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[HQR05-07] 多摩丘陵北縁に分布する上総層群稲城層上半部の堆積環境の変遷
キーワード:上総層群、多摩丘陵、稲城層、堆積相、バリアー島-ラグーンシステム
関東平野南西部に広がる多摩丘陵は、鮮新世末から更新世前期にかけて堆積した上総層群相当層から構成される.丘陵北部の上総層群の中で上位に位置する稲城層は,下位の上総層群構成層に比べて砂質部分の層厚が極めて厚い.この砂質部分の堆積環境は,岡ほか(1984)などによると三角州の前置層,高野(1994)によると主に外浜堆積物とされる.
多摩丘陵の北縁,東京都と神奈川県の境界部には,現在でも稲城層中部の好露頭が残っている.約140万年前に噴出したNG-YR火山灰(鈴木・村田,2011)の層準の直上には,細粒火山灰の塊(偽礫)を大量に含んだ陸向き(北西方向)の斜交層理砂層が発達し,白井・今村(2013)や加藤・白井(2016)はこれらの堆積物をバリアー島構成層(潮流口または上げ潮三角州)と解釈し,従来の考えと異なり稲城層はバリアー島-ラグーンシステムで形成されたと考えた.最近,NG-YR火山灰の上位の小露頭の調査を行い追加の情報を得たので,稲城層上半部(NG-YRより上位)の堆積環境の変遷を以下のように推定した.なお稲城層の上位には出店(でだな)層が累重するが,調査地付近の出店層には層厚5m以上の大礫を含む礫層が見られる(高野,1994)とのことであり,調査地(穴澤天神社裏)では稲城層のみが残存していると判断した.
バリアー島構成層と解釈した斜交層理砂層には,北西傾斜の斜交層理だけでなく南東傾斜の斜交層理も見られることから,潮流口の堆積物と解釈した.また部分的に波状に変形した小規模な正断層が発達している.波状の変形は砂層の固結前に断層が形成されたことを示唆していることから,これらの断層は堆積後間もなくバリアー斜面に形成された,重力性の断層と判断される.この正断層は基本的には北西傾斜,すなわち陸側に滑り落ちているため,斜交層理砂層は潮流口の中でもラグーン側で形成されたと推測される.
斜交層理砂層の上位には,平行葉理が発達する凝灰質な砂泥互層が厚さ約8 m累重する.平行葉理はしばしば緩く波うち,また砂層の上部はリップルが発達した細粒砂となることから,ハンモック状斜交層理(HCS) サクセションと考えられる.このHCS堆積物は,河川から供給されたと考えられる軽石や火山灰が大量に混在していること,また上位のラグーン内で堆積したと考えられる細粒砂層に遷移することから,ラグーン内で形成されたと判断した.HCSが振動流(波浪)または複合流の下で形成されることを考慮すると,堆積場は潮流口のすぐ近くと推測される.
HCS堆積物の上位には,淘汰は比較的良いものの,生物擾乱を受け層理が部分的に残存する細粒砂層が累重する.この細粒砂層は高野(1994)などでは外浜堆積物と解釈されているが,層理は大部分生物擾乱を受けているので,外洋側の外浜ではなくラグーン内で堆積したと解釈した.その上位に30m以上の高度にわたって点在する小露頭の堆積物は,引き続き同様の層相を示すが,稜線に近い露頭では中粒砂主体となる.高野(1994)などではNG火山灰(NG-YRに相当)の上位に30m程度の厚さで部分的に葉理の見られる砂層が記録されていることから,これらの点在する生物擾乱を受けた砂層は一連のものであり,全体として弱く上方粗粒化していると考えられる.
丘陵の稜線部に近い露頭では,30m以上続いた生物擾乱を受けた砂層から,層厚1m弱のシルト層に移り変わる.シルト層下半部は砂質であり巣穴化石が目立ち,その最上部には軽石がパッチ状に濃集する.シルト層上半部は細かな生痕が発達し部分的に水平な葉理が残存する.ラグーン内の静穏な環境であり,また潮汐など水流の関与は認められなかったので,塩水湿地的な環境で形成されたと推定した.
以上,稲城層上半部は,バリアー島,ラグーン内,塩水湿地と堆積環境の変化を示すが,ラグーン内の砂質堆積物は厚さ30m以上と分厚く堆積している点,この付近では砂層の傾斜が増している点(岡ほか,1984;高野,1994など)を考慮すると,ラグーン内の湾奥デルタ前置面の可能性が高い.この場合,稜線部近くに分布するシルト層は湾奥デルタの頂置面上の塩水湿地で形成されたと推測される.
引用文献
岡ほか(1984)東京西南部地域の地質.地域地質研究報告,地質調査所,149p.
加藤・白井(2016)多摩丘陵北西部に分布する下部更新統上総層群稲城層における堆積システム.JpGU2016 HQR15-P10.
