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[HQR05-12] 中海における後期完新世の数百年スケールの古環境変動

キーワード:貝形虫、後期完新世、古環境、コア研究
完新世の急激な気候変動は人類の発展に大きな影響を与えてきた.その中でも4.2 kaイベントや3.2 ka イベントなどは世界各地の文明の盛衰に大きなダメージを与えたことが知られている(平林・横山,2020).このような数十年規模で発生する気候変動は我々の生活に大きな影響を及ぼす可能性があることから,その変化や原因の解明は注目されている.そこで,本研究は気候の影響を反映しやすい沿岸域の汽水湖である中海のコアを用いて,化学分析と貝形虫分析により,中海における後期完新世の急激な環境変動を含む古環境変動を明らかにすることを目的とした.
中海は島根県と鳥取県の境に位置し,砂州の発達により外洋と分断された海跡湖で,後期完新世に内湾から汽水湖に変化したことが知られている(山田ほか,2015).その中でも,過去3000年間の古環境はよく議論されており,数百年スケールの短期的な古環境変動を捉えている(Yamada et al., 2019).しかし,3000年前以前の記録が少ないため,本研究では新たなコアNKU23-01を掘削した.掘削地点の水深は6.11 mで,コア長は4.66 mであった.岩相は全体的に貝殻混じりの塊状シルトで,下部1.5 mではコケムシが多産した.年代モデルは2つのAMS14Cデータにより作成し,コアは過去4200年の堆積物であることが示された.コアはXRFコアスキャナーITRAX(MaCRI)により,0.5 mm間隔で元素濃度を分析した.また,コアは最下部1 mは厚さ0.5 cm,他の部分は厚さ1 cmに分割した.そのうち,本研究では深度2.9 m以下の全ての試料に加え,それより上位は10 cmに1つの計306試料を貝形虫の分析に使用した.
測定した元素のうちTi, Fe, Clの変化に基づくと,コアは大きく3分される.2800 cal yr BP以前では,Ti,Feが比較的少なく,上方に向けて減少する傾向を示した.これは河川の影響が相対的に弱く,上方に向けて更に弱くなったと考えられる.一方,Clが比較的多いことから,この時期では海水の影響が相対的に強いと考えられる.また,各元素の変動幅が大きく,数百年の周期的な変化が観察された.2800~900 cal yr BPでは, Ti,Feが比較的多くなり,Clが比較的少なくなった.加えて各元素の変動幅が比較的小さいことから,この時期では堆積環境が相対的に安定し,河川の影響が強く,海水の影響が弱くなったと考えられる.900 cal yr BP以降は,Ti,Feが最も多くなり,Clが少なくなった.主に河川の影響を受け,海水の影響が弱い環境になったと考えられる.
貝形虫については,各試料から少なくとも50個体以上の貝形虫が産出し,22属35種の貝形虫が確認できた.コアを通して内湾や汽水域の泥底に生息する種であるBicornucythere bisanensisとSpinileberis quadriaculeata(池谷・塩崎,1993)が最も優占し,コア全体は内湾および汽水の泥底環境で堆積したと考えられる.またQ-modeクラスター分析の結果に基づくと,コア全体を通して3700 cal yr BP頃に湾口部に近い環境から内湾環境に変化し,1200 cal yr BP頃に内湾環境から汽水環境に変化したと考えられる.この結果は従来の古環境と一致している.更に, 3700~2500 cal yr BPでは,潮間帯の砂泥底に生息する種であるPropontocypris attenuata(Okubo, 1979)の割合変化から数百年スケールの周期的な環境変動がみられた.
XRFの結果と貝形虫群集変化を総合すると,4000〜2800 cal yr BPに認められる変動は,Fe,TiとClが増加する湾奥部に近い環境と,Fe, Tiが減少しClがわずかに高い値を示す湾口部に近い環境が数百年スケールで交互に生じたと考えられる.この変化と貝形虫B. bisanensis殻のδ18Oの結果を合わせて,中海における後期完新世の数百年スケールの環境変動と引き起こす要因について考察する.
