日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:石井 祐次(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所)

14:15 〜 14:30

[HQR05-15] 珪藻群集を用いた台南市鹽水(Yanshui) 溪における水質環境モニタリングと人新世環境復元への応用

*鹿島 薫1、Liu Hou-Chun4、Wang Liang-Chi3福本 侑2、Chen Yu-Guang4、Chen Yan-Hong4 (1.島根大学エスチュアリー研究センター/国立中正大学地球環境科学系(台湾)、2.島根大学エスチュアリー研究センター、3.国立中正大学地球環境科学系(台湾)、4.国立成功大学地球科学系(台湾))

キーワード:珪藻、河川環境、沿岸平野、人新世

(1) 研究の目的
 珪藻は,河川においては付着藻類として礫や水草に付着して生息しており,その群集構成は,河川の水質変動に対応して変化している.本研究では,珪藻を指標生物として,河川の水質汚濁の定量的評価を試みた.さらに,珪藻殻は堆積物中で保存されやすいという特性を生かして,人新世の詳細な環境復元への応用を行った.
(2) 調査地域
 台南市は台湾南西部の中核都市であるが,その北側には17世紀まで広大な潟湖・塩性湿地が分布していた.ここは近年開発が急速に進み,TSMCおよび関連会社の工業団地建設・勤務者たちのための住宅造成がなされている.これに伴い,水資源の枯渇と深刻な水環境汚染が進行しており,迅速で正確な環境評価と永続的な発展のための将来施策提言が求められている.本研究調査地域である台南市北方を流れる鹽水(Yanshui) 溪水域は,その名称が示す通り,鹽水(塩水)河川であり,内陸まで塩水遡上が見られる河川であった.しかし,用水確保のために塩水を止める堰が建設されたこと,内陸流域が工業地として地下水くみ上げを伴う急速な都市開発が進んだことから,深刻な水環境汚染が生じていることが報告されている.
(3) 現地調査と研究方法
現地調査は2024年4-9月にかけて4回実施した.この2024年夏季は,台風に伴う洪水が繰り返し発生したこともあり,各調査時の河川流量の変動は20倍以上に達した.付着珪藻類の採取と同時に,電気伝導度,水温,Ph,塩分,シリカ,鉄,燐などの計測がなされた.
 珪藻試料は,現地でアルコール固定したのち,実験室で洗浄,プレパラート固定を行った.観察は1000倍の生物顕微鏡を用い,すべての珪藻殻の写真撮影を行ったのち,珪藻分類群の設定と係数を行った.
(4) DAIpo(珪藻汚濁指数)を用いた水質汚濁の定量的評価
 DAIpoは付着珪藻群集に基づく有機汚濁指数であり,奈良女子大学名誉教授渡辺仁治名誉教授によって提案された指標である(渡辺ほか編著,2005).淡水生珪藻を3種群,好清水性種,広適応性種,好汚濁性種に分け,それぞれの出現百分比から産出する.具体的には50を基礎として,それに好清水性種の出現百分比の半数を加え,好汚濁性種の出現百分比の半数を減らす.これによって,DAIpoは0から100間を変動し,汚濁が進行すると減少し,汚濁が減少すると増加する.生息範囲の大きい,広適応性種を設定したことが,珪藻とその環境対応を適切に反映しており,淡水域における汚濁評価に適している.さらに,日本産出の各珪藻種において,それぞれの環境種群情報と,種同定の基本事項がまとめられており(渡辺ほか編著,2005),きわめて利便性の高い指標となっている.しかし,残念なことに,渡辺教授ご逝去に伴い,最近では研究例がみられなくなりつつある.
 鹽水(Yanshui) 溪においては,4回の調査時でいずれも上流側から中流域に向かってDAIpoは低下し,汚濁の増加を示している.これに対して,海水が流入する感潮域となるとDAIpoは上昇し,河川汚濁の現象を示している.4回の調査では,大きな流量変動が見られたのにも関わらず,その傾向は安定していた.水質測定などの他の計測項目が採取時の水量変動による影響大きかったことに反して,珪藻は定常的な水質環境を示していることが分かった.
(5) DAIpo(珪藻汚濁指数)の人新世環境復元研究への応用
 DAIpoによって示された,珪藻種群と環境への適応性は,ボーリングコア試料の珪藻遺骸群集を用いた古環境復元研究への応用が可能である.台南市における掘削調査は2025年度に予定しているが,2024年7月に掘削された島根県松江市松江城堀コア試料を用いて,宍道湖水流入に伴う堀水の浄化過程の定量的復元を試みた.
 松江市資料によると,堀水の浄化事業は1970年代に開始され,1996年ごろまでに水質は大きく改善し,その後は水質を保持したまま現在に至っている.DAIpoは,コア下部から上方に向かって増加し,汚濁が低下したことを示している.これは,塩水生珪藻の割合増加と伴っており,宍道湖水の流入に伴うことを示唆している.その後,DAIpoは50前後で保持されており,宍道湖水の流入量が適時調整されていることを示している.これらのことより,DAIpoの人新世環境変動研究への応用は可能と判断した.