日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:石井 祐次(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所)

15:00 〜 15:15

[HQR05-18] 中米・チャルチュアパ地域のウスルタン様式土器の製作に利用された火山灰の採取方法 ~胎土中の火山ガラスのWDS分析を用いて~

*北村 繁1、村野 正景2 (1.新潟大学教育学部、2.静岡大学学術院・情報学領域)

キーワード:エルサルバドル、アルセー・テフラ、波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)、火山ガラスの化学組成分析、土器胎土

火山地域で製作された土器には火山灰粒子が含まれることが少なくない。このため、土器胎土中の火山灰を特定できれば、土器の生産地や製作方法など、考古学的に極めて重要な知見を得られる可能性が高い。
 火山灰を構成する粒子のうち、火山ガラスはマグマ液相の組成を反映するため、火山灰の同定には火山ガラスの化学組成を分析するとよい。波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)は、粒子内の微小領域の化学組成を分析できるため、火山ガラスの化学組成から火山灰を同定する最も有効な手法として広く利用されてきた。
 日本では、縄文土器において、こうした手法により土器製作に利用された火山灰を特定し、火山灰の分布から土器の製作地を特定する研究が行われている(柴,2014など)。また、Kitamura(2022)は、中米・エルサルバドル共和国西部・チャルチュアパ遺跡ラ・クチーヤ地区で出土した 「ウスルタン様式土器」の胎土に含まれる火山ガラスをWDSで分析し、近隣のコアテペケ・カルデラを起源としてチャルチュアパ周辺に分布する火山灰(アルセー・テフラ)が土器胎土に含まれることを明らかにするとともに、火山灰層の特定の部層が土器製作に選択的に利用されている可能性を示した。このアルセー・テフラの部層区分については、Kutterolfほか(2020)が、より詳細に10の部層に区分し、部層ごとに化学組成が異なることを明らかにしている。
 そこで、本研究では、土器に関しては、チャルチュアパ遺跡ラ・クチーヤ地区で出土したウスルタン様式土器の破片2点を、アルセー・テフラについては、上記の10の部層のうち、土器出土地点の約2km北西で採取した7部層(Unit I~Ⅶ)と、約15㎞東北東で採取した9部層(Unit Ⅲ~X)を、弘前大学共用機器基盤センターのWDS(JEOL JXA-8230)を用いて分析・比較し、土器材料の採取位置を検討した。
 分析の結果、アルセー・テフラの最下位の部層(UnitⅠ)および上位部層(UnitⅥ~X)から得られた火山ガラスはほぼユニモーダルな化学組成を示す(図1)一方、下位(UnitⅡ~Ⅳ)および中位(UnitⅤ)部層のそれは、バイモーダルな化学組成を示した(図2,図3)。これに対し、土器胎土中の火山ガラスは、バイモーダルな組成を示し(図4)、それぞれのモードは、アルセー・テフラの中位・下位の2つのモードと良く一致した。そのため、今回分析した土器片については、その製作に少なくともアルセー・テフラの中位および下位の部層またはその一部が使用されていることが確認された。
 一方、土器に含まれる火山ガラスは、2つのモードに属する火山ガラスの数は概ね同じであり、また、2つのモードの間に入るものの比率が数パーセントと少ないが、こうした特徴を単独でもつ部層は見出されなかった。そのため、アルセ―・テフラの下位を中心に複数の部層にわたって、火山灰が採取された可能性が指摘される。