文献:
平林頌子,横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129–157.
池谷仙之,塩崎正道,1993.地質学論集,39,15–32.
Okubo, I., 1979. In Proceedings of the Japanese Society of Systematic Zoology, 17, 31–37.
Yamada et al., 2019. Scientific Reports, 9, 5036.
山田ほか,2015.第四紀研究,54,53–68.
中海は島根県と鳥取県の境に位置し,砂州の発達により外洋と分断された海跡湖で,後期完新世に内湾から汽水湖に変化したことが知られている(山田ほか,2015).その中でも,過去3000年間の古環境はよく議論されており,数百年スケールの短期的な古環境変動を捉えている(Yamada et al., 2019).しかし,3000年前以前の記録が少ないため,本研究では新たなコアNKU23-01を掘削した.掘削地点の水深は6.11 mで,コア長は4.66 mであった.岩相は全体的に貝殻混じりの塊状シルトで,下部1.5 mではコケムシが多産した.年代モデルは2つのAMS14Cデータにより作成し,コアは過去4200年の堆積物であることが示された.コアはXRFコアスキャナーITRAX(MaCRI)により,0.5 mm間隔で元素濃度を分析した.また,コアは最下部1 mは厚さ0.5 cm,他の部分は厚さ1 cmに分割した.そのうち,本研究では深度2.9 m以下の全ての試料に加え,それより上位は10 cmに1つの計306試料を貝形虫の分析に使用した.
測定した元素のうちTi, Fe, Clの変化に基づくと,コアは大きく3分される.2800 cal yr BP以前では,Ti,Feが比較的少なく,上方に向けて減少する傾向を示した.これは河川の影響が相対的に弱く,上方に向けて更に弱くなったと考えられる.一方,Clが比較的多いことから,この時期では海水の影響が相対的に強いと考えられる.また,各元素の変動幅が大きく,数百年の周期的な変化が観察された.2800~900 cal yr BPでは, Ti,Feが比較的多くなり,Clが比較的少なくなった.加えて各元素の変動幅が比較的小さいことから,この時期では堆積環境が相対的に安定し,河川の影響が強く,海水の影響が弱くなったと考えられる.900 cal yr BP以降は,Ti,Feが最も多くなり,Clが少なくなった.主に河川の影響を受け,海水の影響が弱い環境になったと考えられる.
貝形虫については,各試料から少なくとも50個体以上の貝形虫が産出し,22属35種の貝形虫が確認できた.コアを通して内湾や汽水域の泥底に生息する種であるBicornucythere bisanensisとSpinileberis quadriaculeata(池谷・塩崎,1993)が最も優占し,コア全体は内湾および汽水の泥底環境で堆積したと考えられる.またQ-modeクラスター分析の結果に基づくと,コア全体を通して3700 cal yr BP頃に湾口部に近い環境から内湾環境に変化し,1200 cal yr BP頃に内湾環境から汽水環境に変化したと考えられる.この結果は従来の古環境と一致している.更に, 3700~2500 cal yr BPでは,潮間帯の砂泥底に生息する種であるPropontocypris attenuata(Okubo, 1979)の割合変化から数百年スケールの周期的な環境変動がみられた.
XRFの結果と貝形虫群集変化を総合すると,4000〜2800 cal yr BPに認められる変動は,Fe,TiとClが増加する湾奥部に近い環境と,Fe, Tiが減少しClがわずかに高い値を示す湾口部に近い環境が数百年スケールで交互に生じたと考えられる.この変化と貝形虫B. bisanensis殻のδ18Oの結果を合わせて,中海における後期完新世の数百年スケールの環境変動と引き起こす要因について考察する.
文献:
平林頌子,横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129–157.
池谷仙之,塩崎正道,1993.地質学論集,39,15–32.
Okubo, I., 1979. In Proceedings of the Japanese Society of Systematic Zoology, 17, 31–37.
Yamada et al., 2019. Scientific Reports, 9, 5036.
山田ほか,2015.第四紀研究,54,53–68.