日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE13] 応用地質学の新展開

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹下 徹(パシフィックコンサルタンツ(株)・国土基盤事業本部 顧問)、太田 岳洋(山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)、北田 奈緒子(一般財団法人 GRI財団)、座長:太田 岳洋(山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)、北田 奈緒子(一般財団法人 GRI財団)、竹下 徹(パシフィックコンサルタンツ(株)・国土基盤事業本部 顧問)

16:30 〜 16:45

[HRE13-05] 定量化地生態学的手法による斜面災害危険度評価-応用地質学的問題の解決に対する学際的視点の必要性

*太田 岳洋1、國丸 泰平2、竹田 拓己1、山本 道輔3黒木 貴一5、井本 雅之2,8、木山 拓海2,7辻 智大1、宮本 新平4、森川 寛之4、西山 哲6 (1.山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野、2.山口大学理学部地球圏システム科学科、3.(株)オーエスエー、4.中電技術コンサルタント(株)、5.関西大学文学部、6.岡山大学環境生命自然科学学域、7.トキワコンサルタント(株)、8.(株)ジオテクノ関西)

キーワード:定量化地生態学、斜面災害危険度評価、学際的視点

斜面崩壊や落石,土石流等の発生には,地形・地質条件のほかに地下水条件や植生,人工改変などの環境条件が関与すると考えられる.したがって,自然災害を克服あるいはそれと共存して持続可能な社会を構築するためには,諸現象のメカニズムを解明し,問題の解決策を提案できる総合的な科学が必要である(目代,2021).小泉(1993)は,地質,地形,土壌,植生といった地域の自然環境を,一連の系として把握する地生態学的な方法が必要であると述べており,その方法は自然災害を考えるうえで重要な方法となり得る.つまり,斜面の地形の形成には地生態学的な検討が必要であり,地形発達過程が人間活動に影響を及ぼす事象である斜面災害についても,地生態学的な考察が必要であると考えられる.しかしこれまでの斜面に関する地生態学的な研究は,空中写真判読や現地調査などの地生態学的調査手法によることが多いため,定性的であることが多く,既往研究(太田他,2008)も地形のみが定量化され,植生の評価は定性的である.近年のレーザ測量技術の発展,特にUAV搭載型のレーザドローンにより非常に細密なデータが取得可能となっており,斜面上の礫分布などの極微地形や個々の樹木の幹径や枝葉まで計測可能となった(原口他,2018).
 そこで本研究では,平成30年7月豪雨の際に多数の斜面崩壊等が発生した山口県岩国市周辺を対象にレーザドローンを用いて斜面の極微地形とともに植生等の樹高,樹冠密度等の地被状況を詳細に計測することにより,地被状況(育成状況)と地形(斜面方位,傾斜等)との関係の定量化を試みた.定量化された地被状況と斜面崩壊の発生の有無,発生規模を比較することで,斜面崩壊の発生可能性や規模の推定を地形,植生の特徴から定量的に評価する手法を検討した.一方,個々の斜面崩壊に植生の効果を考慮する際,樹木根系の斜面安定への効果,樹冠による降雨遮断などの林内気象への影響を検討する必要がある.そこで,レーザドローン計測を行った斜面を対象に,根系分布の観察に基づく斜面安定の理論計算,強度や土壌水分量などの地盤物性の測定,土壌水分量に影響する気象条件(降雨量,気温,日射量など)の観測を行い,間隙水を考慮した根系と地盤・岩盤との力学的作用モデルを構築して,植生状況の斜面への作用効果を定量的に評価する手法を検討した.
 その結果,以下のことが明らかとなった.
1)平成30年7月豪雨時の表層崩壊は林道を起源とするもの以外は,多くが上部谷壁斜面で発生した.
2)植生により土壌層を構成する砂の粒度組成が異なる.
3)植生による林内の降雨状況が異なり,樹木の枝葉による降雨遮断効果が認められるが,10mm/30min以上の降雨強度では顕著ではなくなる.
4)崩壊の発生した幼齢林の上部谷壁斜面の土壌層では,他に比べて浸透した降水が地下水として滞留しやすい.
5)根系強度を考慮した斜面の安全率算出法を確立したが,今回の対象地域では根系による補強効果は小さい.
 上記の結果に基づき,対象地域における平成30年7月豪雨の際の表層崩壊発生機構が推定された.また,それに基づいて定量化地生態学的手法を用いた斜面災害危険度の評価方法を提案した.