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[HQR05-P01] 過去30万年間の更新統段丘と完新世段丘の隆起速度の違いについて
キーワード:海成段丘、隆起速度、海水準変動、気候変動
1.はじめに
プレート運動に変化がないならば,地殻変動は一定の速度で継続し,それが活断層による地震活動を伴うならば,活断層は固有の地震を発生させる地震活動を周期的に起こすと考えられてきた。このことが過去の地震履歴や地殻変動速度を求めることで将来の地震予測を可能にした。特に変動量や変動様式を明らかにする基準面として海成段丘は有効な指標とされてきた。太田(1968)は,旧汀線は,過去の海面を示しており,またその位置の認定・高度の測定がかなりの精度で行えるため,旧汀線の対比さえ正しいならば,他の地形を利用するよりも形成後の地殻変動を比較的正確に把握できるとした。海成段丘は,気候の寒冷化・温暖化に伴うユースタティックな海水準変動と,断層運動などによる局所的な陸地の隆起・沈降とによる相対的な海水準変動によって形成された。すなわち,前者は地域差を生まないと考え,後者は地域固有の運動であるため地域差があると考えることで,更新世の海成段丘の高度分布は変位量が累積した局所的な地殻変動の指標と考えられてきた。一方,完新世の海成段丘の高度分布は,断層運動によって生じた変位と考え古地震評価に用いられてきた。しかし一方で,完新世段丘が更新世段丘と調和的でない理由を,ハイドロアイソスタシーで説明されてきた(Nakada, M. et. al.,1991)。本研究は,日本全国の更新世段丘の隆起速度とその高度,完新世段丘の隆起速度を比較し,局所的な個別の事象を省き,気候変化に伴う地殻変動の変化を評価することを試みた。
2.手法
使用したデータ:広域な範囲での検討を可能とするため,日本全国の海成段丘に関するデータがプロファイルされている『日本の海成段丘アトラス(小池・町田,2001)』を使用した。ただし,MIS11以前はデータが乏しいため,今回はMIS9までを用いた。また,完新世段丘のデータは限られるため,データがない地域は,地理院地図を用いて地形断面を取り,海食崖の基部を読図し補填した。このとき,同じエリアは太田ほか(1968)にならって,もっとも近くに位置するMIS5e面とMIS7面,MIS9面を1組とした。
分析方法:X軸に段丘の形成年代(t),Y軸にMIS5e,MIS7,MIS9のそれぞれの間氷期の段丘高度(m)をとったグラフを作成し近似曲線を描いた。その傾きは,MIS5e-9における平均隆起速度を示し,そのY切片は,MIS5e-9の段丘高度をつないだときのそのエリアにおける現在の高度を示す。MIS5e-9の平均隆起速度から6千年をかけることで,後氷期の完新世段丘の推定値を求めた。その際,MIS7の段丘に関しては系統的な過小評価が見られたため,気候変動曲線と整合する中で,離水年代及び海面高度を再検討した。
3.結果と考察
対象になった地域は79エリアになった。
エリアごとに平均隆起速度を比較したところ,MIS5e-9とMIS5e-7を比較したときばらつきが大きかった。海成段丘アトラスではMIS7の離水年代は21.4万年前,海面高度は 5mとされているが,MIS7の高海面期は長く,他の可能性を考える余地がある。そのため,考えられる範囲でMIS7の離水年代と海面高度の組み合わせを検討した。その結果,MIS7の離水年代と海面高度は,離水時期を24万年前で海面高度が現在と同じとすると最もばらつきが少なくなった。本研究では,MIS7についてはこの年代と高度を用いて検討を進めた。ちなみに21.4万年前,海面高度は 5mでも,この後の考察に大きな違いはない。
MIS5e-9の隆起速度から求めた期待される完新世段丘の標高と実測値を比較すると,実測値の方が大きいエリアが多かった。これは更新世よりも完新世における隆起速度の方が速いことを示す。また,MIS5e-9の段丘高度から求まる近似直線のY切片の高度は,y< 0になるエリアが多かった。これは,後氷期が終わるまでの間にy= 0となるよう今後隆起する必要があることを示す。これら2つの結果より,後氷期の高海水準期は氷期より隆起速度が大きく,今後も速い隆起速度が継続する可能性が高いことになる。つまり,気候変動に連動して海岸付近の活断層の活動度に変化が生じている可能性を示している。
【参考文献】太田陽子. (1968). 旧汀線の変形からみた第四紀地殻変動に関する二・三の考察. 地質学論集, 15-24. Nakada, M., Yonekura, N., & Lambeck, K. (1991). Late pleistocene and halocene sea-level changes in Japan: implications for tectonic histories and mantle rheology. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 85(1-2), 107-122. 太田陽子, 貝塚爽平, 菊地隆男, & 内藤博夫. (1968). 時代を異にする汀線高度の比較による地殻変動の考察. 第四紀研究, 7(4), 171-181. 小池一之・町田洋(2001)日本の海成段丘アトラス. 東京大学出版会
