日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:竹内 望(千葉大学)

09:45 〜 10:00

[HTT16-04] 日本列島の渓流水安定同位体比空間分布に見る20年間の気候変動の影響

*勝山 正則1、網屋 花菜2牧野 奏佳香3、徳地 直子4、赤石 大輔5、小山 里奈6、駒井 幸雄4、板谷 佳美6、- Nay Lin Maung7 (1.京都府立大学大学院生命環境科学研究科、2.京都府立大学生命環境学部、3.福井県立大学生物資源学部、4.京都大学フィールド科学教育研究センター、5.大阪産業大学デザイン工学部、6.京都大学大学院情報学研究科、7.京都大学農学研究科)

キーワード:渓流水、安定同位体比、空間分布、気候変動、日本列島

渓流水は降水から流出に至る流域内部の水循環過程を反映している。渓流水の安定同位体比は概ね降水の長期加重平均値と等しくなることが知られており、また降水で見られる地域差も同時に反映する。日本列島においては、2003年に全国各地で採取されたサンプルを元にしたISOSCAPEが作成されており、その分布の決定要因が明らかになっている(Katsuyama et al., 2015)。一方、気候変動の進行とともに、短時間に強い雨が降る頻度が増加するなど、降水過程の変化が生じている。降水過程の変化は、それに続く流出過程にも影響を与え、かつ、その影響度合いには地域差が生じると考えられる。そこで本研究では、2022年に新たに全国で採取されたサンプルを元に、渓流水の酸素・水素安定同位体比分布を示すとともに、2003年からの約20年間における変化を気候変動との関連から明らかにすることを目的とする。
2022年3月から12月にかけて、沖縄県と千葉県を除く45都道府県の1430地点の山地渓流で採取されたサンプルを使用した。δ18Oおよびδ2Hを測定し、2003年のデータと比較した。緯度、標高、年平均気温との重回帰分析により、2003年、2022年それぞれの同位体比予測式を作成した。この式により、全国3次メッシュ(約1km四方)交点の同位体比を算出し、それぞれの採水時点に対応する年平均気温のメッシュ平年値2000年および2020年と比較した。d-excessは値と地点数の累積分布関数の比較から、値の変化を見た。
δ18Oとδ2Hには明瞭な直線関係が見られた。また、2022年のδ18Oの空間分布パターンは2003年と同様で、南から北に向かって値が小さくなり、日本アルプスや大雪山系のように高標高の地域ではさらに小さくなった。つまり、緯度効果、高度効果が明瞭に反映された分布となった。2003年と2022年の比較では全国的にδ18Oの値が大きくなっていた。気温との関係を見ると、全体の91%の地点で、気温が上昇しており、かつ、δ18Oが大きくなっていた。これは温度効果による変化が明瞭に表れていることを意味する。
d-excessを見ると、累積分布関数は概ね重なったが、d-excessが10から14の範囲で曲線が右にシフトし、値が大きくなっている地点数が増えていた。この地点は九州、四国および中部地方太平洋側に多く見られた。d-excessは起源となる水蒸気の蒸発過程を反映する指標であり、降水では値の上昇は蒸発速度の増大を意味している。近年、極端豪雨現象と呼ばれる短時間集中型の豪雨の回数が増えていることが明らかになっている。これは活発な水蒸気供給によってもたらされることになるが、このときに降水d-excessが大きくなり、それが渓流水にも反映されていると考えられる。d-excessの分布はこのような極端豪雨現象の影響の地域差を反映している可能性がある。
以上のように、全国の渓流水安定同位体比分布には、20年間の気候変動に伴う気温の上昇が明瞭に現れるだけでなく、気候変動に伴う降水過程の変化、水循環過程の変化も反映されることが明らかになった。ISOSCAPEは動的な変化の1つの時点を切り取ったものと考えるべきであり、ある程度定期的に更新し、その成因を検証していくべきものである。