日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:竹内 望(千葉大学)

09:15 〜 09:30

[HTT16-02] 弘前における冬季降水と水蒸気の安定同位体比変動:爆弾低気圧による水循環プロセス

*谷田貝 亜紀代1、大堀 楓河2、奉 夏暎3、楊 言4芳村 圭4 (1.弘前大学大学院理工学研究科、2.弘前大学理工学部、3.NASA/GISS、4.東京大学生産技術研究所)

キーワード:水同位体、降雪、爆弾低気圧

降水の安定同位体比は、水の相変化に伴う分別効果を反映し、水循環過程の逆推定が可能である。この理解は、現在の水循環の解明や、激甚化する気象災害への対策に貢献する可能性がある。本研究では、弘前での2019年12月以降の降水同位体比と2020年12月以降2024年2月までの水蒸気同位体比の測定を基に、2021年2月15–16日に急発達した低気圧による降水に着目し、数値モデル(IsoRSM)を用いて解析を行った。
観測は弘前大学屋上で行い、降水はバケツで収集し、水蒸気はドライアイス・エタノールによるcold trapで捕捉した。数値モデルとして、水の安定同位体をトレーサーとしたIsoRSMを用い、東シナ海、日本海、太平洋北部、太平洋南部の4つの海域から蒸発した水の寄与をトレーサーモード(色水実験)で解析した。既存研究(上野ほか, 2022)では、2020年11月26日~2021年3月1日のシミュレーションを行い、日単位の同位体比変動は概ね再現できたが、d-excessの変動の再現性は十分ではなかった。
2021年2月15–16日の降水の安定同位体比を解析し、δ18Oの時間変化に基づきT1(2月15日 04–12 UTC: 低下)、T2(2月15日 12–19 UTC: 上昇)、T3(2月15日 19 UTC – 2月16日 22 UTC: 再度低下)の3期間に分類した。色水実験の結果、T1では太平洋南・太平洋北、T2では太平洋南・日本海、T3では日本海が水蒸気起源であることが明らかになった。HIMSSTの解析では、関東東方の太平洋(140–148°E, 35–38°N)で+3℃以上の海面水温(SST)偏差が確認された。モデル内の洋上大気温度とHIMSSTがほぼ一致しており、蒸発は急激ではなく緩やかだったと推測される。さらに、相対湿度と風の解析から、太平洋南の水蒸気は低気圧とともに輸送され、持続的に供給されていたことが示唆された。T1・T2でd-excess値が低下したのは、蒸発が緩やかな太平洋起源の水蒸気の寄与によるものと考えられる。
また、2024年2月27日に岩手県北部で発生した記録的豪雪についても解析を行っている。この事例も急発達低気圧によるものであり、弘前で観測された水蒸気同位体比は過去最低値を記録した。HIMSSTの解析では、岩手県沖で高いSST偏差が確認され、2021年2月の事例と共通する特徴があることが分かった。日本海側の降水・水蒸気は世界的に見ても高いd-excessを示すため、その特性を既存の気象資料と対応付けることで、数値モデルの改良や古環境記録の解釈に貢献できる可能性がある。