プレート運動に変化がないならば,地殻変動は一定の速度で継続し,それが活断層による地震活動を伴うならば,活断層は固有の地震を発生させる地震活動を周期的に起こすと考えられてきた。このことが過去の地震履歴や地殻変動速度を求めることで将来の地震予測を可能にした。特に変動量や変動様式を明らかにする基準面として海成段丘は有効な指標とされてきた。太田(1968)は,旧汀線は,過去の海面を示しており,またその位置の認定・高度の測定がかなりの精度で行えるため,旧汀線の対比さえ正しいならば,他の地形を利用するよりも形成後の地殻変動を比較的正確に把握できるとした。海成段丘は,気候の寒冷化・温暖化に伴うユースタティックな海水準変動と,断層運動などによる局所的な陸地の隆起・沈降とによる相対的な海水準変動によって形成された。すなわち,前者は地域差を生まないと考え,後者は地域固有の運動であるため地域差があると考えることで,更新世の海成段丘の高度分布は変位量が累積した局所的な地殻変動の指標と考えられてきた。一方,完新世の海成段丘の高度分布は,断層運動によって生じた変位と考え古地震評価に用いられてきた。しかし一方で,完新世段丘が更新世段丘と調和的でない理由を,ハイドロアイソスタシーで説明されてきた(Nakada, M. et. al.,1991)。本研究は,日本全国の更新世段丘の隆起速度とその高度,完新世段丘の隆起速度を比較し,局所的な個別の事象を省き,気候変化に伴う地殻変動の変化を評価することを試みた。
2.手法
使用したデータ:広域な範囲での検討を可能とするため,日本全国の海成段丘に関するデータがプロファイルされている『日本の海成段丘アトラス(小池・町田,2001)』を使用した。ただし,MIS11以前はデータが乏しいため,今回はMIS9までを用いた。また,完新世段丘のデータは限られるため,データがない地域は,地理院地図を用いて地形断面を取り,海食崖の基部を読図し補填した。このとき,同じエリアは太田ほか(1968)にならって,もっとも近くに位置するMIS5e面とMIS7面,MIS9面を1組とした。
分析方法:X軸に段丘の形成年代(t),Y軸にMIS5e,MIS7,MIS9のそれぞれの間氷期の段丘高度(m)をとったグラフを作成し近似曲線を描いた。その傾きは,MIS5e-9における平均隆起速度を示し,そのY切片は,MIS5e-9の段丘高度をつないだときのそのエリアにおける現在の高度を示す。MIS5e-9の平均隆起速度から6千年をかけることで,後氷期の完新世段丘の推定値を求めた。その際,MIS7の段丘に関しては系統的な過小評価が見られたため,気候変動曲線と整合する中で,離水年代及び海面高度を再検討した。
3.結果と考察
対象になった地域は79エリアになった。
エリアごとに平均隆起速度を比較したところ,MIS5e-9とMIS5e-7を比較したときばらつきが大きかった。海成段丘アトラスではMIS7の離水年代は21.4万年前,海面高度は 5mとされているが,MIS7の高海面期は長く,他の可能性を考える余地がある。そのため,考えられる範囲でMIS7の離水年代と海面高度の組み合わせを検討した。その結果,MIS7の離水年代と海面高度は,離水時期を24万年前で海面高度が現在と同じとすると最もばらつきが少なくなった。本研究では,MIS7についてはこの年代と高度を用いて検討を進めた。ちなみに21.4万年前,海面高度は 5mでも,この後の考察に大きな違いはない。
MIS5e-9の隆起速度から求めた期待される完新世段丘の標高と実測値を比較すると,実測値の方が大きいエリアが多かった。これは更新世よりも完新世における隆起速度の方が速いことを示す。また,MIS5e-9の段丘高度から求まる近似直線のY切片の高度は,y< 0になるエリアが多かった。これは,後氷期が終わるまでの間にy= 0となるよう今後隆起する必要があることを示す。これら2つの結果より,後氷期の高海水準期は氷期より隆起速度が大きく,今後も速い隆起速度が継続する可能性が高いことになる。つまり,気候変動に連動して海岸付近の活断層の活動度に変化が生じている可能性を示している。
【参考文献】太田陽子. (1968). 旧汀線の変形からみた第四紀地殻変動に関する二・三の考察. 地質学論集, 15-24. Nakada, M., Yonekura, N., & Lambeck, K. (1991). Late pleistocene and halocene sea-level changes in Japan: implications for tectonic histories and mantle rheology. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 85(1-2), 107-122. 太田陽子, 貝塚爽平, 菊地隆男, & 内藤博夫. (1968). 時代を異にする汀線高度の比較による地殻変動の考察. 第四紀研究, 7(4), 171-181. 小池一之・町田洋(2001)日本の海成段丘アトラス. 東京大学出版会