日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC06] 地球温暖化防⽌と地学(CO2地中貯留・有効利⽤、地球⼯学)

2025年5月27日(火) 09:00 〜 10:30 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、愛知 正温(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、今野 義浩(The University of Tokyo, Japan)、座長:今野 義浩(The University of Tokyo, Japan)

09:00 〜 09:15

[HSC06-01] 国内の苦鉄質岩試料を用いた風化促進における大気–水–鉱物相互作用の地球化学反応モデリング

*西木 悠人1徂徠 正夫1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:ネガティブエミッション、岩石風化促進、苦鉄質岩、炭酸塩鉱物、地球化学反応モデリング

岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering: ERW)は,ネガティブエミッション技術の一つであり,採掘した苦鉄質岩・超苦鉄質岩を粉砕し,地表の土壌に散布することで,その風化過程で大気からCO2を吸収させることを想定している。ERWにおけるCO2の吸収・固定メカニズムとしては,CO2地中貯留における地化学トラップと同様に, HCO3などの形態での溶存(溶解トラップ)や方解石(CaCO3)などの生成(鉱物トラップ)が考えられる。Beerling et al. (2020)では,アルカリ玄武岩とソレアイトの岩粉(粒径10μm程度)を,40 t/haの割合で土壌層15cmに散布した場合の1次元反応輸送シミュレーションからCO2吸収量を推定しており,それを全世界に適用した場合のCO2削減効果を示した。しかしながら,一般的には,苦鉄質岩や超苦鉄質岩にはその組成にバリエーションが見られることから,ERWの事業化の前には,サイトごとに,使用する具体的な岩石の選定を行い,同様な地球化学反応モデルでCO2吸収量を予測しておく必要がある。本研究の目的は,Beerling et al. (2020)が用いている地球化学反応モデリングを,国内の苦鉄質岩試料を出発物質として適用した際のCO2吸収量を評価することである。

本研究では,北海道,長崎県壱岐島,新潟県佐渡島,東京都八丈島など国内各地で地質調査を行って岩石試料をサンプリングし,作製した薄片でモード測定を行うことで,各地の鉱物組成情報を取得した。北海道試料はかんらん岩であり,ほかは玄武岩(壱岐島試料はアルカリ玄武岩,佐渡島試料はかんらん石の多い玄武岩,八丈島試料は斜長石の多い玄武岩)である。本試料と,Beerling et al. (2020)で例示されているアルカリ玄武岩とソレアイトで,Beerling et al. (2020)と同様なモデリングを地球化学コードThe Geochemist’s Workbenchで実施した。岩粉を混合した土壌層の,20 vol%が水で飽和されている間隙,~1 vol%が岩粉であり,1200 mm/yearの降雨による鉱物の溶解を速度論で,二次鉱物の生成を平衡論で考えて,1年間の地球化学反応を予測した。

Beerling et al. (2020)で例示されているアルカリ玄武岩とソレアイトの場合のモデリング結果は,概ねBeerling et al. (2020)の計算結果と整合的であり,本研究でもBeerling et al. (2020)と同様のモデリングに成功した。斜長石やかんらん石の溶解が顕著に見られ,単斜輝石やカリ長石はほとんど変化しなかった。国内の岩石試料のモデリングでも,その傾向は同様であり,斜長石を多く含む八丈島玄武岩や,かんらん石を主体とする北海道かんらん岩では,岩石の溶解が顕著に見られた。本モデリングのCO2吸収量の結果(15 cm土壌層内での鉱物トラップと,土壌層外に流出してしまう溶液中の溶存トラップの合計)は,Beerling et al. (2020)で例示されているアルカリ玄武岩とソレアイトで~0.1 t-CO2/t-rock/yearであるのに対し,壱岐島玄武岩で0.08 t-CO2/t-rock/year,八丈島と佐渡島玄武岩で~0.12 t-CO2/t-rock/year,北海道かんらん岩は0.45 t-CO2/t-rock/yearであった。ERWでは,CO2地中貯留のように隔離された空間におけるCO2固定ではないため,溶解トラップではなく,可能な限り地表の土壌層中においてCO2を鉱物トラップさせることが望ましい。本モデリングでは全試料において,15 cm土壌層内で炭酸塩の生成が予測されるものの,生成量が顕著であるのは,北海道のかんらん岩(ハイドロマグネサイトとしての生成を想定し,0.10 t-CO2/t-rock/year)と,斜長石を多く含む八丈島玄武岩(方解石としての生成を想定し,0.06 t-CO2/t-rock/year)であった。したがって,CO2の鉱物トラップが多く見込めない岩石試料に関しては,単なる地表への散布のみならず,何らかの処置によって鉱物化を加速する方策を練る必要がある。また今後,ERWのモデリングのさらなる向上のためには,モデリングに含める一次鉱物種(特に固溶体鉱物)や二次鉱物種(特に準安定相)の適切な選定と,生成速度論の考慮,反応表面積の適切な設定,断続的な降雨とその間の水の蒸発の考慮などが検討項目として挙げられる。特に,方解石などの炭酸塩鉱物は,間隙水組成が飽和に達しても生成が遅いことが多く,臨界過飽和度の計算や,前駆物質となる準安定相の生成も加味することでより正確なシミュレーションが可能となる。また,岩石から溶出されるニッケルやクロムなどの微量元素の挙動の予測を含めた環境影響評価も必要となる。