13:45 〜 14:00
[HTT16-13] 山岳アイスコアに基づく中央アジア後期完新世の民族移動を引き起こした環境要因の解明
キーワード:天山山脈、アイスコア、中央アジア、安定同位体
ユーラシア大陸では,内陸部を東西に延びるステップを介して古くから人々や文化が往来してきた.黒海北方域から東方に移動していたヤムナヤ遊牧民は,中央アジアに農業や牧畜をもたらした後,3700 yr BP頃に南下し天山山脈やパミール高原の山岳域を超え,インドまで到達したと考えられている.この時期に環境の厳しい山岳域を超えた要因の一つとして,気候変動が考えられる.中央アジア山岳域の環境復元の手段の一つがアイスコアである.後期完新世の多数の住居遺跡が見つかっているキルギス天山山脈では,2007年にグリゴレア氷帽でアイスコアが掘削されている.そこで本研究ではグリゴレア氷帽アイスコアの酸素安定同位体比や花粉濃度,化学成分,鉱物粒子,水溶性Sr安定同位体比を分析し,氷帽周辺の遺跡年代と比較することで,中央アジア山岳域の民族移動に関わる気候変動や大気循環,乾燥度の変化を明らかにすることを目的とした.
本研究で用いた中央アジアのキルギス共和国天山山脈のグリゴリア氷帽アイスコアは,全長が約87 mで,底部の年代は放射性炭素によって12500 cal yr BPであることがわかっている.遺跡年代(2500-4500 cal yr BP)は,放射性炭素年代測定を行なった深度76.54 mと79.53 mの区間に対応し,その間の各層の年代は堆積速度と圧密が一定という仮定をもとに決定した.
分析の結果,酸素安定同位体比は数百年の周期で上下を繰り返し,5500 cal yr BP以降にその振幅が大きくなっていることが明らかになった.アイスコア中の花粉の記録から,天山山脈山岳域で4700 cal yr BPに樹木から草本へ植生が大きく変化していることがわかった.アイスコアのダスト由来のカルシウムイオンの高濃度ピークは,遺跡が出現する前の5000 cal yr BP以降に強い乾燥化の回数が増加したことがわかった.アイスコアに含まれるダストの鉱物構成の分析からは,遺跡の出現年代は他の時代に比べて粘土鉱物の割合が小さく,また方解石が含まれることがわかった.アイスコア中の87Sr/86Srは,遺跡の出現年代の前後には大きな値の変化はなかったが,前期完新世から遺跡の出現年代にかけてわずかに同位体比が上昇し,このことはこの時代にダストの起源が変化したことを示唆している.中央アジア周辺地域の87Sr/86Srの値との比較の結果,変化前後の値がそれぞれ南部パミール山域と北部天山山域に一致したことから.この値の変化は天山山脈周辺の乾燥化が進んだことを示していると考えられる.以上の結果から,完新世中期に起きた気温の変動パターンの変化と山岳域での草原の拡大,乾燥度の増大という環境変化が,天山山脈への民族の移入を促した可能性がある.
本研究で用いた中央アジアのキルギス共和国天山山脈のグリゴリア氷帽アイスコアは,全長が約87 mで,底部の年代は放射性炭素によって12500 cal yr BPであることがわかっている.遺跡年代(2500-4500 cal yr BP)は,放射性炭素年代測定を行なった深度76.54 mと79.53 mの区間に対応し,その間の各層の年代は堆積速度と圧密が一定という仮定をもとに決定した.
分析の結果,酸素安定同位体比は数百年の周期で上下を繰り返し,5500 cal yr BP以降にその振幅が大きくなっていることが明らかになった.アイスコア中の花粉の記録から,天山山脈山岳域で4700 cal yr BPに樹木から草本へ植生が大きく変化していることがわかった.アイスコアのダスト由来のカルシウムイオンの高濃度ピークは,遺跡が出現する前の5000 cal yr BP以降に強い乾燥化の回数が増加したことがわかった.アイスコアに含まれるダストの鉱物構成の分析からは,遺跡の出現年代は他の時代に比べて粘土鉱物の割合が小さく,また方解石が含まれることがわかった.アイスコア中の87Sr/86Srは,遺跡の出現年代の前後には大きな値の変化はなかったが,前期完新世から遺跡の出現年代にかけてわずかに同位体比が上昇し,このことはこの時代にダストの起源が変化したことを示唆している.中央アジア周辺地域の87Sr/86Srの値との比較の結果,変化前後の値がそれぞれ南部パミール山域と北部天山山域に一致したことから.この値の変化は天山山脈周辺の乾燥化が進んだことを示していると考えられる.以上の結果から,完新世中期に起きた気温の変動パターンの変化と山岳域での草原の拡大,乾燥度の増大という環境変化が,天山山脈への民族の移入を促した可能性がある.