日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:白井 正明(東京都立大学)、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

10:00 〜 10:15

[HQR05-05] OSL年代測定の完新世河成堆積物に対する応用の可能性

*前田 優樹1堀 和明1石井 祐次2田村 亨2清家 弘治2、中西 利典3、洪 完4 (1.東北大学、2.産業技術総合研究所、3.ふじのくに地球環境史ミュージアム、4.韓国地質資源研究院)


キーワード:OSL年代測定、完新世

はじめに
OSL年代測定は,石英粒子や長石粒子のルミネッセンスから年代を測定する手法である.OSL年代測定は堆積物中に普遍的に含まれる長石や石英を対象としているため様々な堆積物に適用されており,完新世の堆積物の年代決定をする上で重要な手法の一つとなっている.
OSL年代測定はルミネッセンスが露光によりリセットされるという原理から,堆積時に十分に露光している必要がある.そのため,主に風成・海成堆積物などの露光が十分と考えられている堆積物に対して適用される.一方,河成堆積物は露光が十分な粒子と不十分な粒子が混在していると考えられており,特に日本の河成堆積物は大陸と比較して河川の長さが短いため露光がより不十分でOSL年代測定には不適と考えられていた.しかし,現世の河成堆積物において河床やポイントバー,クレバススプレイなどの特定の堆積物中の長石粒子はある程度露光しており,測定に使用できる可能性が示されている(白井ほか 2008).
本研究では日本の河成・海成堆積物に含まれる長石に対してIRSL年代測定をおこない,測定された年代やデータの傾向をもとに,IRSL年代測定がどのような河成堆積物に対して有効であるか,また,海成・河成堆積物の分類手法として活用できるかを検討した.

対象地域
本研究は,仙台平野南部の阿武隈川河口部を対象とする.阿武隈川は福島県から宮城県南部にかけての阿武隈帯や奥羽山脈の火成岩地帯を流域に含んでいる.河口付近には浜堤平野が広がり,浜堤の形成年代は松本(1984)や藤本・松本(2012)などで示されている.また,放棄河道やそれに伴う自然堤防が複数分布し,多様な堆積相から堆積物を得ることができる.

手法
 堆積物は3地点の機械ボーリング(W5, W6, W7) と1地点のハンドオーガーによる掘削(EB3)によって採取した.得られた堆積物は色調や粒度,堆積構造などにもとづき,Unit A(放棄河道埋積物),Unit B(自然堤防堆積物),Unit C(河床堆積物),Unit D(上部外浜堆積物),Unit E(下部外浜堆積物)に分類した.OSL年代測定にはUnit Aの1ヵ所(W6-270),Unit Bの2ヵ所(W7-280,W7-440),Unit Cの4ヵ所(W5-320,W5-930,W6-335,W6-765),Unit Eの2ヵ所(W5-960,W5-810)から採取した180–250 μmの長石粒子を用いた.
採取された堆積物は光に当てないようにして産業技術総合研究所に運搬した後,同所内の暗室において180–250 μmの長石粒子を取り出した.取り出した長石に対してRISO製の測定装置を用いて各サンプル8ディスクずつ,IR50とpIR150,フェーディング率の測定をおこない,各サンプルのU,Th,Rb,K濃度,含水率などとあわせて年代を算出した.また, Unit Aの下端(EB3) について韓国地質資源研究院(KIGAM)でAMSC14年代測定をおこなった.

結果・考察
 OSL年代はIR50年代において,Unit A下端で2.44±0.20 ka,Unit Bで約0.8–4.6 ka,Unit C上端で約1.6–1.9 ka,Unit C下端で約4.3–5.7 ka,Unit E上端で約5.1–7.0 kaが得られた.また,¹⁴C年代はUnit A下端で約1.3 kaが得られた.
Unit A,B,Cを構成する河成堆積物とUnit Eを構成する海成堆積物のDeを比較すると,後者のほうがDeのばらつきが小さいといった違いがみられた.また,海成堆積物のIR50年代とpIR150年代はほぼ一致したが,河成堆積物ではIR50年代に対してpIR150年代が1.2–5 ka以上古い値となった.これは河成堆積物の露光が不十分である影響がpIR150信号に強く出ているためと考えられる.以上の違いは明確に認定できるため,河成堆積物と海成堆積物の分類に関して,OSL測定は有用であるといえる.
 Unit CのIR50年代は直上のUnit A下端から得られた¹⁴C年代や直下のUnit E上端から得られた海成堆積物のIRSL年代と矛盾がないため,河床堆積物のIR50年代は概ね正しい年代を示していると考えられる.一方,Unit Aの下端から得られたIR50年代は同地点から得られた¹⁴C年代よりも1 ka程度の過大評価を示しているほか,下位のUnit Cから得られたIR50年代よりも古い年代を示した.また,Unit BのIR50年代は直下のUnit Cよりも古い年代を示した.どちらも洪水堆積物が由来で,露光不十分な粒子を取り込んで堆積したと考えられる.これらのことから,長石に対するIRSL年代測定のうちIR50年代は河床堆積物への年代測定として有用であるといえる一方,露光不十分な放棄河道埋積物や自然堤防堆積物への適用は難しいと考えられる.