砂堆積は,2022年8月の大雨によって崩壊した火砕流堆積物が河谷へ流入したものである可能性が高いといえるであろう. 
 このような人為の管理によって流量が維持された「優れた景観」がみられる奥入瀬渓流において,(地形発達史的な視点では)ごく自然な地形変化が発生し,その景観が損なわれた場合は,地理学の研究者の立場からどのようなコメントができるのであろうか.

引用文献
Kataoka, K.(2021)Geomorophology, 125, 11-26.