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[HGM04-P01] ダム堆砂に基づいた削剥速度と傾斜量の関係:岩盤露出面積と地すべり分布を考慮した検討例
キーワード:ダム堆砂、削剥速度、傾斜量、岩盤露出、地すべり
一般に山地地域の削剥速度は,傾斜量や高度分散量などの地形量と良い相関を示すことが経験的に知られている(例えば,Ahnert, 1970; Ohmori, 1978; Portenga & Bierman, 2011)。この性質を利用して,日本全国のダム堆砂に基づいた削剥速度と地形量の関係を適当な関数で近似し,この関係を用いて日本列島全域における削剝速度分布を地形量から推定する試みも行われている(藤原ほか,1999; 長谷川ほか,2005)。しかし近年,このような単一の地形量に基づいた削剥速度の予測は困難であることが指摘されている(例えば,Montgomery & Brandon, 2002; Binnie et al., 2007; 松四ほか,2014; Korup et al., 2014)。急峻な山地では,削剥速度は非線形に振舞い,ある閾値(臨界角)付近で無限大に発散する傾向があるが,臨界角の近くでは削剥速度は極めて大きなばらつきを示すためである。この原因の一つとして,表土の安息角を超える斜面では岩盤が露出するため,削剥のメカニズムが変化することが挙げられている。すなわち,表土に被覆された斜面ではソイルクリープが卓越するのに対し,岩盤露出地域では落石や地すべりなどが卓越するため単純なモデルでは予測できない。近年,DiBiase et al. (2023)は,Roering et al. (2007)などが提案した表土被覆斜面における非線形の土砂移動モデルを基に,岩盤斜面にも適用可能なモデルを提案した。すなわち,一定以上の急斜面においては傾斜量の増加とともに岩盤露出面積が増加すると仮定し,表土の安息角より急な斜面にもRoering et al. (2007)のモデルを拡張した。このモデルの有効性は,米西部のSan Gabriel山地で検証されており,10Be法から推定された流域の平均削剥速度を,Roering et al. (2007)のモデルよりも正確に予測できることが示されている。本研究では,地形量等に基づいた削剥速度の高精度予測に向けて,日本列島のダム堆砂に基づいた削剥速度データへのDiBiase et al. (2023)のモデルの適用を試みた。また,DiBiase et al. (2023)では,モデルによる予測と実際の削剥速度に乖離をもたらす大きな原因として地すべりの影響が指摘されているため,地すべりの分布割合と削剥速度のばらつきの関係についても併せて検討した。解析対象としたダムは,原子力機構・電中研(2019,2020)が対象とした100基で,総貯水量,堆砂量データの取得期間,当初堆砂率,堆砂量変化の線形性などに基づいて,集水域の削剥速度の推定に適したものが選出されている。岩盤露出地域は,国土数値情報20万分の1土地分類基本調査(GISデータ)の「岩石地」,地すべりの分布範囲は,防災科学技術研究所地すべり地形GISデータの「移動体」のポリゴンに基づいてそれぞれ認定した。地形量の計算には,国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル)の10mメッシュを用いた。対象とした100基のダム集水域における削剥速度と平均傾斜の関係に基づくと,Roering et al. (2007)のモデルによる近似から,臨界角は約35°と求められた。また,集水域の平均傾斜と岩盤露出面積の割合の関係から,岩盤が系統的に露出し始める傾斜(S*)は約29°と,集水域全体の平均傾斜と岩盤露出地域のみの平均傾斜の関係から,岩盤斜面の最大傾斜および最小傾斜(Smax rock, Smin rock)は約40°および約35°とそれぞれ推定された。これらのパラメータに基づいて,DiBiase et al. (2023)のモデルを用いて,100基のダム集水域における削剥速度と平均傾斜の関係を近似した。Roering et al. (2007)のモデルによる近似では,緩傾斜では削剥速度を過小評価,急傾斜では過大評価する傾向がある上,臨界角に近づくにつれてモデル値と実測値のmisfit値が増加する傾向がみられた。それに対して,DiBiase et al. (2023)のモデルでは,臨界角を超える角度も含めて両者のmisfit値を一定の範囲に収めることができた。したがって,ダム堆砂速度から推定された数年~数10年程度の削剥速度に対しても,本モデルによる近似は有効であると期待できる。ただし,DiBiase et al. (2023)のモデルに用いるパラメータの決定においては,San Gabriel山地の事例と比べてデータのばらつきが大きかったため,恣意的な方法での決定になったことは否めない。米西海岸のような乾燥地域と異なり,湿潤地域である日本列島は風化速度が速い上に植生に富むため,特に岩盤露出地域の認定方法には更なる改良が必要だと考えられる。一方,地すべりの分布割合の増加に伴う,削剝速度のモデル値と実測値のmisfit値の変化については,San Gabriel山地の場合と異なり,明瞭な増加傾向は認められなかった。この理由としては,San Gabriel山地では10Be法により102~104年程度の平均的な削剥速度を計算しているため,数年~数10年を対象としたダム堆砂によるアプローチに比べて,対象期間中に地すべりの発生イベントを含む確率が高くなる可能性が考えられる。
