日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 資源地球科学 

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:星野 美保子(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、大友 陽子(北海道大学大学院工学研究院)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科)、野崎 達生(早稲田大学 理工学術院 創造理工学研究科 地球・環境資源工学専攻)

17:15 〜 19:15

[HRE12-P11] 南部フォッサマグナ丹沢地域玄武岩質岩の透輝石巨晶に含まれるトーナル岩質メルト包有物

*天谷 宇志1、黒澤 正紀2 (1.産業技術総合研究所地質調査総合センター、2.筑波大学生命環境系)

キーワード:花崗岩質メルト包有物、透輝石、トーナル岩、斑岩銅鉱床

日本の熱水性金属鉱床の多くは,金属と硫黄に初生的に富む花崗岩質マグマから放出された熱水流体により形成されている.そのため,それら鉱床の成因検討には,下部地殻付近に存在する初生花崗岩質メルトの化学的特徴の解明が重要となる.しかし,地表の花崗岩体の多くは,結晶分化や熱水分離等により初生的な化学的特徴を失っている可能性が高い.そこで,筆者らは,上部マントルから地表へ直達する未分化玄武岩に捕獲された花崗岩質メルトに着目し,玄武岩の透輝石巨晶に捕獲された花崗岩質メルト包有物を分析することで,南部フォッサマグナ地域西部の初生花崗岩質メルトの化学的特徴と金属鉱床との関係の検討に成功した(Amagai & Kurosawa, 2023).今回は,南部フォッサ地域東部の代表的花崗岩である丹沢トーナル岩体(神奈川県北部)に関連した初生マグマの化学的特徴を,岩体周辺に産出する玄武岩類の透輝石巨晶に含まれるメルト包有物から検討した.
 丹沢岩体は,マントル的な特徴を持つ典型的なMタイプ花崗岩とされ,同タイプの花崗岩は,大陸縁部では大規模な斑岩銅金鉱床を随伴するが,丹沢岩体では,ごく小規模な鉱脈型銅鉱床や層状硫化鉄鉱床を少数伴うのみである.但し,この岩体は,高濃度に銅を含む玄武岩を噴出する海洋プレートの沈み込みに成因的に関連しており,潜在的には斑岩銅鉱床のような巨大銅鉱床の形成能力があると考えられる.他方,同岩体は伊豆―小笠原弧の衝突帯による影響で上昇しており,急速な削剥によって地殻浅部に形成される鉱化帯の情報は既に消失している.そのため,メルト包有物の組成による深部花崗岩マグマの化学的特徴の解明が重要となる.つまり,大規模鉱床を伴わない理由は,初生的に金属に乏しいマグマのためなのか,それ以外の理由かを解明できる可能性がある.
 試料には,丹沢岩体東側に位置する早戸川流域の丹沢層群に挟まれる海底玄武岩溶岩と地層内に貫入した玄武岩質安山岩脈を用いた.溶岩と岩脈の主成分組成は,低~中K系列の火山岩を示し,微量成分組成の特徴は,伊豆・小笠弧の衝突時のリフト帯に特徴的なMgに富む玄武岩類(Kawate, 1997)に類似していた.玄武岩溶岩には,普通輝石の厚いリムを伴う透輝石の巨大な斑晶(巨晶)が含まれ,玄武岩質安山岩脈には,普通輝石の巨晶が含まれていた.いずれの巨晶も明瞭な組成累帯を示し,そのコア部分は溶融により不定形~楕円形となっていた.メルト包有物は,コア部分に孤立して存在するか,組成累帯に沿って分布しており,初生メルト包有物と考えらえる.両方の巨晶には,緑泥石を主体とする深緑色の結晶質の包有物と花崗岩質の透明なメルト包有物が含まれていたが,今回は後者を検討した.
 花崗岩質メルト包有物には,2種類のタイプが存在し,負結晶の形状で部分的に結晶化した微結晶型と,楕円形でほぼガラスからなるガラス型が認められた.微結晶型は,主に石英・長石を主とする微細な析出結晶からなり,シリカやアルカリに富む不均一なガラスを少量含んでいた.空隙が多いのが特徴で,少量の磁鉄鉱・角閃石・燐灰石,亜鉛を伴う黄銅鉱・黄鉄鉱を時々含んでいた.ガラス型は,ほぼ均質なガラスからなり,やや大きな気泡と,少量の析出結晶(磁鉄鉱・角閃石・銅を伴う磁硫鉄鉱・鉄硫化物)を含んでいた.大きな気泡の存在は,高温下でのメルト捕獲と包有物冷却時での揮発性成分の放出を示唆し,ガラス型メルト包有物は熱水放出前の花崗岩質メルトを捕獲している可能性を示唆する.空隙が多い微結晶型包有物も同様と考えられる.玄武岩の巨晶には微結晶型が多く,玄武岩質安山岩脈の巨晶には,ガラス型が多く含まれていた.
 玄武岩の透輝石巨晶の形成圧力は,透輝石組成のコア部分で約6~8 kb,普通輝石組成のリムで約3~6 kbと推定され,コアの圧力は丹沢トーナル岩の親マグマの形成圧力(約10 kb, Nakajima & Arima 1998)に近い.他方,岩脈の普通輝石巨晶のコア部分の形成圧力は,約3~6 kbと低かった.そのため,玄武岩の透輝石コアのメルト包有物が,花崗岩マグマの初生的特徴の解明に重要となる.透輝石コアの微結晶型メルト包有物の平均化学組成は,63 wt% SiO2, 0.4wt% K2Oと推定され,低K系列の花崗閃緑岩の組成に相当した.これは岩体の花崗岩類の特徴と一致し,初生丹沢トーナル岩質マグマが捕獲されている可能性を示す.また,丹沢岩体東側の山梨県佐野川流域の初生花崗岩メルト包有物(Amagai & Kurosawa, 2023)に比べると,析出金属硫化物の量や種類,硫黄・水含有量が少なく,小規模な金属鉱脈を伴う佐野川地域よりも,さらに鉱脈が形成されにくい条件が推定される.今後,メルト包有物の金属濃度の推定を行う予定である.