日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 19:15

[HQR05-P14] 貝形虫を用いた中央アナトリア地域における過去5000年間の古環境推定

*春木 美桜1多田 隆治2鈴木 健太2多田 賢弘2香月 興太3山田 桂1唐 双寧1、Sayhan Sencer4、松村 公仁5、大村 幸弘5 (1.信州大学、2.千葉工業大学、3.島根大学、4.Kırşehir Ahi Evran University、5.アナトリア考古学研究所)


完新世には,4.2 kaや3.2 kaに代表される急激な気候変動が起きたことが知られている.これらの気候変動は文明の盛衰に影響を及ぼした可能性が指摘されているが,それらの変化様式や継続期間,地域的広がりは必ずしも明らかではない.そこで本研究では,トルコ中央アナトリア地域にあり,1970年代に人為的な排水により干上がった湖であるEski Acıgölの堆積物を用いて,過去5000年間について,貝形虫の群集解析に基づき古環境変動の復元を試みた.貝形虫は水域条件によって種ごとに生息環境が制限されるため,古環境復元に有効なツールである.
本研究で扱うコアEA2301は,トルコ共和国の首都アンカラの南東約200 kmに位置するEski Acıgölで採取された.4つのホールで掘削されたコアを岩相に基づいて対比し,ほぼ連続した長さ4.8 mの1本のセクションを作成した.コアは炭酸塩や生物源シリカを含む細粒砕屑物で構成され,先行研究との対比から過去約6000年間分の堆積物で構成されると推定される.年代については現在測定がおこなわれており,現時点では仮の年代モデルを使用しているため,500年程度の誤差がある.本研究では1 cmの厚さに分割された試料のうち計81試料を用いた.試料を63㎛のふるい上で水洗し,乾燥させた残渣から貝形虫の拾い出しをおこなった.全81試料のうち78試料から 6種の合計4735個体の貝形虫が産出した.
貝形虫の種構成に基づいたクラスター分析の結果,試料は3つの生物相に分類された.さらに生物相2は亜生物相2aと2b、生物相3は亜生物相3aと3bに分けられた.生物相1(457–461cm)は貝形虫の産出個体数が少なく,非常に浅く温暖な水域を好むH. salinaの割合が高い.このことから,生物相1は湖の水位が低く温暖な環境を示すと推定した.生物相2は貝形虫産出個体数が少なく,非常に浅い水域を好むL. inopinataとやや深い水域を好むC. meerfeldianaが産出する.亜生物相2a (254–276 cm)は両者が同程度産出することから,湖の水位がやや浅い環境であると推定した.一方で,亜生物相2bはL. inopinataの割合が85%以上を占めることから,湖の水位が非常に浅い環境であると推定した.生物相3は貝形虫の産出個体数が多く,低塩分でやや深い水域を好むC. meerfeldianaが最も優占する.亜生物相3a(250cm, 258-263cm, 268-273cm, 278-291cm, 338cm, 380-385cm, 415-427cm, 441cm,453cm, 505-515cm)は同種の割合が80%程度であることから,低塩分で湖の水位がやや深い環境であると推定した.亜生物相3b(266cm, 295-335cm, 340-375cm, 391-408cm, 433-437cm, 444-450cm)は同種の割合が90%以上であるため,低塩分で亜生物相3aより湖の水位が深い環境であると推定した.
生物相の垂直変化に基づくと,およそ10-40年間スケールの短期的な変動を伴いながら,全体として古水深は下半部の深い環境からコア深度300 cm付近で上方へ浅海化を示した.この浅海化は,貝形虫の産出個体数の減少,堆積物中のClやドロマイト量の増加と一致しており,およそ3000年前ごろからEski Acıgölの水位低下に伴い塩分が増加し,貝形虫がほとんど生息できない環境に変化したと推定される.Eski Acıgölに流入する大きな河川は認められないことから,この水位低下は周囲の乾燥化に関連している可能性がある.長期的な古水深変動に加えて,コア深度470 cm付近(およそ5000年前)にはH. salinaの優占で特徴づけられる非常に浅い環境が一時的に存在したことが示された.ITRAXの分析によると,この浅海化はKの増加と一致しており,乾燥化による砕屑物流入量の増加と関連している可能性がある.以上のように,トルコ中央部におけるEski Acıgöl周辺の気候は,長期的には約3000年前(コア深度300cm)ごろから乾燥化したこと,5000年前ごろ(コア深度470cm)に一時的に乾燥な気候であったことが推察された.