日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE13] 応用地質学の新展開

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹下 徹(パシフィックコンサルタンツ(株)・国土基盤事業本部 顧問)、太田 岳洋(山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)、北田 奈緒子(一般財団法人 GRI財団)、座長:太田 岳洋(山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)、北田 奈緒子(一般財団法人 GRI財団)、竹下 徹(パシフィックコンサルタンツ(株)・国土基盤事業本部 顧問)

16:15 〜 16:30

[HRE13-04] 3D 開発プラットフォーム「Unity」を用いた地域防災のための土砂災害シミュレーション

*菊地 輝行1、吉村 葵生1、小林 快空1、竹田 和弘2、大西 徹夫2 (1.公立諏訪東京理科大学、2.中央開発株式会社)

キーワード:Unity、正常性バイアス、地域防災、土砂災害

1.はじめに
気候変動による自然災害が多発する中で,繰り返し発生する災害と認知バイアスの問題は,喫緊の問題である.認知バイアスとは,自分の意見や先入観を肯定するために,それに賛同する情報だけを集め,反証する情報は無視してしまう心理作用である.特に災害に関連するものとして「正常性バイアス」がある.正常性バイアスは,危険が迫っているという情報に対して,ある範囲内であれば,その異常性を無視・過少化してしまい,異常を日常的な正常文脈として処理してしまう認知傾向をいう.これは,自分や知人が経験した事象以外は起こりえないという考えに到達する.防災減災のための施策においては,こうした正常性バイアスの特性を考慮した計画立案とリスクリテラシーの向上が重要1)である.
2021年茅野市において発生した土石流災害は,多数の家屋被害が生じた.この土石流における死者はなかったが,土石流は1万m3以上,浸水被害は33棟に至る中で死者なしは非常に貴重な例である2).筆者らが聞き取り調査の結果,土砂災害警報発令の30分以上前に避難するという行動が確認できた.この行動を決断するきっかけとなったのは,曾祖父の「川がゴロゴロ鳴った時,川から異様なにおいがするときには逃げろ」と言われていたとのことであった.すなわち地域伝承が受け継がれている地域においては,正常性バイアスを封印して逃げるという決断が生まれている.
そこで,本研究では,目覚ましい技術開発を達成しているゲーム,特にオープンワールド(ゲーム空間において移動制限がなく,プレーヤーが自由に探索できる)と呼ばれるゲーム環境を活用し,リアリティあふれる地形情報を用いることで土砂災害シミュレーションを作成し,ゲームを通じて地域防災に貢献する事例を試行した.

2.手法
 ゲーム作成においては,無料で使うことのできる開発プラットフォームが使用されている.著名なものとしてUnity(ユニティ)がある.Unityは,ユニティ・テクノロジー社が開発するゲームエンジンで,物理演算などが可能であり,自分で得た3Dモデルを表示できる.開発したものは家庭用ゲーム機や携帯電話,Webで原則自由に公開することができる.そこで本研究では,前述の茅野市高部地区に隣接する安国寺地区の0.5m-DEMデータ(長野県林務部)を用いて地形モデルの構築を行った.

3.モデル構築結果
 Unity(ユニティ)を用いたモデル構築の事例を図-1に示す.地形表現には国土交通省PLATEAUで提供されている空中写真と,中央開発株式会社によって開発されたCIマップ3)を用いた,これによりリアリティのある地形表現と専門家が見ても地形判読のイメージが可能な表現力を所有することができた.また土石流の表現は,Unityの物理演算により行った.2021年に発生した茅野高部での土石流災害の事例を参考に土,礫,水,倒木を表現したものの,実際の大きさよりも誇張してゲームとしての見た目の土石流の勢いを表現することに徹した.このため,水平方向の流体の密度偏差に起因する圧力勾配による密度流のような表現を行うには至らず,例えば,Morpho2DH(水工学に係る数値シミュレーションのプラットフォーム iRIC で動作する土石流モデルを主体とした解析ソルバー)のような表現力には至っていない.

4.まとめ
Unity(ユニティ)を用いた斜面災害のモデル構築結果は,実際の地形や災害事例を参考にして地域への影響があることを表現できたものの,実際の災害とは乖離があり今後の検討課題である.一方で,現実にある地形やわずかな高低差で方向が変わっているなどの傾向をつかむことはリアリティのある表現ができると期待ができる.

参考文献
1) 菊池聡, 災害における認知バイアスをどうとらえるか-認知心理学の知見を防災減災に応用する, 日本地すべり学会誌, 55-6, pp. 286-292 (2018):
2)坂井佑介, 山田友, 坂田剛, 山越隆雄, 宮瀬将之, 酒井敦章, 林真一郎, 令和 3 年 9 月に長野県茅野市下馬沢川で発生した土砂災害, 砂防学会誌, 75-1, 25-34.(2022).
3)上原大二郎,西村修一,田中風羽,竹田和弘:収束度(Convergence Index)を利用する微地形表現図「CI マップ」の考案, 第59回地盤工学研究発表会,23-13-1-06.(2024).