日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 19:15

[HQR05-P04] 北上川支流,迫川下流に発達する沖積低地および伊豆沼の発達過程

*杉浦 綸文1高橋 尚志2堀 和明3鈴木 比奈子4 (1.国立大学法人東北大学、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東北大学大学院理学研究科地学専攻、4.専修大学)


キーワード:支谷閉塞湖/湿地、地形発達、バックウォーター現象

河川の洪水・氾濫は人間社会に影響を及ぼすハザードである一方で,沖積低地の地形を形成するプロセスの1つでもあるため,沖積低地の地形分類や地形発達史の研究は,治水対策の基礎的研究としても重要である.国内において,大規模河川と比較して,中小規模の支流河川の沖積低地では,地形分類や地形発達史の研究および治水対策が進んでいない.近年,中小規模の支流河川ではバックウォーター現象による氾濫事例が多いが,バックウォーター現象による氾濫リスクを発達史地形学的な観点で評価している研究は少ない.自然堤防など本流の堆積地形が支谷の出口を塞ぐことで形成される支谷閉塞湖/湿地(blocked-valley lake/swamp)は,本流沿いの微高地よりも標高が低いことが多いため,バックウォーター現象が発生しやすい地形であるとされる.国内において支谷閉塞湿地の成立・発達過程や地下構造を明らかにした事例はほとんどない.
北上川支流,迫川の右岸一帯は,洪水時には迫川本流の逆流水が湛水しやすいとされ,支谷内の沖積低地には伊豆沼・内沼などの浅い湖沼が発達している.伊豆沼はその形態から支谷閉塞湿地であると推察されるが,周辺の沖積低地の地下構造の資料はほとんどなく,その成立・発達過程は実証的に明らかになっていない.本研究では,沖積低地の支谷閉塞湿地の発達過程やその洪水・氾濫リスクに関する基礎的知見を得るために,地形判読,既存ボーリング柱状図の解析,掘削調査を行い,伊豆沼周辺の地形発達史を議論する.
空中写真と旧版地形図による地形判読の結果,迫川右岸の支谷の出口周辺において,周囲の氾濫平野より約0.5–1.0 m低い後背湿地が複数確認された.これらは,1913年測量の1/50000地形図「若柳」では湖沼もしくは湿田となっており,支谷閉塞湿地であるとみられる.既存ボーリング柱状図の解析から,伊豆沼の発達する支谷の出口付近における沖積層の厚さは約20–30 mであり,標高約-15–-20 mの沖積層下部には,貝殻片を含む泥層が存在することが明らかになった.この泥層は,北上川下流沖積低地において,約10,000 y B.P.からの海水準上昇に伴って拡大した内湾の底で堆積した中部海成粘土層(伊藤, 1999)に対比される.このことから,縄文海進最盛期には内湾が伊豆沼の発達する支谷の出口付近まで拡大しており,伊豆沼は海跡湖である可能性が示された.
また,伊豆沼の干拓地(旧水域)にてコアを採取したところ,深度50–200 cmのシルト層中から,十和田a(To-a)テフラに対比される灰白色ガラス質火山灰の純層が見いだされたことから,To-aが降下したAD915時点で伊豆沼は湿地として成立していたと考えられる.伊豆沼の干拓地で掘削されたコアや伊豆沼北東の迫川の旧河道で掘削されたコアでは,シルトと細~中流砂の互層が観察された.これは,支谷閉塞湖と本流の氾濫平野との境界部でみられる湖成堆積物と本流性の洪水堆積物の指交関係(Grenfell et al., 2010)の一部である可能性があり,支谷内への本流の逆流が繰り返し発生してきたことが示唆される.
伊豆沼北東の迫川の旧河道で掘削したコアより採取した植物片の放射性炭素年代により,迫川本流がこの位置を流れていた時期はBC359–AD1220に制約された.この時期に形成された自然堤防によって伊豆沼の発達する支谷が閉塞され,以降伊豆沼は支谷閉塞湖として維持されてきた可能性がある.以上から,伊豆沼は少なくとも歴史時代以降,迫川本流の堆積作用に伴い支谷閉塞湖として維持されてきた可能性がある.つまり,伊豆沼は海跡湖であるとともに,支谷閉塞湖としての性質も併せ持つと考えられる.このような支谷閉塞湖が迫川右岸の支谷に形成された原因として,栗駒山に源を発する迫川と比較して,伊豆沼に流入する支流河川の土砂供給量が小さいことが考えられる.今後,伊豆沼と類似した地形条件に発達する湖沼や沖積低地においても知見を蓄積させ,発達過程を比較する必要がある.
本研究は,令和6年度栗駒山麓ジオパーク学術研究等奨励事業補助金を使用して実施した.