白井・今村(2013)多摩丘陵北縁,上総層群稲城層の堆積環境.JpGU2013 HQR23-P04.
鈴木・村田(2011)上総層群黄和田層とその相当層に介在するテフラの層序と対比.地質雑,117,379−397.
高野(1994)多摩丘陵の下部更新統上総層群の層序.地質雑,100,675−691.
多摩丘陵の北縁,東京都と神奈川県の境界部には,現在でも稲城層中部の好露頭が残っている.約140万年前に噴出したNG-YR火山灰(鈴木・村田,2011)の層準の直上には,細粒火山灰の塊(偽礫)を大量に含んだ陸向き(北西方向)の斜交層理砂層が発達し,白井・今村(2013)や加藤・白井(2016)はこれらの堆積物をバリアー島構成層(潮流口または上げ潮三角州)と解釈し,従来の考えと異なり稲城層はバリアー島-ラグーンシステムで形成されたと考えた.最近,NG-YR火山灰の上位の小露頭の調査を行い追加の情報を得たので,稲城層上半部(NG-YRより上位)の堆積環境の変遷を以下のように推定した.なお稲城層の上位には出店(でだな)層が累重するが,調査地付近の出店層には層厚5m以上の大礫を含む礫層が見られる(高野,1994)とのことであり,調査地(穴澤天神社裏)では稲城層のみが残存していると判断した.
バリアー島構成層と解釈した斜交層理砂層には,北西傾斜の斜交層理だけでなく南東傾斜の斜交層理も見られることから,潮流口の堆積物と解釈した.また部分的に波状に変形した小規模な正断層が発達している.波状の変形は砂層の固結前に断層が形成されたことを示唆していることから,これらの断層は堆積後間もなくバリアー斜面に形成された,重力性の断層と判断される.この正断層は基本的には北西傾斜,すなわち陸側に滑り落ちているため,斜交層理砂層は潮流口の中でもラグーン側で形成されたと推測される.
斜交層理砂層の上位には,平行葉理が発達する凝灰質な砂泥互層が厚さ約8 m累重する.平行葉理はしばしば緩く波うち,また砂層の上部はリップルが発達した細粒砂となることから,ハンモック状斜交層理(HCS) サクセションと考えられる.このHCS堆積物は,河川から供給されたと考えられる軽石や火山灰が大量に混在していること,また上位のラグーン内で堆積したと考えられる細粒砂層に遷移することから,ラグーン内で形成されたと判断した.HCSが振動流(波浪)または複合流の下で形成されることを考慮すると,堆積場は潮流口のすぐ近くと推測される.
HCS堆積物の上位には,淘汰は比較的良いものの,生物擾乱を受け層理が部分的に残存する細粒砂層が累重する.この細粒砂層は高野(1994)などでは外浜堆積物と解釈されているが,層理は大部分生物擾乱を受けているので,外洋側の外浜ではなくラグーン内で堆積したと解釈した.その上位に30m以上の高度にわたって点在する小露頭の堆積物は,引き続き同様の層相を示すが,稜線に近い露頭では中粒砂主体となる.高野(1994)などではNG火山灰(NG-YRに相当)の上位に30m程度の厚さで部分的に葉理の見られる砂層が記録されていることから,これらの点在する生物擾乱を受けた砂層は一連のものであり,全体として弱く上方粗粒化していると考えられる.
丘陵の稜線部に近い露頭では,30m以上続いた生物擾乱を受けた砂層から,層厚1m弱のシルト層に移り変わる.シルト層下半部は砂質であり巣穴化石が目立ち,その最上部には軽石がパッチ状に濃集する.シルト層上半部は細かな生痕が発達し部分的に水平な葉理が残存する.ラグーン内の静穏な環境であり,また潮汐など水流の関与は認められなかったので,塩水湿地的な環境で形成されたと推定した.
以上,稲城層上半部は,バリアー島,ラグーン内,塩水湿地と堆積環境の変化を示すが,ラグーン内の砂質堆積物は厚さ30m以上と分厚く堆積している点,この付近では砂層の傾斜が増している点(岡ほか,1984;高野,1994など)を考慮すると,ラグーン内の湾奥デルタ前置面の可能性が高い.この場合,稜線部近くに分布するシルト層は湾奥デルタの頂置面上の塩水湿地で形成されたと推測される.
引用文献
岡ほか(1984)東京西南部地域の地質.地域地質研究報告,地質調査所,149p.
加藤・白井(2016)多摩丘陵北西部に分布する下部更新統上総層群稲城層における堆積システム.JpGU2016 HQR15-P10.
白井・今村(2013)多摩丘陵北縁,上総層群稲城層の堆積環境.JpGU2013 HQR23-P04.
鈴木・村田(2011)上総層群黄和田層とその相当層に介在するテフラの層序と対比.地質雑,117,379−397.
高野(1994)多摩丘陵の下部更新統上総層群の層序.地質雑,100,675−691.